
家族が亡くなったら、遺族が葬式を出し、墓を子孫に引き継ぐ─ひと昔前まで当たり前だったことが当たり前ではなくなってきている。
「そんな時代を誰が予想したでしょうか? 今、日本はこれまでと『別の国』になりつつあります」
そう話すのは元・東洋大学教授で『おひとりさま時代の死に方』の著書もある井上治代さん。
一人で倒れて息絶え、第三者に発見されたら
「日本の総人口が減り続け、2008年の1億2808万人をピークに、2100年には4959万人になると予測されています。人口構成も大きく変化し、1970年までは49歳までの若い世代が多かったのが、2050年以降は50歳以上の高齢世代が約60%を占めます。
1980〜2050年はその中間期間に当たり、まさに現在は社会が移行する過渡期といえます」(井上さん、以下同)
それが如実に表れているのが、墓の問題だ。
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「核家族で子どもの数が減少し、子どものいない夫婦も増えています。そうなると困るのが、お墓の存続です。継承する人がいなければ、無縁墓になってしまう。
その結果、増えているのが墓じまいです。2000年度に6万6643件だったものが、2022年度には15万1076件と約2・3倍に跳ね上がっています」
現在では、継承を前提としない墓が増え、葬式をしない直葬や墓をつくらず散骨を希望する人もいるという。
戦前には3世代同居が珍しくなかった日本だが、戦後、核家族が急増。子どもが親の死後のことを引き受ける慣習も変化を余儀なくされている。
「生涯独身で通す人が1990年ごろから急速に増えて、現在『一人世帯』がもっとも多い家族形態になっています。2040年には、一人世帯が40%以上を占めるようになります。
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子どもがいる夫婦も、子が家を出ると夫婦だけになり、配偶者が亡くなれば一人世帯になる。子どもの負担にはなりたくないと思う親も多いですね」
家族と同居していれば、病気になったり、突然倒れたりしたときにもすぐに対応ができるが、一人住まいの場合はそう簡単ではない。
一人で倒れて息絶え、第三者に発見された場合、どうなってしまうのか。
連絡先がわからずに無縁仏にされてしまった人も
親族の連絡先がすぐにわかればいいが、そうでなければ孤独死として扱われ、行政が対応することになる。
「ここ数年、引き取り手のいない遺骨が役所などの安置所に保管されるケースが増えています。天涯孤独の人もいれば、親族から遺骨の引き取りを拒否される場合も。なかには親族がいたのに、連絡先がわからずに無縁仏にされてしまった人もいます」
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一人世帯が増えれば、当然のように孤独死が増える。
「独身でずっと自立して生きてきた人が、亡くなった途端に孤独死扱いされるのは不本意なはず。
自分の死後のことを委任契約しておけば、亡くなったあと、自分で決めた墓に入ることもできます。親族に頼らなくても、第三者の手で弔ってもらえるのです」
「50代以上の世代は『親を看取ったら、次は子どもが自分を看取る番だ』と思ってきました。子どもに死後を託し、自分も先祖の墓に入るのが一般的だったわけです。
ところが、時代の変化で葬送についての考え方が変わってきた。日本人にとって初めての状況に直面しています。
自分が死んだあとも自立した個人として葬られるためには、生きているうちにやるべきことがあるのです」
その一つの方法が、生前・死後のことをする業者との委任契約だ。現在、委任先として挙げられるのが、(1)弁護士や行政書士などの事務所、(2)井上さんが運営しているエンディングセンターのような特定非営利活動法人や一般社団法人、(3)株式会社や信託銀行などの民間企業、(4)市・区役所、社会福祉協議会などの公的機関。それぞれ担当している内容が少しずつ違います。
「私どものエンディングセンターでは、継承者を必要としない樹木葬を企画し、会員運営をしています。病院への入院時の身元保証や日常の見守り、判断力が低下してきた際の『生前のサポート』、葬送や事務処理といった『死後のサポート』も行っています。
これらのすべてを請け負う民間業者はまだ少なく、生前と死後のサポートを別々の業者に委託する人もいます」
いつ亡くなるかわからない生前契約事業はビジネスとして成り立ちにくく、赤字で倒産した大手の業者もある。まずは、近くの社会福祉協議会や地域包括支援センターに相談するのがよいようだ。
「せっかく生前契約をしても、自分の死後、契約先の連絡先が認知されていないと意味がありません。緊急連絡先を自宅の目立つところに貼ったり、メモを携帯するとよいでしょう。
“おひとりさま”はある程度の年齢になったら、生前委任契約を結んでおくことが大切です。ただ、そこまで老後資金に余裕がないという人もいるでしょう。横須賀市、文京区など行政のサポートも少しずつ増えていますが、まだ数は少ない。死後の手続きや事務を支援する『死後福祉』が早く確立するように、活動していきたいと思います」
取材・文/佐久間真弓
教えてくれた人
井上治代さん
社会学博士。元・東洋大学教授を経て、同大・現代社会総合研究所客員研究員、エンディングデザイン研究所代表。母親の死をきっかけに「墓の継承問題」に取り組む一方、独り身の死後の葬儀や埋葬、事務処理を請け負う認定NPO法人エンディングセンターを設立。
