なぜ、UCCは「食べるコーヒー」を開発したのか 初年度の1.5倍を売り上げた理由

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2025年09月30日 07:21  ITmedia ビジネスオンライン

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UCCの食べるコーヒーが人気

 UCC上島珈琲(神戸市)の「YOINED(ヨインド)」が話題だ。「飲む」ではなく、「食べる」コーヒーという新たなスタイルで、販売のたびに完売が続いている。2024年の販売数は初年度の1.5倍に達し、今冬も第3シーズンを予定している。新しいコーヒー体験が、なぜこれほど支持されるのか。


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 YOINEDの見た目は、チョコレートのようだが、カカオ豆は一切使用していない。凍結粉砕したコーヒー豆とコーヒーオイルを植物油脂でコーティングした、これまでにない「食べるスタイル」のコーヒーだ。


 2023年11月から期間限定で販売し、2024年も同時期に展開。夏場は商品が溶けやすいため、冬から春にかけての限定販売としている。価格は6枚セットで2700円。コーヒー豆配合量40%の「CRAZY BLACK」と、15%の「MELLOW BROWN」を、それぞれ3枚ずつ詰め合わせている。


 商品名は、コーヒーを飲んだ後に感じる「余韻(よいん)」に由来する。最大の特徴は、口に入れて噛(か)んだ瞬間に広がるコーヒーの香り、喉から鼻腔に抜ける香りの余韻である。


 EC推進室室長兼YOINEDプロジェクトマネージャーの小坂朋代さんは「飲むコーヒーでは味わえない豆本来の甘み・酸味・苦味をダイレクトに感じられ、香りの余韻を味わえる」と語る。


●原点は「コーヒー豆を全部食べたい」


 YOINEDの開発は、研究員の「コーヒー豆を丸ごと食べることはできないのか」という素朴な疑問がきっかけだった。通常、コーヒーは、豆から湯や水で抽出して楽しむ。豆の抽出液であるため、いわば“薄まった”ものを飲んでいるともいえる。


 さらに、香りも豆を挽(ひ)いた瞬間からどんどん劣化してしまう。挽いた直後が最も香り高いため、それを持続させられないかという問題意識があった。


 UCCのコーヒー研究開発施設「イノベーションセンター」は、20年前からこの問題意識を受け継いできた。そして技術の進歩に合わせて、多様なアイデアを蓄積してきた。


 YOINEDを生み出すヒントとなったのは、チョコレートの製造工程だ。カカオ豆とコーヒー豆は、硬さや産地、独特の香りなど共通点が多い。「カカオをコーヒー豆に変えたらどうなるのか」という発想につながり、コーヒー豆を抽出するのではなく、丸ごと粉砕して香りとともに閉じ込める独自製法を確立した。


 しかし、コーヒー豆は油脂を多く含み、硬い。通常の粉砕では細かくできず、口の中でざらつきが生じる。さらに、挽く際に熱がかかるため、酸化や空気との接触によって香りが失われる問題もあった。


 これらの課題を解決したのが、マイナス196度での凍結粉砕だ。凍結しながら粉砕することで、コーヒー豆をより細かく滑らかにし、香りの損失も防いだ。焙煎豆の約15%を占めるコーヒーオイルと植物油脂、砂糖などと混ぜ合わせて成型する製法技術で、2021年3月に特許を取得した。


 「コーヒー豆を抽出せずに丸ごと使っているからこそ、味と香りが濃い」と小坂さんは語る。同社の調べによると、豆をそのまま使用する製法により、YOINEDは飲むコーヒーより食物繊維が約6倍多く、カフェインは約5分の1に抑えられているという。


●5日で年間目標を達成


 YOINEDは発売時から話題となり、初年度の売上目標をわずか5日で達成。同商品を扱うUCCの直営店では、列を作る客の姿も見られた。1シーズン目、ECサイトで販売を再開するたびに、約2時間で完売した。


 2シーズン目となる2024年も好調で、ECサイトでは予約開始日の売り上げが前年の3倍を超えた。シーズンを通した販売数も前年比1.5倍に達した。


 ヒットの要因を小坂さんは、「商品の価値を香りに絞ったこと」だと分析する。「飲む時よりも香りを強く感じられる」という訴求が消費者の興味を引いた。


 ネーミングでも同様の判断を貫いた。「イートコーヒー」という名称も検討したが、食べることではなく香りの余韻こそが真の価値と判断し、YOINEDに決定。この一貫した価値設計がヒットにつながった。


 当初は「食」への感度が高い層をターゲットにしたが、実際はコーヒー好きが強く反応した。「コーヒー好きの新しいものを求めるニーズを刺激できた」と小坂さんは手ごたえを語る。


 2シーズン目は、パッケージをダークトーンに変更したことで40〜50代男性の購入者が増え、男性比率が10ポイント上昇した。一方、バレンタインシーズンにはプレゼント需要で女性購入者も増えるという。また、「おつまみコーヒー」として日本酒やウイスキーとのマリアージュも提案し、晩酌シーンという新たな市場開拓も図っている。


 購入者からは、「脳がバグる」という声が多く寄せられている。見た目はチョコなのに、味と香りはコーヒーというギャップが、消費者に驚きや混乱を与えているようだ。


●ブランドを「正しく理解してもらう」


 2025年冬からは、3シーズン目の販売を予定している(詳細は非公開)。1シーズン目はエチオピア産のコーヒー豆、2シーズン目はタンザニア産キリマンジャロAAを使用した。


 課題は、商品の正しい理解を促進することだ。見た目から、どうしても「コーヒーチョコ」と誤解されやすい。そこで、これまで同様に販路は直営店とECサイトに限定する。「新しいコーヒーのカテゴリーを作っている段階。販路を広げると誤解されて伝わる可能性がある」と小坂さんは語る。


 加えて、コーヒー豆の市場価格高騰も懸念のひとつになる。異常気象により主要生産国での生産量が不安定となり、2025年上半期のコーヒー豆価格は、過去35年で最高水準に達した。安定的な供給体制の構築も、重要な課題となりそうだ。


 UCCは創業以来、コーヒーの研究を重ねてきた。YOINEDは、その取り組みから生まれた商品だ。小坂さんは「コーヒーの新しい可能性を見つけ出し、伝えていくことが役割」と話す。


 YOINEDは、コーヒーにあまりなじみのない人や苦手な人でも、豆の味わいに触れられる商品として開発された。実際に「コーヒーは苦手だがYOINEDなら食べられる」という声もある。「砂糖や油脂が入っているため、苦味以外の風味も感じられるのが特徴」と小坂さんは説明する。


 同社はコーヒーの健康成分に着目した機能性表示食品「&Healthy」も展開するなど、研究を生かした多角的なアプローチを続けている。YOINEDのような新カテゴリーだけでなく、コーヒーがもつ可能性を広げる提案を今後も進めていく考えだ。


(カワブチカズキ)



このニュースに関するつぶやき

  • そう言えばコーヒー豆をチョコレートでコーティングしたチョコがあったなぁ。あんな感じだろうか?
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