
安倍元総理を銃撃し、殺害したなどの罪に問われている山上徹也被告の裁判が始まりました。裁判を前に取材に応じた被告の母は「私が母親じゃなかったら」と複雑な心境を語りました。
【写真を見る】独自取材、母親とのやりとりを記録した取材ノート
あの日から約3年、ようやくはじまった裁判裁判長
「名前は?」
山上徹也被告
「山上徹也です」
事件から3年あまりを経て、ようやく開かれた初公判。山上徹也被告(45)は、白髪混じりの髪を後ろに結び、出廷しました。
2022年7月、近鉄・大和西大寺駅前でマイクを握る安倍晋三・元総理(当時67)。参議院選挙の応援演説で奈良を訪れていました。
しかし2発の銃声がとどろき、安倍元総理の命は絶たれました。
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山上被告(取り調べに対し)
「母親が旧統一教会にのめりこみ、多額の献金をして破産した」
山上被告は、取り調べの中で「母親が旧統一教会に献金し、家庭がめちゃくちゃになった」と供述するなど、旧統一教会に恨みがあり、安倍元総理が旧統一教会の関連団体にビデオメッセージを寄せていたことから、殺害を決意したとみられています。
山上被告の人生に大きな影響を与えたのが、旧統一協会に心酔し、多額の献金を行っていた母親の存在です。
裁判を前に、奈良県内に住む被告の母親がJNNの取材に応じました。
旧統一教会に入信したきっかけは、夫の自殺と、山上被告の兄にあたる長男の難病で、たび重なる家族の不幸に苦しめられていたと話します。
山上被告の母親(取材ノートより)
「(長男は)命に関わる病気だったから、右目の失明とか、頭の開頭手術とか、なぜ、私の子どもをって。自分の生き方が、どうなんだろうって」
「じゃあどうしたらいいのかを解き明かしてくださったのが、メシア(=救い主)なんです」
母親は多額の献金について、今どう思っているのでしょうか。
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山上被告の母親
「お金のある人はたくさんすればいいし、ない人は別に少しでもいいけど、私の場合はちょっと考えずに(献金を)やりすぎてしまった」
一方で、事件が起きたのは「献金だけが原因ではない」とも話します。
山上被告の母親
「あの子の心のほんとうは、多分それじゃないと思います。なんというか、愛の問題だと思う。家族での愛の問題。申し訳ないと思っていますよ。私が母親じゃなかったら、ここまで追い詰めなかったのになと思いますよ」
記者
「ずっと信仰してこられたにもかかわらず、事件が起きました。信仰が報われなかったとは思いませんでしたか?」
山上被告の母親
「宗教自体がそうですけど、何か起こったことに対して常に自分を振り返るというかね、なぜかっていうのは自分に原因があるって見ていくので」
記者
「安倍元総理が亡くなられたことに対しては?」
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山上被告の母親
「申し訳ないと思っています」
母親に、山上被告に会いたいか尋ねると、一言「会いたいです」と答えましたが、事件の後、旧統一教会への信仰心が「より強くなった」と話しました。
「育った環境は児童虐待にあたる」弁護人は情状酌量求める構えそして、2年にもおよぶ公判前整理手続きを経て迎えた初公判。
山上徹也被告
「すべて事実です。私がしたことに間違いありません。法律上どうなるかは、弁護人の主張に委ねます」
山上被告は罪状認否で、起訴内容をすべて認めました。
弁護人は、「母親が自殺した夫の生命保険金などをつぎ込み、億単位の献金を行うなどしたため、旧統一教会にのめり込む母親と、被告の兄や祖父が激しく対立し、家族は分断を深めていた」と指摘しました。
そのうえで、「徹也さんが生まれ育ってきた環境は児童虐待にあたる」として、こうした主張を宗教社会学者への証人尋問などを通じて立証し、情状酌量を求めていく構えを見せました。
一方、検察は冒頭陳述で…
検察官
「元総理大臣、現役の国会議員が白昼堂々、大勢の聴衆が見守る中で、手製の銃で殺害されたという、戦後史に前例を見ない極めて重大な結果をもたらした」
そのうえで、母親の旧統一教会への信仰が事件の背景にある点は認めつつも、被告の動機や犯行を厳しく糾弾しました。
検察官
「被告が失望感や挫折感、不遇を自己責任とみなされる憤りがつのり、それらを母親が所属する宗教団体に向けようと考え、事件に至った。不遇な生い立ちを抱えながらも、犯罪に及ばず生きている人も多くいる。生い立ち自体は、被告に対する刑罰を大きく軽くするものではない」
裁判は初公判を含め計16回行われ、山上被告の母親や妹も証人として出廷する予定です。判決は2026年1月21日に言い渡されます。
事件の背景にあるものは“宗教”だけか小川彩佳キャスター:
山上被告の母親は「献金だけが原因ではない。事件の後、旧統一教会への信仰心がより強くなった」と取材に答えているということです。
小説家 真山仁さん:
「自分の信仰が足りなかったから息子が事件を犯した」というのは、信者の方、宗教に強く帰依している人が、そういう発想をされる場合はあると思います。
私がひとつ気になるのは、事件が起きたときの背景です。つまり本当に宗教だけの問題だったのか。今の日本の政治を見ていると、何となく政治が混乱し始めるきっかけの頃が、あの事件の頃かなというのがあります。
長い間ずっと彼の中にあった鬱屈が弾けたトリガーは、それ(宗教)だけだったのか、というのはずっと考えています。何かもっと他の因子があって、複雑なものが絡んで起きた事件で、社会的に必然だったのではないかというような。
あれからずっと日本の政治は、普通では考えられないサプライズが次々起きています。
だからそういう意味では、メディアが(事件を)宗教や旧統一教会だけのせいにするのは、まだ早いのかなという気がしています。
小川キャスター:
複合的に繋がっている一つ一つを、丁寧に紐解いていこうという姿勢も必要ですね。
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<プロフィール>
真山仁さん
小説家 2004年「ハゲタカ」でデビュー
近著に政治家のリーダーシップを描いた「アラート」
