
「病気や骨折をきっかけに突然家族の介護が必要になるのはよくあること。リハビリ代や介護費用を試算しておらず、金銭的に苦しくなった場合、通院を減らして病状が悪化するケースも。預金が底をついて、生活保護を受けたり自己破産してしまう人もいます」
制度を知らずに陥る介護破産の罠
そう話すのは、介護施設経営者で、東京都江戸川区の介護認定審査会委員として活動する河北美紀さん。自身も8年にわたり父親の介護を続けた経験から、介護におけるお金の大切さを訴える。
「とにかくお金さえあればなんとかなる場合が多いです。市区町村からもらえる手当や保障がありますが、役所が大々的に告知をしたり、“もらい忘れています”とは言ってくれず、情報を自分で取りにいかねばならないのが現状。
介護を受ける方が自ら調べるのは難しく、介護をする配偶者や子どもが制度を知っているかどうかで、“介護破産”のリスクは下げられます」(河北さん、以下同)
河北さんに寄せられた相談の実例から、得られる支援についてひもといてみよう。
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定年退職し妻とふたり暮らしのNさん(77歳)は、ある日脳梗塞で倒れ救急搬送される。左半身麻痺と重い障害が残り、要介護4に認定。もともと糖尿病だったNさんは定期的な通院に加え、利用限度額いっぱいに介護サービスを使うことに。
生活は苦しくなり、デイサービスも通院もすべてやめてしまう。そして、Nさんは数か月後に亡くなったそうだ。
「要介護4で自宅介護という点から、実は2つの手当を申請することができました。1つはお住まいの市区町村による介護手当です。江戸川区の場合は60歳以上の非課税世帯で、要介護4以上の在宅介護を対象に月額1万5000円が支給されます。
そして月額2万9590円が支給される特別障害者手当の要件も満たしていたと思われます。所得判定と医師の診断書が必要ですが、要介護4以上から対象になるケースが多いです」
ほかにも申請対象となる制度があった可能性も。
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「通院にかかる医療費は、非課税世帯の場合、自己負担の限度額は月8000円です。もし窓口でそれ以上支払っていたなら、高額療養費の支給申請を行うことで医療費が返ってきた可能性があります。
要介護4の介護サービス利用額は月約3万円、通院(外来)は月8000円が支払いの上限。Nさんの家計を圧迫していた介護費・医療費計3万8000円は、2つの手当の4万4590円でカバーできたかもしれません」
介護保険料の滞納で3倍負担のリスク
手当を受け取れれば、状況は変わったかもしれない。どんな介護制度があるのか知っておくことが大切。
「お金としてもらえる手当は国による特別障害者手当のほか、市区町村が給付する介護手当があります。介護手当は前提として全市区町村が行うものではありませんが、半数以上は支給していて、もらい忘れもあるでしょう。
というのも市区町村によって手当の名称が“介護家族慰労金”や“熟年者激励手当”などバラバラなんです。これでは何の手当かわからず、受給漏れの可能性があります。この市区町村の手当は介護度によって要件が決まっているため、受給資格がわかりやすいです。まずはすぐに調べてみましょう」
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一方で、国による特別障害者手当も、対象者数は多いのに受給者が少ないと河北さんは感じている。これは障害者手帳の有無にかかわらず受給でき、在宅介護を続ける家庭が対象となる給付金である。
「介護手当よりも受給までのハードルはやや高いです。医師の診断書が必要で、受給資格にも明確な介護度などの基準はありません。おおむね要介護4以上であれば受給できる可能性があるでしょう。
そして在宅介護に励む方への手当なので、施設入所になった場合は支給が止まります。ただし老人ホームにも種類があり、施設ではなく高齢者専用マンションなど住宅扱いの場合は引き続きもらえることもあるので、役所に確認してみましょう」
“介護破産”を免れるためには、手当などは何があるか調べ、もらえるものはしっかりもらうこと。だが、その前に注意すべき点も。
「介護保険料の払い漏れをしないことです。通常は年金から保険料が天引きされますが、年金支給額が少ない場合は天引きされないんです。
その場合は納付書が届きますが、高齢者は払い忘れたり放置してしまうことがある。納付を2年延滞すると、通常は1割負担で介護サービスを受けられるはずが、3割負担から4割負担になるケースがあります」
親のために子どもができること
そして、親の介護のために子どもが離職しないことも重要だ。
「将来の自己破産リスクにつながる可能性があるため注意が必要です。理解しておきたいのは、“親の身体介護”は国が定める義務ではないということ。子どもに課せられた義務は、親が生活に困ったとき、自分が可能な範囲で金銭的な援助をすることなんです」
抱え込まないことが大切だが、介護に悩んだとき、まず相談するところは?
「地域包括支援センターです。ここには保健師、主任ケアマネジャー、社会福祉士という専門職員が必ずいるので、あらゆる方面からのアドバイスを受けられます。
そしていろいろな事例を扱うので、例えば介護のイライラで虐待してしまうなどの相談も受けています。相談員が内容により適切な施設や団体に引き継いでくれますし、ケアマネジャーなども紹介してくれます」
お金や手当のことでわからなければ、市区町村の役所に連絡を。
「“介護状態なので、何かお金の手当はないですか”とお金という言葉を具体的に伝えて相談するとスムーズです。自分自身や家族の状況を、できるだけ詳しく伝えましょう」
教えてくれたのは…河北美紀さん
2013年に株式会社アテンドを設立し代表取締役に就任。高齢者リハビリデイサービス「あしすとデイサービス」や訪問介護「あしすとヘルパーステーション」を開所する。現在は介護施設経営に加え、東京都江戸川区の介護認定審査会委員として活動
取材・文/植田沙羅

