
インフルエンサーが優雅な日常をネットにアップして火がついたようだが、そもそも伝統的な妻の役割を果たしているなら、日常をネットに上げたりはしないだろう。そこがあくまでも「現代の」トラッド・ワイフのありようなのかもしれないけれど。
実際に家事育児、さらに仕事に奔走する日本の妻たちはどう考えるのだろうか。
多忙すぎる毎日だけど
結婚して13年。11歳、8歳の子をもつミドリさん(43歳)は、独身時代からの仕事を続けながら家庭を築いてきた。「夫も会社員です。結婚するときに『私は会社を辞めるつもりはないから、専業主婦の妻を望むなら私は結婚できない』と言いました。夫は『一緒に家庭を作る。きみの負担を増やすようなことにはならないから』って。
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平日の家事は手抜きばかり。掃除は掃除機を3日に1回かける程度。洗濯は夜、寝ている間に乾燥まで機械にしてもらう。食事も冷凍食品や夫による作り置きでなんとかしている。
「一応、子どものために栄養のバランスだけは考えていますけどね。手抜き手抜きでやっているから、夏休みと年末年始は掃除と整理に明け暮れています」
今の生活が幸せ
夫婦でドタバタ、最近では子どもも一緒にドタバタと暮らしているとミドリさんは笑った。それでも、今のこんな生活が楽しいし幸せだと感じているそうだ。「夫婦二人で働いたって、豊かな暮らしはできません。でも、子どもたちが本気でやりたいと言っている習い事をさせることができているのはありがたい。将来を考えると不安もあるけど、とりあえずみんな元気で月に1度くらいは家族でファミレスに行けるし。分相応に楽しめればいいんじゃないかと思っています」
ミドリさんが、トラッド・ワイフになる可能性は、よほどのことがない限りあり得ない。そしてトラッド・ワイフになって「夫の従属物になるのはまっぴら」だという。
「年に3億くらい稼いで、私を自由にさせてくれるならいいですが、それはすでにトラッド・ワイフの価値観から逸脱していますよね」
ミドリさんは、明るく笑い飛ばした。
専業主婦にはなれたけど
一方、専業主婦を希望し、望み通りの結婚をしたミチコさん(44歳)は、「中途半端な高給取り」の夫に苦しめられていると話す。|
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夫は特に横暴なわけではなかったが、結婚式を挙げた翌日にはもう仕事に出かけた。新婚旅行は3カ月後にようやく行ったのだが、彼女が望んだ海外旅行ではなく、近場の温泉に2泊だった。
「お金はあるんですよ。だけど、使い道を厳選する家だった。ぜいたくしていいのは誕生日だけ。それでも最初の誕生日に20万のバッグがほしいと言ったら、『それは高いよ。半額にして』と夫に言われて……。会社組織だから、夫も好きに使えるお金があるわけではないって」
大きな家に住んではいたが、義両親も同居、夫の妹が離婚して子連れで戻ってきたときは、ミチコさんは「仮病ではなく、実際に体調を崩した」という。
「庭が広いから、時々義両親がガーデンパーティーを開いていますが、私はただのお手伝いです。優雅にお茶を飲みながら午後の時間を過ごすなんてことはまったくない」
“社長夫人”のイメージとかけ離れた生活
3人の子を産み、義両親もかわいがってはくれるが、「やっぱり“優雅”とはほど遠い生活」だ。早朝に起きて、夫と17歳、15歳、11歳になった子どもたち、義両親、義妹とその子どもの朝食を作り、家事をこなして一息つこうとすると、義母が「今日は障子を張り替えようと思うんだけど」と突然言ったりする。義母は家事を何もかも自分でやるタイプだから、ミチコさんにも当然、それを要求する。
「障子なんて外注で頼めばいいし、なんなら掃除だって週に2回くらい代行してもらいたいくらい。でも義母が生きている限り、無理でしょうね」
今は義父が会長に、夫が社長になったものの、「私のイメージする社長夫人とは相反する生活です」と少し疲れた表情でつぶやいた。
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資産はあっても現金がたんまりあるわけではないんですよねと、彼女は力なく言った。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
