写真一度足を踏み入れてしまうと、なかなか抜け出せない不倫沼。
今回はそんなぬかるみに足を取られそうになった女性のエピソードをご紹介しましょう。
◆取引先の男性とやり取りを重ねるうちに
坂本未歩さん(仮名・33歳/会社員)は、既婚女性。ですが数週間前から、取引先の年下営業マンで独身の男性・由伸さん(仮名・28歳)からアプローチを受けています。
「最初はそんなつもりはまるでなくて、『話していると楽しい人だな』ぐらいの感じだったんですが……なんとなくLINE交換したら、由伸さんの好意が伝わってきて」
いけないことだとは分かりつつも、徐々に未歩さんも楽しくなってきてしまい、いつの間にか頻繁にメッセージを送りあう仲になってしまいました。
「夫の健二(仮名・35歳/会社員)とは仲が悪いわけではないのですが、結婚して5年目の私たちはもう会話も少なく、夫は家ではスマホゲームばかり。きっともう私のことを女として見ていないんだろうなって、ため息をつく回数ばかりが増えていたんです」
そんな寂しさを埋めるように、未歩さんは由伸さんとのやり取りに夢中になっていきました。
◆二人きりで会う約束をしてしまう
「するとある日、由伸さんから『未歩さんが望むなら、俺は待てますよ』とメッセージが届いて……。彼の真剣な気持ちを知ってしまった私は、心をギュっと掴まれてしまって。誘われるままに、初めて2人きりで会う約束をしてしまったんです」
そしてデートの当日。「今日は“奥さん”なんかじゃなく、“私”のまんまでいたい」と思った未歩さんは、キッチンで結婚指輪を外すと、冷蔵庫の上に一時的に置いておいたそう。
「それまで浮気も不倫も一度もしたことがなくて。このデートに行くのには、かなりの覚悟がいったんですよね」
ドキドキしながら身支度を整えた未歩さん。ふと冷蔵庫の上を見てみると、指輪がなくなっていました。
◆なくなった指輪は、意外な場所に
「え? 何で? と部屋中あちこち探し回り、焦って思わず冷蔵庫を開けると……冷凍室の製氷皿の上に指輪がちょこんと置いてあって、健二の字でメモが添えられていたんですよ」
そのときの季節は夏。メモには「最近、指輪をしてるのも暑いよね。冷やしておいたからきっと気持ちいいよ!」と書いてありました。それを見た瞬間、未歩さんの目から涙がこぼれたそう。
「私が気づけなかっただけで、健二は健二なりに私のことをちゃんと見てくれていたんだなって感じて。天然で深く考えてない感じですが、このメモから優しさが伝わってきたんですよね」
そして未歩さんは指輪をつけ直すと、そのひんやりした感触が失われる前にスマホを手に取り、由伸さんに「やっぱり今日は行けないし、もう個人的なメッセージのやり取りもやめましょう」と告げました。
◆不倫未遂の相手は、怒りをあらわにしたけれど
「由伸さんは、自分の気持ちを弄ばれたと、かなり怒っていました。身勝手な私は当然、何も言い返せず、ただただ『悪いのは私です。本当にごめんなさい』と繰り返すしかなかったです」
ですが、すんでのところで不倫の道に足を踏み入れずに済んだことに、未歩さんは安堵しました。
「もし健二が私の指輪を見つけてくれていなかったら……全く違う未来になっていたかもしれない。そう思うと、人生の分岐点ってどこにあるか分からないなって、しみじみしてしまいましたね」
そしてそんな気持ちが顔に出ないように、未歩さんは気を引き締めて健二さんの部屋に向かったそう。
◆後ろめたいことはするもんじゃないと反省
「『指輪、ひんやりしてて最高だったよ! ありがとう』とお礼を言うと、健二も嬉しそうにしてくれて、その後久しぶりにちゃんと会話しながら食事をしました」
未歩さんは「友達と食事に行く予定だったけどキャンセルになったから」と健二さんに嘘をつきました。
「罪悪感がすごくて、胸が苦しくて。やっぱり後ろめたいことはするもんじゃないなと反省しましたね」
健二さんは、未歩さんが不倫沼に足を突っ込みかけていたことには全く気づいていないそう。
「本当に危ないところでした(笑)。それから私も健二の好きなスマホゲームを一緒にやるようになり、会話も増えてきたんですよ」と微笑む未歩さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop