資生堂が過去最悪の赤字に 低価格撤退やM&Aの迷走……再建の望みは?

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2025年11月28日 06:01  ITmedia ビジネスオンライン

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今後の戦略は?(出所:資生堂公式Webサイト、以下同)

 日本を代表する化粧品メーカー、資生堂が苦しんでいる。


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 11月10日に発表された2025年12月期通期連結業績予想では、売上高を従来の9950億円から9650億円へ下方修正。最終利益も60億円の黒字から520億円の赤字へと変更された。昨年に続く最終赤字であり、過去最悪の最終損失となる見通しだ。


 人員面でも構造改革が続く。年内に約200人の希望退職を募る予定で、昨年は国内社員の1割超にあたる1500人、今年は米国子会社でも同じく1割超の300人を削減するなど、スリム化を進めている。


 コロナ禍での外出自粛による“巣ごもり”により、化粧品の需要が大きく減退したことは、資生堂を含む化粧品メーカー各社に打撃を与えた。その中で、資生堂は2021年2月、選択と集中を掲げ、低価格帯のパーソナルケア事業を投資ファンドへ売却。中・高価格帯に注力することを選択した。売却対象には、ヘアケアの「TSUBAKI」やメンズ化粧品「uno」といった人気ブランドも含まれている。


 同社が勝負をかけたのは、中国の14億人市場だった。しかし、ここ数年の景気低迷により、中・高価格帯商品の販売が伸び悩んでいる。加えて、低価格帯ブランドを手放したことで、台頭する中国・韓国メーカーのプチプラ商品に市場を奪われる結果となった。


 さらに、米国で買収したブランド「Drunk Elephant(ドランク エレファント)」が、突如として大不振に陥る事態も重なった。


 こうした複合的な逆風が資生堂を追い込み、同社はいま大きな岐路に立たされている。果たして資生堂に、再生の道はあるのだろうか。


●資生堂の事業、何が好調で、どこが不調なのか?


 資生堂の2025年12月期第3四半期(1〜9月)連結決算によれば、売上高ベースの事業構成比は、日本事業が31.6%、中国・トラベルリテール事業が34.6%、アジアパシフィック事業が7.6%、米州事業が11.3%、欧州事業が13.9%、その他1.1%となっている。


 事業区分が地域別となっているのが大きな特徴で、特に中国・トラベルリテール事業が日本事業を上回り、最大のシェアを占めている。トラベルリテールとは空港や市中免税店での化粧品・フレグランス販売を指し、インバウンド観光客の“爆買い”需要もここに含まれる。


 今年と昨年の第3四半期の伸び率を比較すると、好調なのは日本事業と欧州事業だ。日本事業は今年こそ0.1%増と横ばいだが、昨年10.2%増と高い伸びを示していた。プレステージブランドの「クレ・ド・ポー ボーテ」やアンチエイジングライン「エリクシール」など、コアブランドの新商品の売れ行きが好調だったのが理由だ。


 欧州事業も5.0%増と堅調で、昨年の10.9%増に続いて最も成長が続く地域となった。「ZADIG&VOLTAIRE(ザディグ エ ヴォルテール)」や「narciso rodriguez(ナルシソ ロドリゲス)」といったフレグランスカテゴリが成長を後押しした。


 一方、米州事業とアジアパシフィック事業は不調に転じた。米州事業はドランク エレファントの不振が大きく影響した。また、アジアパシフィック事業は、タイや韓国は堅調だったものの、台湾で高額化粧品の需要が減退し、今年は1.4%減となった。


 中国事業とトラベルリテール事業は、昨年に続き厳しい状況だ。中国では景気低迷が続き、百貨店を中心としたオフライン販売が伸び悩んでいる。トラベルリテール事業は、日本ではインバウンド拡大で堅調だったものの、中国・海南島や韓国での中国人旅行者の消費が大幅に減少し、業績を押し下げた。


●資生堂不振の要因は……?


 資生堂の不振については、2014年に社長に就任し、2023年に会長CEOとなってから2025年3月に取締役を退任するまで、約10年間グループを率いてきたプロ経営者・魚谷雅彦氏の失政を指摘する声が多い。


 魚谷氏は、日本コカ・コーラで社長・会長を務め、「ジョージア」「爽健美茶」「綾鷹」などを再成長させたマーケティングの名手として知られる人物だ。この実績を携えて、2014年に資生堂へ乗り込んできた。


 魚谷氏の就任当時の資生堂は、2013年3月期に最終損失147億円の赤字に転落し、国内事業の不振が深刻だった。国内と海外の売り上げが拮抗(きっこう)していたが、特に低価格帯の「シーブリーズ」などが不調で、「クレ・ド・ポー ボーテ」など高価格帯は堅調という構造だった。海外では尖閣諸島国有化をきっかけとする反日運動の影響で、中国事業が打撃を受けるなど、リスクも顕在化していた。


 さらに、2014年はアベノミクスで景気は上向きつつも、消費税が5%から8%に引き上げられるなど市場環境の変動が大きかった。


 魚谷氏が資生堂のかじ取りを託されたのは、まさにこうした「国内需要の弱さと中国リスクが同時に存在する」難しいタイミングだった。


 しかしその頃から、訪日観光客が急増。中国からの観光客はドラッグストアで日本の化粧品を“爆買い”し、資生堂を含む各社は大きな恩恵を受けた。資生堂は日本で商品を買った中国人が自国でもリピートできるよう、中国市場の開拓にさらに力を入れた。中国ではインフルエンサーの影響力が強く、資生堂ブランドの品質の高さはSNSを通じて広まり、販売網は一気に広がった。


 こうした追い風もあり、2019年には売上が過去最高の1兆1315億円に到達。2014〜2019年の資生堂は、インバウンド需要と中国市場の伸びに乗り、異例の成長を遂げた。


 しかし、コロナ禍で状況は一変した。百貨店中心の販売形態が打撃を受け、マスクの常時着用により口紅やファンデーションなどの需要が激減。強みであったカウンセリング販売もできなくなった。


 一方でECは急速に伸び、売上比率は2019年の13%から2021年には34%にまで跳ね上がったが、大幅な需要減を埋めるには至らず、2020年には再び最終損失117億円の赤字に転落した。


 2021年には海外事業が回復し424億円の黒字に転じたものの、パンデミックによる大打撃は、その後の業績にも大きな影響を与えている。


●売却したブランドは一転、好調に


 そうした中、2021年7月には、ドラッグストアを中心に展開してきたTSUBAKIやunoなどの主力ブランドを、欧州投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズへ1600億円で売却した。


 当時の日本は、世界がコロナ禍収束へ向かうムードとは逆行し、依然として自粛の真っ只中にあった。しかし、自粛解除とともにインバウンド需要が戻ってくるという期待感があったことを踏まえれば、経営資源を高価格帯へ集中させるという判断自体は、必ずしも間違いだったとはいえないだろう。


 また、以前の中国人観光客による“爆買い”の勢いを考えれば、現在のように、中国で200円以下の「貧乏人セット」が流行し、消費者マインドが急速に節約志向へと転じることを読み切るのは困難だったはずだ。


 ただ、皮肉なことに、資生堂が売却したブランドは、CVC傘下で元カネボウ社長の小森哲郎氏をCEOに迎えたファイントゥデイホールディングス(以下、ファイントゥデイ)の下、好調に推移している。


 ファイントゥデイは日本国内にとどまらず、世界11の国・地域で事業を展開している企業だ。資生堂は2024年6月、保有していたファイントゥデイの残り20%の株式もCVCへ売却しているが、もしこの事業が今も資生堂傘下にあれば、現在の中国やアジアの不振を一定程度カバーできたと思われても不思議ではない。


 もちろん、小森氏の経営手腕も大きいが、ファイントゥデイの順調な成長ぶりを見ると、資生堂はCVCにうまく乗せられたのではないかという見方が出てくるのも理解できる。


●M&Aの失敗も影を落とす


 米国で不振に陥っているドランク エレファントは、2012年に同国で創業し、2019年に資生堂が約900億円で買収したブランドだ。当時は急成長中で、短期間で売り上げ100億円規模に到達した新興スキンケアメーカーとして期待を集めていた。そのため、M&Aに積極的なイメージのなかった資生堂が勝負をかけた案件としても注目された。


 ドランク エレファントは、アルコールなど刺激が強いとされる6つの成分を排除した“クリーンビューティー”の先駆的ブランドで、SNSで人気が広がり、単価1万円前後の商品が売れるビジネスモデルを確立していた。


 決算を見る限り、同ブランドは2023年までは順調に拡大していた。しかし異変が起きたのは2024年、そして2025年に入ると売上不振が一気に深刻化した。2025年上半期の売り上げは前年同期比で57%減と急落し、日本での展開も2025年6月に終了している。売り上げが5割以上落ち込むのは異常で、模倣品の増加や在庫過剰、同様の訴求をした安価なブランドの台頭により、市場を奪われたと考えられている。


 これを立て直すには、ターゲットを明確にし、適切な宣伝を打つこと。つまり、魚谷氏が日本コカ・コーラ時代に行った、競合に勝つマーケティング戦略が求められる。当時はテレビCMが中心だったが、現在はSNSを活用したインフルエンサー・マーケティングが主流だ。ツールこそ異なるが、基本的な考え方は変わらない。また、ドランク エレファントが主力販売チャネルとしてきたフランス発のセレクトショップ「セフォラ」との関係再構築も急務だ。


 こうして見ると、パーソナルケア事業の売却といい、ドランク エレファントの不調といい、結果論ではあるが、資生堂の泣き所はM&Aへの対応力のなさにあるといえる。現在、資生堂は世界で5〜6位の売上規模だが、トップのロレアルは6兆円、2位のユニリーバは4兆円、3位のエスティローダは2兆円超と、上位企業とは大きな差がある。


 これらのグローバル企業と肩を並べるには、M&Aは欠かせない成長戦略だ。今後資生堂が立て直しを図るには、M&Aのプロ中のプロをトップクラスの経営陣に迎える必要があるだろう。そこに、資生堂再建の未来がかかっている。


(長浜淳之介)



このニュースに関するつぶやき

  • 外部から、数字しか見れないよそ者をトップに引き入れたのが間違いの元deathよね。日産自動車にしろ、東芝にしろ。ナム
    • イイネ!7
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