霊長類の“若返り”に成功か? サルにヒト幹細胞を注入→老化の逆転現象 中国チームが発表

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2025年10月20日 12:11  ITmedia NEWS

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 中国の首都医科大学や中国科学院などの研究者らがCell誌で発表した論文「Senescence-resistant human mesenchymal progenitor cells counter aging in primates」は、特殊な幹細胞を使ってサルを若返らせることに成功したという研究報告だ。


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 老化が進むと、体の中で幹細胞の働きが弱まり、組織の再生能力が落ちていく。そ結果、神経の衰えや生殖機能の低下、心臓や血管の病気など、さまざまな加齢関連の問題が起こる。これまでにも幹細胞を補充して老化を食い止める試みは行われてきたが、霊長類で本当に効果があるのかははっきりしていなかった。


 研究チームが注目したのは、 ヒト間葉系前駆細胞(MPC)という細胞だ。この細胞は炎症を抑える力が強く、すでに関節炎や卵巣機能不全などの治療に使われている。しかし問題があった。老化した体は炎症が強く、酸化ストレスも高いため、移植した細胞がすぐにダメージを受けてしまう。


 そこで研究チームは遺伝子操作によって、老化や悪環境に強い特別な細胞を作り出した。「FOXO3」という遺伝子を強化することで、細胞の抵抗力を高め、「老化抵抗性間葉系前駆細胞」(Senescence-Resistant mesenchymal progenitor Cell、SRC)というヒト幹細胞を開発した。


 実験では、人間の60〜70代に相当する年老いたマカクザル(カニクイザル)にこの特殊な細胞を44週間にわたって静脈注射した。その結果、10の主要な生理学的システムと61種類の組織において、老化の主要なマーカーを逆転させた。


 組織分析では脳萎縮や骨粗鬆症、線維症、脂質蓄積といった加齢関連の変性状態の減少が明らかになった。細胞レベルでは、老化細胞の数を減少させ、炎症を抑制し、神経組織や生殖組織における前駆細胞の集団が増加。さらに、精子生成を刺激し生殖機能が改善された。


 分子レベルでは、SRCはゲノムの安定性を高め、酸化ストレスへの応答を改善し、タンパク質恒常性を回復させた。検査された組織の50%以上で、老化関連遺伝子発現ネットワークが若い状態に逆転。単一細胞解析では、末梢血細胞で33%、海馬で42%、卵巣組織で45%という顕著な加齢関連遺伝子発現プロファイルの逆転が明らかになった。


 機械学習ベースの老化時計による推定では、未成熟神経細胞の生物学的年齢が6〜7年、卵母細胞が5年若返ったとされた。


 このような効果だけでなく、安全面でも有力で、有害な副作用(発熱、免疫過剰反応、体重減少など)は検出されず、組織損傷や腫瘍もできなかったという。


 Source and Image Credits: Lei, Jinghui, et al. “Senescence-resistant human mesenchymal progenitor cells counter aging in primates.” Cell, vol. 188, no. 18, 2025, pp. 5039-5061.e35, doi:10.1016/j.cell.2025.05.021.


 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2



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  • 中国は今でも神仙思想が息づいているんやなぁ。
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