画像提供:マイナビニュース「Z世代とのコミュニケーションの取り方がわからない」「Z世代の価値観が理解できない」――そんな声を管理職からよく耳にします。
時代や潮流は変わっても、企業が社員に求める本質は「生産性」と「創造性」。にもかかわらず、相手がZ世代になると急に接し方がわからなくなる。この背景には、管理職側の「Z世代とは分かり合えない」という思い込みがあります。
もし上司がマネジメントの本質を改めて捉え直し、世代を超えて信頼関係を築くことができれば、組織はもっと強くなるはずです。
特に、デジタルやAIを自然に使いこなすZ世代が安心して活躍できる環境を整えることは、企業の競争力に直結します。
本連載では、Z世代と呼ばれる若手層の思考を理解し、「信頼される上司」になるためのヒントを、実際の会話事例を交えながら考えていきます。
○Z世代は「なぜ?」がないと動けない
下の会話はある営業チームの会議での一場面。上司がZ世代の部下とは分かり合えない、と感じてしまう原因が、会話に表れていることがわかります。
【嫌われる上司の会話】
上司:「A社の今後の方針について案を出しておいて。」
部下:(何の目的で? どういう方向性で考えればいいんだろう……)
部下:「具体的に、どんな案を出せばいいですか?」
上司:「いいからまずやってみて。考えるのも仕事だから」
Z世代は「まず動け」では動きません。納得できないまま進めても意味を感じられないのです。
【好かれる上司の会話】
上司:「A社との関係を深めるために、新しい提案を整理したいんだ。今期は“顧客の体験”を中心にした戦略に転換したいと考えている。君の視点でどう見える?」
部下:「なるほど、そういう背景なんですね。SNSやデータ分析を絡めた提案もできそうです」
上司:「それは面白いね。僕もSNS分析の見方を学びたいから、君のやり方を教えてもらえる?」
“なぜやるのか”を共有することで、部下は目的を自分ごと化し始めます。同時に、上司が「学ぶ姿勢」を見せることで、対等な信頼関係が生まれます。
○見てあげるべきは「結果」よりも「プロセス」
Z世代は「結果」よりも「どう考えたか」「なぜそうしたか」を理解してほしい世代です。成果物だけ見られると、「見てもらえていない」と感じやすいのです。
【嫌われる上司の会話】
部下:「提案資料を作ってみました」
上司:「いいね、この内容でいこう! ありがとう!」
部下:(どこが良かったんだろう…自分の意図は伝わっているのかな?)
上司が部下から“学ぶ”姿勢を見せた瞬間、Z世代はぐっと心を開きます。彼らにとって、上司が“教える人”ではなく“共に考える人”に変わるとき、モチベーションは最も高まります。
【好かれる上司の会話】
上司:「全体の流れがよく整理されてるね。どんな狙いでこの構成にしたの?」
部下:「A社の決裁プロセスを意識して、先に数値を見せた方が伝わると思って」
上司:「なるほど、確かに。僕も提案の順番を見直してみようかな。勉強になるな」
○「任せた」だけでは響かない
Z世代の部下にとって、“任される”とは“放り出される”ことではありません。「信頼してるから任せたよ」と言葉では伝えても、上司が関心を示さなければ、むしろ孤独感が生まれます。
【嫌われる上司の会話】
部下:「B社のプロジェクト、もっと効率化できる方法があると思います」
上司:「いいね。君のやり方でやってみて」
部下:(え…方向性合ってるのかな? 失敗したらどうしよう。)
“任せる”ではなく“共に考える”に変わると、部下は安心して挑戦できます。Z世代は、上司が一緒に悩み、一緒に学ぼうとする姿勢にこそ、信頼を感じるのです。
【好かれる上司の会話】
上司:「それいいね。どんな課題があると感じたの?」
部下:「顧客対応が二重管理になっていて、時間がかかってるんです」
上司:「なるほど、それは気づかなかったな。僕もその部分を一緒に見直してみたい。どうやったらスムーズにできそう?」
○「Z世代だから」ではなく、「同じ仲間」として見る
Z世代との関係をよくする最短の道は、「世代差を意識しすぎないこと」です。「最近の若い子は……」という一言が出た瞬間に、対話の扉は閉じてしまいます。
彼らは“教えられる存在”ではなく、“共に組織をつくるパートナー”です。また、デジタルやAIの知見では上司よりも先を行くことも多くあります。「君の方法を教えて」「その考え方、面白いね」と言える上司は、Z世代にとって“尊敬できる人”になります。
信頼は「教える」ことではなく、「学び合う」ことから生まれます。上司が「自分もまだ学びの途中だ」と言えるとき、チームは世代を超えて成長し始めます。
○信頼される上司は「なぜ」を語り、「共に学ぶ」
Z世代は“扱いにくい”のではなく、“理由がわからないままでは動けない”世代です。上司が「なぜそうするのか」を丁寧に語り、共に考える姿勢を見せることで、彼らは自ら動き、創造力を発揮します。
そして、上司が「部下からも学ぶ」意識を持つことで、信頼関係は一方通行ではなく、双方向に育っていきます。問いと対話が、世代をつなぐ共通言語になるのです。
次回は、部下に「答えを押しつけないマネジメント」について、具体的なエピソードを交えながら解説します。
瀬田 千恵子 せた ちえこ
株式会社チームボックス 取締役 COO/リーダーシップ開発・組織開発コンサルタント 国内外の企業で人事・採用・人材開発職を経て、現在は株式会社チームボックスにてCOO(最高執行責任者)を務める。現場の指揮官としても活躍し、数多くのリーダー育成に携わるとともに、日本有数の大手企業の経営層の育成にも取り組んでいる。⽴教⼤学⼤学院 経営学研究科修了(経営学修⼠/専⾨:リーダーシップ開発)。ICC国際コーチング連盟認定プロフェッショナルコーチ。
【登壇実績】日経クロスウーマン主催:悩める管理職のためのオーセンティックリーダーシップ術そのほか大手飲料メーカー、ヘルスケア業界企業をはじめ、業界を問わず企業・団体にて講演実績を持つ。リーダーシップ開発や組織変革をテーマに、現場感覚と理論の両軸を活かした実践的な内容で多くの共感を得ている。
【受賞歴】Japan CxO Award:トップノミネーター この著者の記事一覧はこちら(瀬田 千恵子)