※写真はイメージです「新幹線」の車内では、さまざまな人が乗り合わせるだけに、お互いに配慮することが重要だ。しかしながら、他人の“マナー違反”が目につくこともあるかもしれない。だが、実際はなかなか注意できないものである。
◆のんびりと過ごすはずの時間が台無しに
大学生の黒崎茜さん(仮名)は昨年の冬、山形の実家へ帰省するべく、東京駅から新幹線に乗り込んだ。
平日ではあったが帰省ラッシュの時期で車内は満席に近く、窓側の席に座った黒崎さんはコートをたたみ、イヤホンをつけて音楽を聴きながらゆっくり過ごそうとしていた。しかし乗車して間もなく、隣に座った中年男性の行動に「嫌な予感」がしたという。
男性は大きな荷物を足元に無理やり押し込んだが、それは黒崎さんの側まではみ出ていた。
座席に収まりきらない肩が彼女の方へ寄ってきて、肘掛けもほぼ占領している。黒崎さんは体を少し窓側に傾けて避けていたが、この時点ですでに落ち着かない気持ちになっていた。
状況はさらに悪化する。男性は車内販売が来ると、すぐに缶ビールを2本購入し、「プシュッ」と音を立てて開けた。そしてスマホで通話を始めると、「いや〜、うちの上司がさ〜」「年末にさ、この仕事量はないでしょ」などと、仕事の愚痴を言い続けた。
デッキに移動したり、周囲に配慮して小声にするなどの気遣いは一切なく、延々と話し続ける男性。声はだんだん大きくなり、アルコールの臭いも漂い始めた。黒崎さんはイヤホンの音量を上げることでなんとか耐えるしかなかった。
◆到着するまで苦痛が続く…
男性が何の声かけもなく、いきなり席を倒した瞬間、黒崎さんは思わず「えっ!?」と声を上げてしまった。勢いよく倒れた背もたれのせいで、膝の上に置いていたポーチが落ちそうになったのだ。
男性は席を倒した状態のまま、足を広げてくつろぎ始めた。その足が黒崎さんの足に軽く触れるほど近づき、彼女は窓側に押しつけられるような状態に。
「逃げ場がない座席で、知らない男性と距離が近づいてくる状況って、思っている以上に怖いしストレスなんです」
勇気を出して「すみません、ちょっと狭いので……」と声をかけると、男性は「ああ、ごめんね」と応じたものの、姿勢はほとんど変わらなかった。これ以上強く主張してトラブルになることを恐れた黒崎さんは、ひたすら時間が過ぎるのを待つしかなかった。
ようやく山形に到着し、ホームに降り立つと、黒崎さんは冷たい外気と共に解放感を味わった。
「たった一人のマナー違反で、新幹線はこんなに疲れるんだなって」
誰もが快適に利用できるはずの公共交通機関で、一人ひとりのちょっとした気遣いがどれほど重要であるかを、身をもって実感した出来事だったという。
<構成・文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo