「佐賀県庁を木っ端みじんにしてもいいですか」→県庁の方「いいですよ!」 映画『ゾンビランドサガ』総監督・宇田鋼之介が語る制作秘話

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2025年11月01日 18:00  ねとらぼ

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(C)劇場版ゾンビランドサガ製作委員会

 2025年10月24日より劇場版『ゾンビランドサガ ゆめぎんがパラダイス』が公開中。同作は2018年と2021年に放送された、ゾンビィとしてよみがえった少女たちが佐賀県のご当地アイドルと活動する衝撃的な内容で人気を集めたテレビアニメの劇場版。ここでは、総監督を務めた宇田鋼之介へのインタビューをお届けしよう。


【動画】映画の予告編を見る


※※※以下、決定的なネタバレは避けつつ、『ゾンビランドサガ』のテレビシリーズおよび、『ゆめぎんがパラダイス』の一部内容に触れています※※※


総監督としての仕事は「バックアップ」だった

──『ゾンビランドサガ』シリーズは8歳の甥っ子と4歳の姪っ子がハマっていて、姪っ子は純子ちゃんが「かわいいしうたごえがカッコいい!」ということで大好きみたいなんです。


宇田鋼之介(以下、宇田) それはうれしいです。でも、(ゾンビの顔が怖かったり)小さな子が見てもいいのかなと心配もしてしまう部分もありますが(笑)。


──姪っ子は、第1話の冒頭のあのシーンで「ひだりみぎちゃんとみないとダメだよ!」と言ってて、教育上もいいような気がしましたよ。それはともかく、劇場版『ゾンビランドサガ ゆめぎんがパラダイス』めちゃくちゃ面白かったです! 宇田さんはテレビシリーズにも関わっていらっしゃいましたが、今回は総監督としてどのような仕事をされたのでしょうか。


宇田 基本的には佐藤くん(佐藤威監督)と石田くん(石田貴史監督)に全面的にやってもらいました。ただ、おふたりとも劇場アニメの監督が初めてでしたから、自分は「バックアップ」側に回ろうと務めていましたね。 「自分の中では経験上、これはこうした方がいいよ」とアドバイスをしたり、「先手を打った」こともありました。その上で、思う存分やってくれたほうが本領発揮できる、絶対に面白いものができると確信していました。


── 先手を打ったというのは、具体的にどのようなことなのでしょうか。


宇田 カメラワークのこだわりが提案されれば、スタッフのみんなの前でテーブルに出して、「どういうふうにしたら実現するのか」と話し合うといったことですね。僕自身が失敗したことがいっぱいあったので、できれば同じ苦労はしてほしくなかったんです。


 また、本来であれば僕も絵コンテに参加する予定があったのですが、シナリオ会議のときよりも大作になりすぎちゃったこともあって、その絵コンテの部分は書き始める前から削られていました。僕もある程度は演出を手伝ったものの、結果的にはやっぱり佐藤くんと石田くんがメインで絵コンテも担当していましたね。


「佐賀県庁を木っ端みじんにしてもいいですか」 県庁担当者のまさかの反応は……

──今回は「ゾンビィVSエイリアン」といえるような、大作のSF映画のような内容となりましたが、脚本家の村越繁さんなど、他スタッフとはどのような話し合いがされたのでしょうか。


宇田 正直に言って、最初にスタッフのみんなで集まったときに「何から手をつけていいか分からなかった」んですよ。何しろ「テレビシリーズの続編をやる」「シーズン2の『リベンジ』の最後で謎の宇宙船が出てきちゃったけど、あれのケリをどうやってつけるんだ」っていうところからのスタートでしたから(笑)。それ以外はほぼ何にもない、ノープラン状態でした。


 とにかく、「何か足掛かりみたいなものを探さないと、プロットもできない、話が作れないんじゃないの」っていう話もあって、スタッフみんなで2日間かけて佐賀中をロケしたりしたんですよ。その中で、佐賀県立宇宙科学館《ゆめぎんが》を見つけてきたので、あらためて宇宙船や宇宙人が出てくる方向性がまとまっていきましたね。


── 『ゆめぎんがパラダイス』というタイトルも、その宇宙科学館から取られているんですね。


宇田 はい。初めこそ「あ、ゆめぎんがってあるんだ。じゃあ、もう宇宙で行こう」っていう雑な感じだったんですけど(笑)、設定制作のスタッフが入念に調べてくれましたし、あらためてのロケのおかげで「武雄温泉」や「メルヘン村」などの実際の場所を映画で取り入れることができましたね。


──今回は「宇宙人侵略もの」であり、いろいろな建物が盛大に破壊されちゃうことも見どころではありますね。


宇田 佐賀県庁の方に「県庁を木っ端みじんにしますけどいいですか?」と聞くと、県庁の人が「いいですよ!」って、いい笑顔で返してくれましたね(笑)。


── おおらかな許可ですね(笑)。


宇田 他にも劇中では佐賀に実際にある「自由の女神像」や「モアイ像」や「エッフェル塔」が出てきますけど、予告編が出ている段階で、早々とそうした場所を特定してる方もいて、ファンはすごいなと思いました。


既存の映画から離れて「ワラスボ」を参照した

──宇田さんは練馬区のPRアニメ『タイムカプセル+』のインタビューで、小学生のときに見た『スター・ウォーズ』の映像に圧倒された、『ジョーズ』の台詞を全部覚えるほど影響されたとおっしゃっていましたが、今回の劇場版『ゾンビランドサガ ゆめぎんがパラダイス』でも参考にされた映画はありますでしょうか。


宇田 ないと言えばウソになりますけど、意図的に既存の映画のネタを入れたりする部分はほとんどなくて、逆にそこから「離れよう」ともしていたんです。


──そうなんですね。見ている側としては、シチュエーションは『宇宙戦争』っぽくもありますし、宇宙人が音に反応することは『クワイエット・プレイス』も思い出したりもしました。


宇田 目の見えない怪物が音に反応するっていうのは、映画ではなく「ワラスボ」という、佐賀の干潟にいる奇妙奇天烈な魚から影響を受けているんです。ワラスボは目はあるにはあるんですけど、ほとんど見えてないんですよね。


──ワラスボは見た目が映画の『エイリアン』に似てると言われていますね。(筆者注:第2シーズンの『リベンジ』 の第6話の競艇レースシーンで「ワラスボターン」が披露されており、峰竜太選手によるワラスボターン実演動画も公開されていました)


宇田 そうですね。だからこそ、最初にエイリアンと戦う話が出てきたときに、ワラスボがやっぱり浮かんだんです。やはり、映画よりも佐賀にあるものからアイデアを得ていますね。


──宇宙人と宇宙船の見た目はオリジナリティーを感じさせました。


宇田 宇宙人や宇宙船の造形、さらには佐賀万博の会場のデザインは、フランス出身で日本でも活躍されているアートディレクターのロマン・トマさんにお願いしたんですよ。


 既存の映画から離れようとしたのは、それらのデザインにもあったかもしれません。初期の段階でいろいろな方に案をもらったりしたんですけど、それらはやっぱり僕らが想像する「メカメカしい宇宙船」だったんです。そこから「宇宙のテクノロジーなんだから、地球の概念を持ち込むのをやめよう」「機械的なものより有機的な感じがいい」という話し合いをしたり、監督の石田くんからは「T字カミソリみたいのが縦に来るのはどうですか?」という提案もありましたね。それらを踏まえてロマンさんにデザインしていただいたことで、オリジナリティーが持たせられたと思います。


──そういえば、映画の冒頭で巽幸太郎がしている変顔の元ネタってあるんでしょうか。


宇田 元ネタはないです。あれは佐藤くんのアイデアで、「質問に答えられません」ということで変顔をしているだけ。意味はないですね。


──意味ないんかい(笑)! でも、それも巽幸太郎らしくていいですね。


宇宙人に感情移入をさせてはいけないと思った

──『ゾンビランドサガ』は全体的にコミカルでかわいい作風だと思うのですが、今回の映画の宇宙人の見た目や動きは、いい意味で容赦がないほどに気持ち悪かったですね。


宇田 その気持ち悪さにはちゃんと意図があります。そもそも『ゾンビランドサガ』という作品はそもそもがぶっ飛んだ設定ですが、テレビシリーズを含めて、ストーリー部分ではけっこうリアルなことをやっているんですよ。キャラクターの内面だったり、アイドルとしてのアイデンティティだったり、ときにはすれ違いによるケンカがありますからね。


 そういった部分が『ゾンビランドサガ』の本質とするならば、「映画での宇宙人との戦いもファンタジーでは済まされないんじゃないの?」っていうのが疑問としてあったんです。どうしたってフランシュシュが活躍して、最終的には宇宙人を退治しなくちゃいけないと考えたときに「宇宙人に感情移入させてはいけない」と思ったんです。


 同じようなことは『ワンピース』でも注意していて、ルフィが敵を殴ったときに、爽快感を持って見られるようにしなくてはならないと思っていました。今回の映画で、敵とは意思疎通ができない、感情移入の余地がないように描くというのは、絶対的な条件だったんですよ。それでこそ、フランシュシュが宇宙人を倒したときに、観客も「わぁーっ!」って一緒に喜べますからね。


──そうですよね。ある種の割り切りとして、敵を倒される存在として定めることも、エンターテインメントとしての正解だと思います。


宇田 ですから、映画の宇宙人を気持ち悪いと思ってくれたのであれば、僕ら的には成功したと思ってます。


フィクションだけど現実も参照している

──映画化に当たってのアプローチで、これだけは決めていたということはありますか。


宇田 テレビシリーズの続編で、ファンムービーに徹するのか、それともストーリーをしっかり成立させるのかとスタッフと話し合ったときに、「やっぱりストーリーをしっかり成立させた方が良いね」という結論になったんです。もちろんテレビシリーズを見ていればわかるファン向けのネタはどんどん入れているんですけど、宇宙人侵略ものの物語としては、けっこうリアルになった気がします。


── 序盤に「これまでのあらすじ」も説明されますし、テレビシリーズを見ていなくても1つのエンタメ作品として楽しめる内容になっていましたね。


宇田 そういうふうに感じていただけるなら、すごくありがたいことですね。それでも、ゾンビがアイドルをやってるっていう事実を、テレビシリーズを見たことがない人が、どう受け止めるんだろうと心配もしてしまいますが(笑)。


── そのゾンビのアイドルが今回はさらに宇宙人と戦うのですから、確かにぶっ飛んでいますよね(笑) 。それでいてゾンビとアイドルの設定を生かしたアイデアがしっかりありましたし、エイリアンとの攻防戦はリアルに感じてハラハラできました。描写でこだわったことはありますでしょうか。


宇田 例えば宇宙人のメガネをかけると、赤外線的なもので感知していることが分かるシーンでは、実際にサーモカメラを借りてきて撮って参考にしていました。ただ、実際に花火をサーモカメラで撮ったら、ぜんぜんサーモカメラには花火が映らなかったりしたので、そこはウソをついている部分ですね。他には佐賀にこういう危機が訪れたときに、自衛隊や危機管理センターがどう動くのかという部分は、専門家にヒアリングをしました。本編では見えにくい部分かもしれませんが、実は時間をかけて検証しているんです。


──「佐賀が侵略を受けて、他の国はどうなるんだ」みたいな、政治的なことも少し描かれてましたね。やはり大枠の設定はぶっ飛んでいながらも、細部は現実を参照しているからこそ、『ゾンビランドサガ』は面白い作品になっているのだと思い知りました。


宇田 他にも第2シーズンの『リベンジ』の第10話では水害が出てくるのですが、実際に佐賀で起こった水害の日にちとほぼ合ってるんですよ。駅前不動産スタジアムでのライブの日を設定したときに、さかのぼって実際の佐賀の天気を調べていて、前日に小雨が降っていた日に、劇中でも小雨を降らせたりしています。そうしたところでフィクションでありながら現実も描いていますし、佐賀の人たちを鼓舞したいという気持ちもありましたね。


フランシュシュは劇中で「戦いに行っていない」

──今回の映画は、アニメシリーズではしゃべれなかった山田たえが「覚醒」することも物語の焦点になっていますね。


宇田 どういう形でたえが目覚めるかとかは、話し合いのなかでどんどんアイデアが出てきて、決めていった感じですね。


──姪っ子と甥っ子が、あの予告編を見て「たえちゃんがしゃべってる!」ってめちゃくちゃびっくりしたんですよ。


宇田 姪っ子さんと甥っ子さんには『美少女戦士セーラームーン』を見せてあげたらいいかもしれませんね(笑)。


──三石琴乃さんの声が一緒ですからね(笑)。初めこそ宇宙人と戦うのはほぼたえだけでしたが、フランシュシュのみんながそれぞれの個性を生かしてバトルする流れも良かったです。


宇田 でも、実はフランシュシュは劇中で「戦いに行っていない」んですよ。彼女たちは、たえを連れ戻したいだけなんですよね。結果的には宇宙人との攻防戦はありますけれど、それは彼女たちが望んでいるわけではありません。たえちゃんと合流して、たえちゃんの目的も果たされているならば、「とっととここから帰りたい」っていうのが、彼女たちの本音ですから。


 また、サキやゆうぎりは「実戦」の経験があるといえますが、他のキャラクターは「戦おうって言われたって困っちゃうよね」っていう話がシナリオ会議のときにもあったんです。そこは彼女たちの「これまで」もあって活躍ができるようにも気を遣いました。


3種類のたえの全てを、みんなは受け入れている

──おっしゃる通りですね。フランシュシュのみんなが、たえちゃんのことをすっごく大切に思ってるからこその物語になっていました。


宇田 そういうことです。また、劇中では3種類のたえがいます。自我が戻っていないいつも通りのたえと、生前の記憶だけがあってフランシュシュのことをまったく覚えていないたえと、それからテレビシリーズのさくらと同様に、劇中フランシュシュとしての記憶も戻っているたえです。それぞれのたえと、その全てを受け入れてるフランシュシュのメンバーとの関係は、こだわった部分ではありますね。


──ラストに待ち受けていたあの展開で、自分でもなぜ泣いてるのか、うまく言語化できなかったのですが、今のお言葉で、その答えが見つかったような気がします。最後に、『ゾンビランドサガ』という作品への思い入れを、ぜひお聞かせください。


宇田 『ゾンビランドサガ』への思い入れはたくさんあるんですが、自分としてはエンディングの映像に全部ぶっ込んだつもりなんです。分かりにくいメッセージだとは思うのですが、それを具体的にこちらから言ってしまうと、面白くないので、ご覧になる方がどのように受け取っていただいても構いませんので、ぜひ最後まで楽しんでください。


(取材・構成 ヒナタカ)



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