弱者感を抱えた男たちは漠然とした危機感を前に“日本初の女性首相”に最後の希望を託す。写真提供:産経新聞社低年収、非モテ、孤独──。これまで「弱者男性」はこうした属性で語られてきた。しかし今、“普通の男”たちの間でも「自分は弱い存在だ」と感じる人が急増している。広がる負の感情の正体は何なのか。男性たちの心に巣くう“呪い”の正体に迫った。
【弱者感】
じゃくしゃ-かん
自分が社会の中で「劣っている・取り残されている・報われない側にいる」という主観的な感覚。
実際の地位や収入、能力にかかわらず、相対的な劣位感・無力感・疎外感を感じる心の状態。
※編集部作成
◆高市政権人気の裏にあるのは…
JNNの11月1〜2日の調査によると、自民党支持率が28.9%にとどまるなか、高市内閣の支持率は驚異の82%と高水準を記録した。
「高市政権人気の裏には、多数の“弱者感を抱えた男”の存在がある」と語るのは、各政党を長年取材してきたノンフィクションライターの窪田順生氏だ。
「年収500万〜600万円で結婚して子供がいるなど、決して困窮・孤立しているわけではなく、むしろ“強者”の立場にありながら『虐げられている』と感じている層が増加しています。現代の日本は、物質的な豊かさが叶えられ、その上に成り立つ精神的な豊かさに目が向く成熟した社会。
ところが物価高で可処分所得は減り、街に出れば外国人が溢れ、報道では日本固有の土地や水源が隣国の富裕層に買われていると喧伝される状況に、漠然とした危機感だけが煽られるのです」
◆被害者意識は広がっていく
頑張っても精神的な豊かさは満たされないなかで、被害者意識は広がっていく。
「弱者感を抱えた男たちは教養があり、情報に投資するある程度の金銭的余裕もあるがゆえに、SNSなどに扇動されやすい傾向がある。自分の力ではどうにもならない不安を前にして、『なにか大きな力が邪魔している』と架空の敵をつくるのです。
そして『誰かこの状況を打開してほしい』という嘆きにも似た他責思考に、シンプルで強い言葉を使う保守的な主張は魅力的に映り、多くの人が吸い寄せられていきました。先の参院選で参政党が大勝したのにも、同じことが言えるでしょう」
ただし、保守的思想が強化されても、完全な右翼になるわけではないという。
◆弱者感を抱えた男は人知れずマイルド右翼に
「なんだかんだ強者の立場にいる彼らは、社会的地位もあり、家族もいて他人の目も気になるため、自分の暮らしをなげうってまで大きな革命を望むことはない。周囲との摩擦を避けるため、イデオロギーが強い極端な行動をするつもりはないのです。
実際、私が取材した右翼思想の持ち主も『内心は、女性は家庭に入るべきだと思っていますが、会社や人前では女性の社会進出を推進するポーズを取っている』と語っていました。本音と建前を使い分けるのも、弱者感を抱えた男がゆえの処世術。人知れず“マイルド右翼化”する層は拡大していくのです」
窪田氏は、この現象は戦前の日本第一主義と酷似していると指摘する。
「戦前も、貧困層が蜂起したわけではなく、普通の一般市民が『西欧列強に搾取されている』という被害者意識から愛国運動を展開しました。今回も同じ構図が繰り返されていると感じています」
◆政治利用のために都合よく弱者感を叩き込まれる
当時の世論形成の裏には、列強による経済制裁を「ABCD包囲網」などとして喧伝した政府の存在がある。
「弱者感を抱えた男性の存在が政権運営の鍵になる構図は今後も変わらないでしょう。政治利用のため、都合よく弱者感を叩き込まれるのです」
政権支持の回復のため扇動され続ける彼らは本当の意味で被害者なのだ。
【ノンフィクションライター 窪田順生氏】
1974年生まれ。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者などを経て現職。著書に『潜入 統一教会』(徳間書店)など
取材・文/週刊SPA!編集部
―[新たな生きづらさ 男に広まる[弱者感]]―