限定公開( 18 )

「今日は、何色のカレーにする?」――シチューのような白いカレー、イカスミを使わない黒いカレー、辛くない赤いカレー。ハウス食品(東京都千代田区)が7月に発売した「3色のカレー」が3カ月で100万個を突破した。カレーといえば茶色が一般的だが、なぜカレーソースの「色」を変えたのか。
2024年8月に「ホワイト」と「ブラック」を期間限定で発売したところ、定番化を希望する声が多数寄せられ、定番商品に格上げ。通年販売を開始した2025年7月から「レッド」を加え、3色のカレーとして販売している(希望小売価格321円)。
開発のきっかけは、家で食べるカレーに対する課題感だった。カレーは、市販のルーを使えば誰でも作れるメニューで、見た目は茶色が一般的だ。
「料理をシェアする機会が増える中、カレーだけ変わり映えがないと感じていた」と、香辛・調味食品事業部チームマネージャーの光安真佐子さんは振り返る。
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一方、外食のカレーにはココナッツカレーやグリーンカレー、真っ赤な激辛カレーなど、多様な見た目のカレーが提供されている。同社は、家庭のカレーにも見た目の変化を加えられる余地があるのではないかと考え、ソースの色に着目した。
●顧客を「価値観軸」で7つに分類
「従来はルウカレーのユーザーが求めるスパイシーさや、コクに応える製品開発をしていた」と光安さんは説明する。しかし、既存ユーザーのニーズに応えるだけでは、新たな需要を取り込めないと判断し、2023年に約4万人を対象に大規模な消費者データを分析した。
分析では、ルウカレーのユーザーに限定せず、調理する人全般を対象に、性別や年代といった属性ではなく、「料理意識」や「食の嗜好(しこう)」といった価値観に基づき顧客セグメントを分類した。
これにより、「手料理こだわり」「堅実食生活」「料理エンジョイ」「タイパ志向」「中食・料理チャレンジャー」「節約志向」「簡単派」という7つのセグメントが浮かび上がった。
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従来のルウカレー購入層は、「手料理こだわり」や「堅実食生活」の層が中心だったが、同社はこれまでアプローチできていなかった「料理エンジョイ」層に注目。この層は、20〜30代女性が中心で、料理や食卓の見栄えを重視し、流行に敏感という特徴があった。
「これまでのターゲット層とは違うセグメントに見合った企画が必要だった」と光安さんは振り返る。この層をターゲットに、食卓の「彩り」と「華やかさ」を演出できるよう、ソースの色味を変えたカレーの開発に着手した。
●色と味の両立に苦戦
しかし、新商品のコンセプトは固まったものの、開発は簡単ではなかった。一般的に、カレーが茶色になるのは、使用するスパイスや素材の影響が大きい。色を変えるには、配合量や素材に手を加える必要があるため、色と味を両立させることに苦労した。
「色を求めると味が成り立たず、味を求めるとイメージする色にならない。多い日には、1回に5〜6種類の試作品を何度も食べることを繰り返した」(光安さん)
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「ホワイトカレー」は、ターメリックなど色付けの効果があるスパイスを極力減らし、白い色を実現。「ブラックカレー」は、焦げる直前まで加熱する製法で深い黒さを引き出した。
「レッドカレー」は、エビパウダーやエビのエキスでえびのうまみを表現しつつ、パプリカやカラメルで赤さを引き立て、米粉で透明感のある艶やかな赤色に仕上げた。
2024年8月にホワイトカレーとブラックカレーを期間限定で発売すると、想定を超える反響があった。特にホワイトカレーには、「子どもが服を汚しても洗濯が楽」など、開発時には想定していなかった声が寄せられた。買いだめする人も多く、「どこで買えるのか」という問い合わせも相次いだ。
SNSでは「次は何色が出るのか」と話題となり、同社はいくつかの候補から、新色として赤を選択。家族で楽しめる「辛くない」レッドカレーを開発した。「赤い色のカレーは、タイやインド系の店でも人気が高い。一方で、激辛やクセのある味が多く、万人向けの風味は少なかった」と光安さんは説明する。
●従来の具材と作り方で見栄えを変える「手軽さ」
通年販売開始から3カ月で、3色合計の販売数は100万個を突破。光安さんは「いつもの具材、いつもの作り方で食卓に彩りが生まれることが評価された」と分析する。
白や黒、赤のカレーは専門店のメニューやレトルト商品にもあるが、ルウで手軽に作れる点が支持された。自宅の手づくり料理の見栄えを華やかにしたいというニーズに応えたといえる。
詳細は非公開だが、購入者層は定番商品に比べて新規顧客の割合が高く、調査で特定した「料理エンジョイ」層の割合も、ルウカレー全体より高いという。ターゲットとした顧客セグメントを中心に、新規顧客層の獲得につながっていることがうかがえる。
同社によると、最も人気があるのはブラック。味のイメージがしやすく、手に取りやすいことが要因とみられる。一方、ホワイトとレッドは「これじゃなきゃダメ」というコアなファンも多い。
一方で、今後の課題は認知拡大だ。料理の見栄えを重視する層からの支持は集まったが、より幅広い層への浸透を目指す。
新たな色の追加については、慎重な姿勢を見せている。まずはホワイト、ブラック、レッドの3色を定着させる方針で、需要を見極めながら検討する。
ホワイトカレーにほうれん草ペーストを加えたグリーンカレーなど、アレンジレシピの開発にも注力し、3色をベースにした食べ方の提案を増やしていく。「イベントや、日常の中の『ぷちハレの日』にも、カレーを使ってほしい」(光安さん)
長年にわたり「バーモントカレー」をはじめとした家カレーの代名詞を提案してきたハウス食品が、カレーの選択肢を広げている。従来のルウカレーユーザーとは異なる層を取り込みながら、「カレー=茶色」という固定観念を変えつつある。
(カワブチカズキ)
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