“眠りを変える指輪”が人気 国内1位「ソクサイリング」は世界の競合にどう挑む?

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2025年10月24日 07:20  ITmedia ビジネスオンライン

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「スマートリング」市場が伸びている

 「スマートリング」の需要が世界的に高まっている。調査会社のFortune Business Insights(フォーチュン・ビジネス・インサイト)によると、世界のスマートリング市場規模は、2024年に3億4090万ドル(約500億円)と推定。2032年には、25億2550万ドル(約3700億円)に拡大すると予測されている。


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 国内市場も右肩上がりで、富士キメラ総研によると、2028年の市場予測は2022年比で4.7倍の33億円に。新たな文化形成の幕開けである「黎明期」と評価されている。


 この市場で、国内シェア1位(※)を獲得しているのが、スマートリングを手掛けるSOXAI(ソクサイ、横浜市)だ。スイス連邦工科大学、清華大学、東京大学などの研究機関出身の工学博士4人を中心に、2021年に創業した。


(※)スマートリング関連アプリにおける日本国内ダウンロード数において(App Store/Google Play 合算値・調査期間:2022年1月1日〜2024年12月31日・AppMagic調べ)


 同社が販売する「SOXAI RING(ソクサイリング)」は健康管理に特化した製品で、運動や睡眠などのデータからコンディションを把握し、改善に役立てるのが狙いだ。医療機器の認証は受けていないが、同社副社長の光頼篤樹氏は「データの精度は医療機器と同水準」だと主張する。


 一方、世界市場で最も高いシェアを持つのは、フィンランド発のOura Health Oy(オーラ・ヘルス・オイ、以下オーラ)が2015年に発売した「Oura Ring(オーラリング)」だ。ソクサイリングと同様に健康管理に強みがあり、累計販売数は550万個を突破した(2025年9月時点)。


 なぜ、世界的にスマートリングの需要が高まっているのか。ソクサイは世界の競合とどう戦っていくのか。光頼氏に取材した。


●競争が激化する「スマートリング」市場


 冒頭で、世界のスマートリング市場規模は2024年に約500億円と紹介したが、ソクサイの試算では「もっと大きい」という。


 「当社では、世界市場で約80%のシェアを持つ『オーラリング』の数字を指標としています。オーラ社は2024年の年間収益が5億ドルを超えたと発表しており、ここから逆算すると市場規模は1000億円弱です。2025年は年間10億ドルの売り上げを達成する見込みで、市場規模は約1800億円に倍増すると考えられます」(光頼社長)


 市場拡大の背景には、参入企業の増加に伴う「多機能化」やスマートリングの「認知拡大」があるという。機能面では、健康管理にとどまらず、NFC搭載による非接触決済やスマートキー、音声アシスタントなど利便性が大きく向上している。健康管理に特化した製品と、決済やアクセスに特化した製品で、市場は二極化しつつある。


 調査会社IDCによると、圧倒的首位のオーラリングに続くのが、2019年にインドで創業した「Ultrahuman(ウルトラヒューマン)」で、世界シェアは約12%に達するという(2023年)。同製品も健康管理に特化しており、2024年10月から「Ultrahuman Ring AIR(ウルトラヒューマン リング エア)」を日本で販売している。


 直近の動きでは、オーラがウルトラヒューマンや香港に本社を構えるRingConn(リンコン)と争っていた特許侵害訴訟で勝訴したことが業界で話題に。米国際貿易委員会(ITC)は、ウルトラヒューマンとリンコンに対し、米国におけるスマートリングの輸入・販売を禁止する排除命令を下した。これにより、2社の製品は10月22日以降、米国で販売中止となった。結果、オーラの優位性が高まると予想される。


 「ウルトラヒューマンは、数年で急激にシェアを伸ばしています。同社やGalaxy Ring(ギャラクシーリング)を販売しているサムスンなどは、コストをかけてプロモーションをしている印象で、それに後押しされてオーラも投資額を増やしていますね。競争が激化した結果、世間でのスマートリングの認知度が大きく向上したと思います」


●「ソクサイリング」は“睡眠”に注力


 世界的にスマートリングへの期待が高まるなか、国内ではソクサイリングが人気を集めている。しばらく自社ECストアのみで販売していたが、2025年2月からは家電量販店の一部店舗で、4月末からは全国2200店舗以上のドコモショップでも販売を開始。2025年9月末時点で、4万5000個を販売している。


 同製品は、光学式心拍センサー、血中酸素レベル(SpO2)測定用センサー、皮膚温度センサー、加速度センサーなど最先端のセンサーを搭載しており、「体調」「運動」「QoL」のスコア、「ストレスレベル」「月経周期」を算出できる。5種類のカラーがあり、価格は3万5980〜3万9980円だ(2025年10月時点)。


 ソクサイでは、創業時から「健康管理」のためのスマートリングを追求してきた。同時に、NFC決済機能を搭載する開発も進めていたが、セキュリティ条件の整備や法規制への対応などの課題に直面し、2025年5月に「現時点での実装を見送る」と発表。「スマホでできることは削ぎ落として、ヘルスケアに特化する」という方針に立ち返ったところだ。


 製品は何度かアップデートを重ねており、2025年4月末に最新バージョンの「ソクサイリング 1.1」を発売。データ通信速度を強化してハードウェアの安定性を向上させたほか、各種分析結果を可視化するアプリのデザインを大幅に変えて、見やすくした。


 「ソクサイリングは、バイタルセンシング技術でいえば大手競合と横並びの精度ですが、アプリのUI・UXではもう一歩というところでした。今回のアップデートでは、そうしたギャップを埋め、ユーザー体験の向上を目指しました」


 特に注力しているのは「睡眠」の分析だ。睡眠学に基づいた7つの指標で独自のスコアリングを実施している。「睡眠効率」や「睡眠負債」のほか、日中の脳の活動状態や意識のレベルを指す「日中覚醒度」や「睡眠時無呼吸の傾向」「体内時計グラフ」など多様な分析を提供する。


 「当社のユーザーが求めているのは、圧倒的に『睡眠分析』です。アプリでは、計測結果の可視化に加え、生成AIを活用した睡眠改善のアドバイスも提示しています。継続して使用すると行動が変わり、睡眠時間が伸びたり、深い睡眠が増えたりする傾向が見られます」


●世界の競合と、どう差別化を図るのか


 ソクサイリングは国内でトップシェアを誇るとはいえ、世界の競合も日本市場で存在感を増してきている。家電量販店では、各社のスマートリングが横並びで展示されているような状況だ。ソクサイでは、どのように製品の価値を高めているのか。


 「差別化として、まず意識したのが本体デザインです。表面加工やカラーリングをシチズン時計マニュファクチャリング社と協業していて、光沢のギラギラ感を抑えるなど日本人の生活になじみやすいよう工夫しました。特に、ピンクゴールドやマットの色味は他社との違いが分かりやすいはずです」


 スマートリングの小型化には技術的な限界があり、結果として、知名度の高い企業はどこも似たようなサイズ感に落ち着いている。そのためきゃしゃなデザインを求める女性には選ばれにくいというが、これは他社も同様の課題だ。


 価格帯は、オーラリング(5万2800〜7万4800円)やウルトラヒューマン リング エア(5万9800円)と比較して、ソクサイリングは1万〜3万円ほど安い。オーラはとにかく多機能でアップデートの頻度も高いが、分析結果をフル活用する場合、月額999円、年額1万1800円の利用料がかかる。その点、ソクサイリングは全機能を無料で使えるため、これも差別化となる。


 利用者層でいうと、オーラリングは30〜40代の男性が目立ち、ブランディング戦略が功を奏し、“ステータスとして”装着する人も少なくないという。一方でソクサイリングは、睡眠の悩みや健康診断の数値が良くないなどの健康課題を抱える40〜50代の男性がボリューム層になるそうだ。


 「オーラリングは欧米で高い支持を得ているので、当社ではアジア圏で勝負したい思いがあります。とはいえ、まず注力するのは国内市場で、日本人が持つ睡眠課題の解決を目指します。実際にユーザーの意識や行動を変えていくには、アドバイスの精度を高めるだけでなく、ソリューションの提供も重要です。寝具やサプリ、目覚ましデバイス、クリニックとの提携など、方法は多岐にわたります。


 そうしたソリューションと組み合わせながら、ソクサイリングで計測して、状態を理解して、改善を図るという良い循環を作っていきたいですね。同時に、臨床試験の結果を論文で示すなど、エビデンス構築にも取り組んでいく考えです」


 ブランドが確立しているオーラは手強い競合だが、唯一の国産スマートリングであり、日本市場向けの開発に集中できるのはソクサイの強みと言える。販売先の拡大や医療機関との提携などが進めば、国内での立ち位置がより強固になりそうだ。


(小林香織、フリーランスライター)



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