
『新 都市動物たちの事件簿』(佐々木洋著)は、思わず人に教えたくなる“都会派動物たち”のエピソードについてプロ・ナチュラリスト(プロの自然解説者)の著者が紹介する一冊。
今回は本書から一部抜粋し、ことわざ「同じ穴のムジナ」の語源にもなったニホンアナグマの生態と、彼らがなぜ今、都会へと進出しているのかについて紹介します。
「同じ穴のムジナ」の正体
ニホンアナグマは本州、四国、九州などに分布する、日本固有種だ。オスは全長68から85センチメートルぐらいの大きさ、メスは全長65から77センチメートルで、個体差はあるが、全体的に薄茶色で、顔面は白味がかっていて、目のまわりの黒い部分は縦長で、どこかサーカスのピエロの典型的な化粧のようだ。
それで私はニホンアナグマを「森の道化師」と呼んでいる。
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「アナグマ」の名前の通り、土などに穴を掘り、そこを繁殖場所やねぐらとして使う。四肢に長く鋭い5本のかぎ爪があり、扁平な体つきで、穴を掘る能力にたけているのだ。
丘などの北向きの斜面に小型犬なら入っていけそうな入り口の穴を開けるので、巣穴はわりと簡単に見つかる。入り口付近に落ち葉がたまっているとその穴はしばらく使っていないが、そこに落ち葉がほとんどなく、また体を擦ったような跡がついていれば、ほぼ間違いなく今使っている穴と考えてよい。
ニホンアナグマもタヌキも、ムジナと呼ばれることがあり、ニホンアナグマの掘った穴を、1から穴を掘ることのできないタヌキが使ったりもすることから「同じ穴のムジナ」という言葉が生まれたとも言われている。
私は、実際、神奈川県清川村でニホンアナグマが入っていった穴の入り口の近くで、再びそれが出てくるのを待っていたところ、同じ穴からタヌキが出てくるところを目撃したことがある。
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絶滅したはずのニホンアナグマが都心に出没
このニホンアナグマが、近年、東京の都市部にも姿を見せ始め、ついには東京23区でも確認されている。2023年発行の『東京都レッドデータブック(本土部)』では、東京23区内でのニホンアナグマは戦前の記録しかなく、絶滅したと考えられている。
しかし、2024年に私自身が目撃した練馬区ばかりでなく、2013年6月11日のNPO法人生態工房の事務局ブログには同年6月10日に杉並区の駅の近くで目撃したという記述があったり、2022年5月9日午後7時49分ごろと同5月19日午前3時36分ごろの2回、世田谷区内で調査のために設置したトレイルカメラに、ニホンアナグマの動画が映ったりしている。
大田区でも、目撃証言が複数ある。
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野生哺乳類の多くは、川沿いに大きく移動する。世田谷区や大田区で目撃されているニホンアナグマは、多摩川沿いに移動してきた可能性が高い。あるいは、東京の区部と郊外の境目のようになっている国分寺崖線沿いを移動してきたのかもしれない。このあたりにも野川という川が流れている。
都会で生きられる2つの理由
そして、最初は川沿いに定着したニホンアナグマは、いずれ内陸に向かって面のように生息エリアを広げていくのだろう。このあたりの事情は、アライグマのケースに似ている。ニホンアナグマは、さほど人間を怖がらず、また雑食性が強い。この2つの特徴を持つ生物は、大都会でもじゅうぶんに生きていける。
タヌキ、ハクビシン、アライグマ、ドブネズミ、クマネズミ、ハシブトガラスなど、都会でおなじみの生物は、みなそうだ。
佐々木 洋(ささき ひろし)プロフィール
プロ・ナチュラリスト。40年近くにわたり、自然解説活動を行っている。とくにホームグランドの東京都心部では、毎年200回ほど自然観察会を開催している。NHK『ダーウィンが来た!』などに出演。『どうぶつのないしょ話』(雷鳥社)、『となりの「ミステリー生物」ずかん』(時事通信社)など著書多数。NHK大河ドラマ生物考証者、Yahoo!ニュース エキスパートコメンテーター。(文:佐々木 洋)

