画像はイメージです LIFULL HOME’Sの調査(※)によると、2025年10月時点での東京23区におけるシングル向けの賃料が平均11.9万円となり、前年同月比で約15%も上昇している。これは過去最高水準の記録だ。
いまや、東京での家探しは“大争奪戦時代”を迎えたと言える。特に1月から3月にかけては、新生活を控える人々が一斉に動き出し、「少しでも良い物件」を巡る熾烈な争いが繰り広げられる。
理想の住まいを手に入れるためには、早期の情報入手と条件整理が欠かせない。まさしく筆者も来春に控える上京に向けて、頭を悩ませている一人だ。
そこで今回は、地方出身者の上京を応援すると銘打った不動産業者「部屋物語」を手掛ける、株式会社日本エイジェントの東京本部部長・草薙匡寛氏に話を聞いた。「令和における物件探し」のスタンダードと、新生活を控える人が注意すべきポイントを教えてもらおう。
◆“分単位”で物件がなくなることも
——最近では、SNSを活用した物件紹介の動画や内見、そして契約に至るまでオンラインで完結できることが多いと思います。利用者が注意すべき点について教えてください。
草薙匡寛氏(以下、草薙): 2点あります。1点目は“分単位”で物件がなくなること。インターネットで公開されている物件の写真のみで判断する方がいるためです。実際に内見をしようと物件に向かっている最中であったとしても、オンラインで先に契約をした方が優先になります。
——スマホ1台で気軽に物件を探すことができるようになったからこそ、判断のスピードがこれまで以上に求められるようになったということですね。
草薙:その通りです。ただ、一定のネットリテラシーの高さも同時に求められます。これが2点目に注意すべきポイントです。例えば水回りや周辺地域の環境は、ネット上の情報だけでは分かりませんよね。オンライン上で完結する場合、こうしたリスクを考慮する必要があります。
ですから、オンライン接客を導入している「部屋物語」では、データや数値からは分からない情報をお伝えすることで、入居希望者の不安を和らげるよう努めています。
◆部屋を見ずに契約することも可能だが…
——では早い段階で見つけた物件を「とりあえず押さえておきたい」場合、「仮押さえ」や「予約」は可能なのでしょうか?
草薙:実は、物件を“押さえる”ことはできないんです。ですが、それに近い仕組みとして「先行申込」があります。
「先行申込」は、現入居者の退去後に実際の部屋を見て、契約するかどうか決める制度です。「先行契約」と呼ばれる仕組みもありますが、これは現入居者の退去前に契約まで終わらせてしまうものです。つまり、部屋を見ないまま契約することになり、やや不安を感じる方も多いです。
——3月になると争奪戦が始まるので、「先に探しておきたい」「確保しておきたい」という気持ちが生まれるのは、当然ですよね。
草薙:そうですね。ただ、お部屋探しのお手伝いをする上で、お客様に親身になろうと心を尽くしても、現実的には難しい部分も出てきます。一組一組にしっかり時間をかけたいと考えていても、時間をかけすぎては物件がなくなってしまう……。ジレンマですね。
◆“ちょうどいい物件”を逃さないようにしたい
——実は私も来春より上京予定で、秋ごろから物件探しに奔走しています。しかし「賃料」や「交通の便」を考慮すると、条件を満たす物件を見つけるのは、なかなか難しいのが現状です。
草薙:たしかに難しいですよね。ただ、実はそれこそが、新生活を控える人がついやってしまいがちな“落とし穴”なんです。
物件探しでは、95点以上を目指しすぎるがあまり、80点台後半の“ちょうどいい物件”を逃してしまうケースがあります。もちろん100点の物件も存在こそはしますが、そうした物件はライバルが多く、家賃も強気な設定になりがちです。
完璧に近い物件が出てくるのをずっと待っていると、「90点、85点でもいいや」と考える人たちに先を越されていきます。せっかく早期から動き出したにもかかわらず、「最終的に契約できた物件は70点でした」というケースも珍しくありません。
——さまざまな条件が浮かぶ中で、優先順位をつけて取捨選択していく……。当然のこととはいえ、うまく折り合いをつけるのは難しいですね。
草薙:そうですよね。私はお客様のニーズを聞いた上で「アキネーター」のように質問を重ねながら正解を探っていくようにしています。お客様の要望をひとまずすべて教えていただき、そこから一緒に優先順位をつけていきましょう、という流れです。
そして、トップ5の中で1〜3位の優先事項が揃っている場合は強くお勧めをしています。優先順位が低い条件に関しては、代案を紹介することが多いです。
◆初期費用を下げるため、交渉するとしたら…
——やはり「賃料」や「初期費用」など金銭面を基準に、そのほかの条件を考えることが多いですよね。
草薙:そうですね。ただ、お子様と親御さんとでは、優先順位が変化する傾向があるんです。
就職の場合、本人たちが家賃を支払う前提でお部屋探しを始める方がほとんどなので、重視するのはやはり「賃料」です。一方で、親御さんは「治安」や「防犯面」を重視されます。特にオートロックの有無ですね。
——親子で条件にギャップが生まれるということですね。しかし子供が賃料を払うことが前提の中で、セキュリティ面を追求すると金銭面で難しさが出てくるのではないでしょうか。
草薙:その通りです。賃料を1万、2万と上げていくと選択肢は間違いなく広がります。その差額分を親御さんが負担することで、金銭面とセキュリティ面のどちらも満たすことができますよね。もちろん、家賃交渉も可能です。ただし需要が集中する1月から3月にかけては、むしろ賃料が高騰する時期なので難しいでしょう。
——たしかに需要が高まる時期に家賃を下げる理由はありませんよね。では、そのほかに交渉の余地があるものはありますか?
草薙:初期費用の一部は交渉可能だと言えるでしょう。いくつか例を示しますね。
•家賃を数千円上げる代わりに、初期費用を軽減する。
•入居時に支払うクリーニング費用を、退去時の支払いに変更する。
トータルコストは変わりませんが、物入りの新生活前に初期費用を下げられるのはメリットといえるでしょうか。こうした交渉は私たちの腕の見せどころですね。
◆「友人が少ない」悩みを解消するサービスも
——おかげさまで、部屋探しのコツはかなり掴めてきました。しかし苦労して見つけた物件で、孤独感からホームシックになるケースも多いと思います。地方出身の私は、首都圏に友人が少なく非常に心配なんです……。
草薙:特に就職での上京だと、そうした心配は大きくもなりますよね。そうしたお声をよく聞くからこそ力を入れているのが、「部屋コミュ」というサービスなんです。
——「部屋コミュ」とはどういったサービスなのでしょうか。
草薙:「部屋コミュ」とは、2013年から実施している入居者交流会です。地方出身者同士が交流を持ち、「東京での暮らしをもっと充実させてほしい」という思いから生まれました。
——たしかに、“住み心地”は人間関係に左右される部分が大きいですよね。
草薙:その通りです。実は弊社も愛媛県から東京へ進出した上京組なんですよ。だからこそ地方出身者に寄り添い、上京支援に力を入れています。
物件探しそのものは「オンライン接客」を用いて利便性を高めていきながらも、「部屋コミュ」などを通じて“人のあたたかい部分”こそをお届けしていく——。それが弊社の目標なんです。
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社会人デビューに、一人暮らしデビュー。初めての経験ばかりで、戸惑うことも少なくないだろう。だからこそ、家が心安らぐ場所となるよう、改めて条件を整理し、自分にとっての“ちょうどいい物件”を見つけたい。
<取材・文/中川恭輔>
(※)LIFULL HOME’S「【東京23区/東京都下/東京都心6区】賃料動向 LIFULL HOME’S マーケットレポート (2025年10月)」
【中川恭輔】
現役大学生兼ハガキ職人。ラジオ番組に年間で1000通以上ものメールを送る生粋のラジオ好き。高校生の頃から毎週欠かさず聴いているお気に入りの番組は、「星野源のオールナイトニッポン」。大学では趣味と学業をうまく両立させながら、無事すべての単位を取り終えることに成功。春からは就職のため上京予定である。現在は卒業を待ちながら、企画や執筆のお仕事に挑戦中。