「マダニ」に咬まれて牛肉アレルギーに…発症しやすい血液型や重症化リスクは?「住宅地や犬の散歩でも注意」医師が警鐘

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2025年12月02日 09:00  オリコンニュース

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まさかマダニが原因で牛肉アレルギーに?
 さまざまな報道もあり、「マダニ」の害を知った人も多いだろう。マダニは自然豊かな場所に限らず、意外にも身近な場所に潜んでいるため、普段から注意が必要だ。しかも、咬まれることで感染症にかかる恐れがあるだけでなく、「牛肉アレルギー」を発症する可能性があることはあまり知られていない。大好きな牛肉が、突然食べられなくなってしまったら…。ある女性の体験談とともに、クリニックフォア・総合内科の井上隆博先生の見解を聞いた。

【写真ン】要注意!マダニに咬まれるとこうなる…

■突然のじんましんで“牛肉アレルギー”と診断、原因はまさかの「マダニ」?

 30代女性・Sさんは、7年前のある日、大好物の焼肉を食べたしばらく後に突然のじんましんに襲われた。これまでに同様の症状が出たことはなく、不思議に思いながら皮膚科を受診。処方された塗り薬を使用した。ところが、じんましんは1週間が経っても良くなるどころか悪化の一途。症状は全身に広がってしまった。

 「じんましんで顔も真っ赤になってしまったので、周囲にも驚かれました。不安もあり病院を受診して血液検査をしたところ、牛肉に対するアレルギー数値が突出して高いことが分かったんです」検査結果によると、他のアレルギーは1未満でアレルギー反応の可能性は低いと判断される数値に対し、牛肉だけは6.58(陽性)。“牛肉アレルギー”と診断された。聞き慣れない言葉に、Sさんも「まさか牛肉で!?」と驚いたという。

 医師からは、「牛肉がまったく食べられないわけではないですが、体調に不安がある時は避けたほうがいいでしょう」と言われた。現在、症状は安定しているものの、好きな牛肉を素直に楽しめないモヤモヤは続いているという。

 このように、突然Sさんを襲った牛肉アレルギー。何かきっかけはあったのだろうか? 気になるのが、近年言われ始めた「マダニ」の影響だ。マダニはダニ媒介感染症の原因となる病原体を保有していることがあり、咬まれることで人間が感染する場合がある。だがそれだけではなく、マダニの唾液に含まれる成分により、肉類のアレルギーを発症することがあるそうだ。

 Sさん自身にはマダニに咬まれた自覚はなかったが、じんましんが出たのが6月だったことから、「キャンプなど外出の機会が増えたこともあり、咬まれた可能性はあったかも」と振り返る。マダニに咬まれて、なぜ牛肉アレルギーを発症するのか、医師に聞いてみた。

──マダニに咬まれたことが原因で、牛肉アレルギーを発症することがあるのでしょうか?

 「はい。牛肉そのものが原因でアレルギーを発症することもありますが、マダニに噛まれたことがきっかけで赤身肉アレルギーを発症することも確認されています。マダニの唾液には「α-Gal(ガラクトース-α-1,3-ガラクトース)」という糖の構造が含まれています。このα-Galは、実は牛・豚・羊などの赤身肉にも共通して存在する成分です。そのため、マダニに咬まれることで体がこのα-Galに対する抗体を作ると、時間が経過して赤身肉を食べた時にもアレルギー反応が生じる可能性があることが報告されています」

──症状はどんなふうに出てきますか?

 「食べてすぐに発症する即時型の食物アレルギーと比べ、α-Gal症候群は食事から数時間遅れて症状が出ることが特徴とされています。夕食に食べた赤身肉が原因となり、深夜帯に発症するようなケースが起こり得ます。これは、α-Galという成分が脂肪と一緒に吸収されるため、体に取り込まれるまでに時間がかかることが理由と考えられています」

――発症しやすい人、しにくい人は?

 「実は、血液型によって発症しやすさに違いがあると報告されています。α-Gal症候群は血液型のA型・O型の方で発症しやすく、B型やAB型の方では発症が少ないという傾向があります。B型やAB型の人は体内にα-Galとよく似た構造を持つ糖鎖を持っており、それが“自然の慣らし”のような役割をして抗体ができにくいのではないかと考えられています。

 子どもから高齢者までどの年代でも発症し得ますが、年齢そのもので発症率が上がるわけではなく、マダニに咬まれる機会の多さが問題と考えられます。アウトドアや農作業などでマダニに接触する機会が多い方で発症しやすい傾向があります」

■「根本的に“治す“治療法は確立されていない」、重症化にも注意

──重症化する場合もあるのでしょうか?

 「重症化して、アナフィラキシー症状を起こす場合がありますので注意が必要です。じんましんと同時に、喉の違和感・声のかすれ・息苦しさ・唇や口腔内、結膜の違和感や腫れなどの粘膜症状・吐き気や腹痛、下痢などが出てきたら、アナフィラキシーの可能性があります。症状が急速に悪化することもあるため、早めに医療機関を受診してください。ステロイドやアドレナリン自己注射の治療が必要になるケースもあります」

──発症から時間が経っても、治らないのでしょうか?

 「現時点では、α-Gal症候群を根本的に“治す“治療法は確立されておりません。そのため、アレルギー症状を起こさないためには、牛肉・豚肉・羊肉などの赤身肉やゼラチンなどの関連食品の摂取を避けていただくことが基本になります。

 ただし、マダニに再び刺されることがなければ、数年かけて症状が徐々に軽くなる人もいると報告されています。時間とともに体内の抗体が減っていき、少量であれば食べられるようになるケースもあります。とはいえ個人差が大きいため、自己判断で再挑戦するのではなく、医師と相談しながら慎重に対応することが大切です」

──一度発症してしまうとほぼ治らない…赤身肉好きな方にとってはつらいですね…。

 「たしかに赤身肉が好きな方にとってはつらい面もありますが、アレルギーを発症してしまっても、正しい知識と準備でうまく付き合っていくことが大切です。どんな食事を避けるべきか、抗アレルギー薬の服用は必要かなど、まずは医師と相談しながら対策を立てることが重要です。過去に強い症状が出たことがある場合には、次回に備えてアドレナリン自己注射などをあらかじめ処方されるケースもあります。外出先でも持ち歩いておくことで、万が一の時に落ち着いて対応できます。

 また、同じお薬を処方してもらうため、定期的に通院することが負担に感じられる場合は、オンライン診療を活用するのも選択肢の一つです。スキマ時間で受診ができ、お薬も自宅に届けてもらえるため、忙しい方でも利用しやすく便利だと思います」

――まずはアレルギーの原因となるマダニに咬まれないためには、どうすればいいでしょうか。マダニはどんなところにいるのでしょうか?

 「マダニは山の中だけでなく、雑草が生い茂るところや公園、キャンプ場など、植物が多い場所に広く生息しています。山野でなくても、住宅街の植え込みなどにも潜んでいることがあり、意外と身近なところにいる生物です。また、犬や猫などのペットを介してマダニに咬まれてしまう方もいらっしゃいますので、散歩の際に草むらに入らないようにしたり、散歩後にはペットの毛や皮膚のチェックをすることをおすすめします」

――自然が多い場所に行くときには?

 「まずは肌の露出をできるだけ控えることが大切です。長袖・長ズボンを着用し、ズボンの裾は靴下や靴の中に入れると、マダニが衣服の中に入り込みにくくなります。また、虫よけスプレーを使用したり、帰宅後には着替えや入浴をすることも有効です。基本的な対策を意識するだけでも、マダニに咬まれるリスクを大きく減らすことができます」

──それでも、もしマダニに咬まれてしまったら?

 「マダニに咬まれてしまった場合は、咬まれた部位や口吻(口の突き出た部分)の残存の有無で対処が変わるので、無理にマダニを引き抜かず、医療機関を受診してください。1〜2週間以内に発熱や消化器の症状が出た場合は、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)など、ダニ媒介感染症の可能性もあります。気になる症状があれば、自己判断せずに早めに医療機関へ受診することをおすすめします」

(文:衣輪晋一)

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