
「11月20日に開かれた厚生労働省の社会保障審議会の部会で、65歳以上の高齢者が介護保険サービスを利用する際、自己負担が2割となる対象者を拡大していくことが議論されました。自己負担が1割から2割となれば、単純計算で介護費用は倍額に。人生設計を見直さなければならない家庭も出てくるはずです」
こう警鐘を鳴らすのは、介護医療業界専門の経営コンサルティング会社「スターパートナーズ」代表の齋藤直路さんだ。
現在、利用者の91.9%が1割負担で、一定の所得(単身で年収280万円以上など)がある人が2割負担、現役並みの所得(単身で年収340万円以上など)がある人が3割負担と、負担基準は“所得ベース”で考えられている。
「今回、厚労省が示した案は、所得だけではなく、預貯金などの金融資産も考慮するという新しい視点です。収入は少ないが預貯金が十分ある人、収入はあっても預貯金が少ない人など、多様な視点から負担を見直そうという方向に議論が進むとみられます」(齋藤さん)
財務省も「原則2割負担」という方針を打ち立て、2割負担対象者を拡大する必要性を訴えている。
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その背景を、社会保障に詳しい関東学院大学経済学部教授の島澤諭さんが解説する。
「介護保険の制度創設時の’00年度は、給付総費用が約3.6兆円でした。ところが’25年度予算ベースでは約14.3兆円と、約4倍に膨張しています。増加の主な原因は高齢者人口の増加と、サービス利用者の拡大(創設時の3.5倍以上)です。’40年度には27.6兆円まで増加する見込みで、財政難の度合いは深刻です。自己負担2割対象者の拡大は不可避といえるでしょう」
そんな状況に“老人いじめ”と、反発の声が聞こえてきそうだが、若年層の支持率が高い高市早苗首相が誕生したこと、それによって連立することになった日本維新の会が現役世代の社会保険料引き下げを公約としていることもあり、流れが大きく変わりそうだ。
「保険料を下げる場合、給付を維持すれば財政赤字が増大するため、必然的に給付見直し、つまり負担増やサービス制限は避けられません」(島澤さん)
では、自己負担が2割となると、どれほどの影響が出るのか。齋藤さんに試算してもらうとーー。
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■デイサービスと訪問介護の組み合わせのケース
一人暮らしをしている要介護1の親が、デイサービス(通所介護)を週2回、掃除や調理など、1回45分の訪問介護を週5回受けた場合を想定してみよう。
「デイサービスは1回7〜8時間の利用で870円(以下金額は概算)、さらにお昼ご飯として通所介護食材費が650円かかります。訪問介護は1回240円です。
1カ月を4週で計算すると、介護費用は1万6千960円。2割負担となると、介護保険外の通所介護食材費を除いた費用が2倍になるので、月の介護費用は2万8千720円に。1カ月あたり1万1千760円、年間では14万1千120円の負担増です」(齋藤さん、以下同)
■自宅をリフォームのケース
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歩行がおぼつかない親のために、玄関スロープ(20万円)、浴室手すり(5万円)、トイレ手すり(6万円)を設置した場合はどうか。
「介護保険において、自宅リフォームに関しては、20万円までは1割負担、20万円を超える分は自己負担になります」
当該ケースの場合、1割負担なら13万円で済むが、2割負担では15万円となる計算だ。
■介護付き有料老人ホーム入居者のケース
要介護1の親が有料老人ホームに入ったケースで考えると、
「都内施設を例にとると、入居金980万円を納めた場合、家賃12万円、管理費5万5千円、食費6万9千円、介護費用2万800円で、1カ月の負担額は26万4千800円。
自己負担が2割になれば、介護費用が倍となり負担額は28万5千600円と、月に2万800円、年換算で24万9千600円も負担が増えます」
以上のように、2割負担となると、老後の貯蓄を大きく取り崩すことになる可能性が出てくる。利用頻度の高いサービスほど、利用回数の見直しを余儀なくされる人が出てくると考えられる。
2022年に日本デイサービス協会が行った「自己負担原則2割導入における利用者意向アンケート」では、自己負担2割になった場合、約30%の人が、デイサービスの利用回数を減らす、中止するなど、何らかの利用控えを考えていると回答しているのだ。
「1回あたりの負担が増えれば、利用回数を減らす心理が働きます。しかし、それでは心身機能を維持するための活動量が減り、介護がさらに必要になってしまう懸念も」
同時に、利用控えが起こると、当然介護施設の収入が減ることに。
「在宅サービスは利用者数の変動に非常に敏感と言われ、利用者が5〜10%減るだけで赤字に転落する事業所が多いと考えられます。
利用控えの影響が大きいのはデイサービス、訪問介護など地域に根差しているサービスなのです」
撤退する事業者が増えれば、必要な介護を受けられなくなる人も生まれかねないのだ。
「1割からいきなり2割負担に増やすのではなく、消費税のように数%ずつ引き上げるなど、急激な負担増を防ぐ方策も選択肢に挙げるべきではないでしょうか」
高市政権には、丁寧に議論を進めることが求められている――。
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