サッカー日本代表の対戦相手と試合会場はどこになるのか ワールドカップは抽選会にも歴史あり

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2025年12月03日 07:30  webスポルティーバ

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連載第78回 
サッカー観戦7500試合超! 後藤健生の「来た、観た、蹴った」

 現場観戦7500試合を達成したベテランサッカージャーナリストの後藤健生氏が、豊富な取材経験からサッカーの歴史、文化、エピソードを綴ります。

 今週末にFIFAワールドカップの抽選会が行なわれます。日本がどこのグループに入るのか、どの会場で試合をするのか気になるところです。後藤氏は過去に抽選会の生中継の解説を担当しました。

【重要なのは試合会場】

 12月5日(日本時間6日2時)にアメリカの首都ワシントンで2026年W杯の組分け抽選会「ドロー」が行なわれる。

 対戦相手と試合会場が決まれば、日本代表の準備も本格化する。第2ポットに入った日本だが、第1ポットのどの国と一緒になるのだろうか?

 開催国として第1ポットに入っている3カ国(アメリカ、メキシコ、カナダ)と一緒のグループに入れば、楽な対戦になるだろうか。たとえば、カナダのFIFAランキングは27位(日本は18位)なので、ここの組に入れば負担を大きく軽減できるかもしれない。

 一方で、来年3月に行なわれるプレーオフからの出場国は、すべて第4ポットに入っている。たとえばイタリア(12位)は欧州プレーオフに出場権獲得を懸けるが、もし、日本がイタリアを引き当ててしまえば、たとえば「アルゼンチン、イタリアと同組」といった「死のグループ」になってしまう可能性もある。

 もっとも、2022年カタール大会では「格上」のドイツ、スペインに勝利した一方で、「格下」のコスタリカに敗れているのだから、実際の勝負とランキングは関係ないのかもしれないが......。

 対戦相手以上に重要なのが試合会場だ。

 もし日本が本当に優勝するのであれば、8試合を戦いぬく必要がある。そのためには、グループリーグではできるだけ消耗を少なくする必要がある。

 したがって、高温が予想されるアメリカ南部やメキシコのモンテレイ、あるいは高地対策が必要となる標高2240メートルのメキシコシティでの試合はできれば避けたいものだ。

【日韓W杯 抽選会のリハーサル】

 さて、W杯の組分け抽選会が注目を集めるようになったのは、当然、日本がW杯本大会に出場するようになった1998年のフランス大会からのことだ。

 そのフランス大会では、初戦でいきなり2度の優勝経験(当時)があるアルゼンチンと当たることになった。アルゼンチンとはそれまでにも親善試合では対戦経験があったが、「真剣勝負のW杯本大会では大敗してしまうのではないか」という漠然とした不安感を抱いた覚えがある(実際のスコアは「0対1」の惜敗だったが)。

 僕がW杯のドローを現地で経験したのは2002年日韓大会の時だった。当時、『スカパー!』で解説の仕事をしていた関係で、抽選会生中継の解説の仕事が回ってきたのである。決定した組分けを見て、見どころとか昔からの両国の因縁などを語るのが役割だった。

 抽選会は韓国釜山(プサン)の海雲台(ヘウンデ)地区にあるコンベンションセンター「BEXCO」で行なわれた。

 面白かったのは抽選会前日にあったリハーサルを覗けたことだ。

 これは、もちろん非公開。取材記者も入場できないのだが、ライツホルダー(放映権を持つ放送局)の力で覗かせてもらったのである。実際と同じように、ポットから順にボールが取り出され、組分け作業が行なわれた。

 そのリハーサルでの組分け結果はもちろん絶対部外秘だったが、いずれにしてももうとっくに忘れてしまった。当然のことながら、実際の抽選結果とはまったく違っていた。

 さて、本番当日。いつの大会でも同じだが、抽選会開始を前に長時間のイベントが行なわれた。共同開催なのに"日本色"はいっさいなく、ステージ上では韓国の伝統芸能が繰り広げられた。

 放送開始前の打ち合わせでは「イベント中は何もコメントしないで結構です」と言われていたので、安心してのんびり見物していたのだが、突然ディレクターから「何かコメントを入れてくれ」という指示が来た。

「えっ、聞いてないんですけど......」と困惑したが、仕方がない。覚悟を決めて伝統歌謡の「パンソリ」とか、仮面をつけた舞踊「タルチュム」などについて、乏しい知識を総動員してコメントした。「パンソリは日本の演歌の源流だという説もあって......」といったふうにである。

 今だったら、手元のスマホを使って検索しながら話せたかもしれないが、当時はそんな便利なものはなかった。

 したがって、曖昧な記憶に頼ったコメントばかりなので「専門家に聞かれたらツッコミを入れられそうだなぁ」と思いながらしゃべっていたのだが、ふと目の前を見るとコーディネーターとして入っている在日韓国人ジャーナリストなどが笑っているではないか。

 まさに、冷や汗タラタラの数十分だった。

 あれから24年が経過して、抽選会自体の記憶はほとんど飛んでしまったが、あの伝統芸能の時間のことだけはまざまざと記憶している。

【日本が出場しないW杯抽選会を生中継】

 さて、1990年のイタリア大会の時にも、僕は抽選会の生中継に出演した。

 日本代表はアジア1次予選でとっくに姿を消していたのに抽選会の生中継が行なわれたのは、プロ化(Jリーグの発足)を前にサッカーへの注目度がそれなりに上がっていたからだろう。

 ちなみに、W杯取材に必要な申請枠が足りなくなって、記者同士での奪い合いが始まったのも1990年大会からだった。

 中継を行なったのは、NHK-BSだった。

 日本でテレビ放送が始まったのは戦後すぐの1953年のこと。初めはNHKと民放の日本テレビだけだった。

 その後、他の民放局も次々と開局。1960年にはカラー放送が始まり、1964年の東京五輪で視聴者数は拡大したが、ずっといわゆる「地上波」による放送だけだった。

 1984年には放送衛星(BS)を使った放送の試験放送が始まった。最初は地上波の総合テレビや教育テレビの難視聴解消対策のための放送だったが、1987年にはBS独自番組の放送が始まり、スポーツもBSの有力コンテンツとなった。さらに、1991年にはWOWOWも放送を開始した。

 その後は、通信衛星を使ったCSも始まり、最近になるとインターネットを使った配信が急激に拡大。この40年ほどで、放送の在り方は大きく変わった。

 1990年というとBS初期である。イタリアW杯自体も地上波だけでなく、BSを使って放映されることになっていたので、NHKとしてはその宣伝を兼ねて抽選会の生中継を行なったのだろう。

 抽選会は1960年ローマ五輪のバスケットボール会場として建設されたローマの「パラッツェット・デッロ・スポルト」という体育館で行なわれた。

 抽選会前には世界的なテノール歌手、ルチャーノ・パヴァロッティが登場してその歌声を聞かせたが、最近の抽選会での豪華なイベントに比べればまだまだ質素なものだった。

 ちなみに、パヴァロッティは翌年のW杯決勝前夜に古代ローマ遺跡のカラカラ浴場でプラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラスとともにコンサートを行ない、その後も3人は「三大テノール」として活動。1996年には旧国立競技場でも公演を行なっている。

 このイタリア大会抽選会の時も、パヴァロッティについて何かコメントさせられた記憶がある。

 翌年の大会取材に備えて当時イタリア語学校に通っていた僕は、番組を担当していた通訳の人に「ルチャーノ・パヴァロッティ」の発音が正しかったと褒められて喜んだ記憶があるが(カタカナで「ルチアーノ」と書かれることが多いが、正しくは「ルチャーノ」のほうが近い)、こちらも抽選会自体の記憶はもはや定かでない。

 ちなみに、BS放送が始まってからずっと僕は「BSに加入しようかどうか」と悩んでいたのだが、この時NHKからもらった出演料を使ってBS用のテレビやパラボラアンテナを購入した。

 さて、エンターテインメントの国、アメリカで今週行なわれる抽選会ではどんな演出があるのだろうか。そちらも気になる......。

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