中国の渡航自粛要請で浮き彫りに‥‥日本の「オーバーツーリズム」の根本問題とは?

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2025年12月04日 08:10  週プレNEWS

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外国人観光客に人気を博す一方、渋滞や交通事故も懸念されている公道カートは、受益者と受害者の不一致が顕著な一例といえる


外国人観光客に人気を博す一方、渋滞や交通事故も懸念されている公道カートは、受益者と受害者の不一致が顕著な一例といえる


11月、高市早苗首相の台湾有事をめぐる国会答弁への反発として、中国政府は自国民向けに日本への渡航自粛を呼びかける通知を行った。また中国の航空会社はこれに応じる形で、日本との間に就航していた定期便の16%にあたる約900便を減便した。

【写真】アニメ舞台の住宅地に外国人観光客が押し寄せる事態も

【渡航自粛の顕著な影響】

中国政府の要請は、国民にとっても「鶴の一声」となっている。上海市にある旅行会社のスタッフが明かす。

「現状はあくまで『自粛要請』ではありますが、公務員や政府と取引のある民間企業の社員の場合は渡航を見合わせざるをえず、事実上の渡航禁止です。それに該当しない人でも、今の時期は流石に『日本に観光に行って来ます』と大きな声では言えない雰囲気。

海外旅行の際はSNSで写真を投稿し、自慢するのが中国人の旅行スタイルですが、『それができないなら日本行きを諦めよう』という人もいます。政府による渡航自粛の呼びかけが始まって以来、日本行きの旅行商品の売れ行きは前年同期比で10%程度にとどまっています」(上海の旅行会社スタッフ)

こうした動きは、すでに日本の産業にも影響が波及している。都内で3軒の民泊施設を運営している男性は、青息吐息で話す。

「来年2月28日の春節を中心にその前後1週は、今年の夏の時点ですでに予約で埋まっていました。ところが、日本渡航自粛の呼びかけから1週間以内にすべての予約がキャンセルになりました」(民泊施設を運営する男性)

また公益財団法人大阪観光局も、11月27日の記者会見で、府内約20ホテルで、12月末までの中国人の宿泊予約のうち5割〜7割にキャンセルが発生していることが判明したと発表している。

11月18日時点の野村総合研究所の試算では、中国政府の日本への渡航自粛要請で日本の経済損失は1.79兆円、GDPを0.29%押し下げるという結果も出ており、景気への影響も懸念されている。

【高まるオーバーツーリズム議論】

ところが、日本のSNSでは、

「習近平グッジョブ」
「渡航自粛ではなく恒久的に禁止にしてほしい」

などと中国政府による渡航自粛要請を歓迎する声も上がっている。そうした投稿のほとんどは、日本各地で問題となっているオーバーツーリズムの緩和につながるとする見方が根底にあるようだ。


外国人観光客急増による地域住民への迷惑行為も報告されている京都府伊根町の集落

メディアの報道やSNSでは事実、「映え写真」を撮影する機会を求めて特定の場所に外国人観光客が殺到し、生活者の迷惑になっている現状や、一部の外国人観光客による自社仏閣での「不敬問題」などが頻繁に取り沙汰されている。

また9月には、高市首相が自民党総裁選を前にした演説会で、「奈良のシカを足で蹴り上げるとんでもない人がいます。殴って怖がらせる人がいます。外国から観光に来て、日本人が大切にしているものをわざと傷めつけようとする人がいるとすれば、何かが行き過ぎている」と発言。オーバーツーリズムの緩和を求める人々の共感を集めたことも記憶に新しい。

これに対し、

「一部の迷惑行為とオーバーツーリズムは別問題」
「対策を立てればいいだけの話」

という反論もSNS上では活発に行われている。そうした主張の前提にあるのは「日本でオーバーツーリズムは発生していない」という考え方だ。

その根拠について、全国紙社会部記者が解説する。

「年間外客数が人口の3倍以上という、『真の観光立国』であるギリシャやオーストリアなどと比べれば、人口の2割程度しか受け入れていない日本の外客数は、主要国のなかでも平均以下で、タイや台湾・韓国よりも低い割合です。同じく、国土面積に占める外客数の割合でも、高い水準とは言えない。

また、国際的には本来、オーバーツーリズムとは外国人・自国人の別を問わず、観光客の増加による混雑や環境破壊、騒音などといった負荷が過剰にかかっている状態を示す言葉。しかし日本では、一部の外国人観光客の素行やマナーの問題がオーバーツーリズムに含まれて語られることが多い。しかし、そこを切り分けて考えるべきという主張もあります」(社会部記者)

【日本特有の問題も】

一方で、「オーバーツーリズムは、数字で表せられる問題ではない」と話すのは、異文化摩擦について取材しているフリーライターの奥窪優木氏だ。

「ギリシャやオーストリアは、人口や国土面積に対する観光客の割合が高くても、経済の観光依存度が高いため、オーバーツーリズムは表面化しにくい。なぜなら住民の多くの割合が観光客からの恩恵を受けているため、負の部分対してはあるていど目をつむることができるからです。一方、日本の観光依存度はそれらの国と比べて低く、目をつむることができる国民は少数で、オーバーツーリズムが問題化しやすい」(奥窪氏)


アニメの舞台となった住宅地に外国人観光客が押し寄せ、民家を写真を撮影するという事態も


さらには日本においては、特異な事情もあるという。

「日本では近年、何の変哲もないと思われていた場所が、突如として観光地になってしまうという事例が相次いでいる。これまで国内からも見向きもされなかったような地方の農村風景が突然SNSで拡散され、それを目当てに殺到した外国人観光客によって畑が踏み荒らされたり、アニメの舞台となった住宅街がレンタカーの違法駐車や渋滞が頻発したりするようになっています。

彼らの宿泊や飲食に関わる人たちには恩恵がありますが、そこに暮らす生活者たちは、恩恵は受けることはなく迷惑だけを負担しなければならない。長らくの世界的観光地であるヴェネチアやタージマハルやマチュピチュに外国人観光客が倍増するのとはわけが違うわけです。もちろん、理解促進やマナーの呼びかけなどによって解決できる部分もありますが、限界もあります」(奥窪氏)

つまり、観光による受益者と受害者の不一致こそが、日本のオーバーツーリズムの根底問題というわけだ。そしてそれを解決するのは、紛れもなく政府の仕事である。

文/吉井透 写真/吉井透、photo-ac.com

このニュースに関するつぶやき

  • 外国からの観光客をすべて否定する訳じゃないけど弊害もある。小豆島に住む友人は東京のホテル高騰に嘆いているし小豆島の観光公害を憂いている。「受益者と受害者の不一致」これを解消する必要があるよね
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