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「公平負担」という大義名分のもと、日本放送協会(NHK)が受信料の未収対策をかつてないレベルで強化しようとしている。
NHKは昨今、契約を結んでいるにもかかわらず長期間支払いが確認できない世帯や事業所に対し、支払督促による民事手続きを拡大する方針を打ち出した。その本気度を示すかのように、本部内には「受信料特別対策センター」なる組織まで設置されている。
物価高にあえぐ国民に対しては、法的措置も辞さないという厳しい姿勢を見せるNHK。しかしその一方で、われわれの生活を守るはずの「警察組織」において、驚くべきルーズな実態が露呈していることをご存じだろうか。
2025年3月、愛知県警が捜査用車両に設置したカーナビ38台分の受信料、約644万円を支払っていなかった事案が判明した。さらに島根県警や愛媛県警といった地方警察でも同様の未払いが次々と発覚している。
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取り締まる側の警察が受信料を払っていないにもかかわらず、国民には「対策センター」まで設けて追い込みをかける──。この状況に、世論が納得するはずもない。
果たしてNHKは、この矛盾をどう説明するのか。そして、ブラックボックスに包まれた「督促の基準」はどこにあるのか。本誌はNHK広報局に対し、直球の質問状を送付した。返ってきた回答から見えてきたのは、公的機関に対する「緩さ」と、国民に対する「冷徹さ」という、いびつな二重基準だった。
●警察には「お願い」、国民には「法的措置」
今回の回答で最も気になったのは、未払いに対するアプローチの決定的な「温度差」だ。
本誌はまず、一般家庭に対する法的措置への移行プロセスについて尋ねた。NHK側は民事手続きについて、「受信料制度の意義や公共放送の役割を丁寧に説明したうえで、それでもなお、お支払いいただけない場合の最後の手段」とした上で、こう回答している。
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「文書や電話、訪問によるお支払いのお願いを繰り返し実施した上で、支払督促の申立てを行いますが、回数などの基準は設けておらず、個別の事情を総合的に勘案して、実施の可否を判断しています」
つまり、国民に対しては「基準は教えないが、われわれの判断でいつでも裁判所を通じた督促(支払督促)を申し立てる」という、非常に強い圧力を伴う回答である。
では、身内ともいえる「公的機関」の不祥事についてはどうか。愛知県警などで発覚したカーナビ受信料の未払いについて、なぜこうした事態が常態化していたのか、そして官公庁への督促も同様に強化するのかを問うた。返ってきたのは、あまりにも拍子抜けする回答だった。
「自治体から受信契約の届け出漏れが相次いでいることを踏まえ、お手続きについて正確にご認識いただけるよう、より丁寧に周知していく必要があると考えています」
国民に対しては「民事手続き」「支払督促」といった法的用語をちらつかせる一方で、警察や自治体の組織的な未払いに対しては「丁寧に周知」という、極めてマイルドな表現に終始したのだ。
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なぜ、警察の未払いは「認識不足」として優しく諭され、国民の未払いは「対策センター」による標的とされなければならないのか。NHKの回答を見る限りでは、「取りやすいところから取り、弱いところには強く出る」という徴収姿勢が透けて見えるといわざるを得ない。
●督促基準は「ブラックボックス」のまま
国民として最も気になるのは、「どこまでいったらアウトなのか」という具体的なラインだろう。しかし、今回の取材でNHKはその基準を一切明かさなかった。
「督促状が何回届いたら法的措置に移行するのか」「訪問は何回行われるのか」。これらについて、NHKは「回数などの基準は設けておらず、個別の事情を総合的に勘案」すると述べるにとどまった。
これは非常に巧妙、かつ恐怖心を煽る回答だ。明確な基準(例えば『督促状3回無視で法的措置』など)があれば、視聴者は予測ができる。しかし、「基準はない」と言われれば、NHKのさじ加減1つで、ある日突然、法的措置の通知が届く可能性も否定できないことになる。
あえて基準をブラックボックス化することで、不透明な恐怖感による支払いを促している──そう勘繰られても仕方がない運用実態だ。
●カーナビ契約については「自己申告待ち」か
警察車両の未払い問題で注目されがちなのが、「カーナビ」の受信契約だ。
一口に車のカーナビといっても、ワンセグ・フルセグを視聴するのに必要なチューナー付きのカーナビが搭載されている車も存在する。しかし、外から見ただけでは、その車にチューナー付きのナビがついているのか、単なるモニターなのか、あるいはナビ自体がないのかを判別することは不可能に近い。
本誌は、外観から判断しにくい個人車両のカーナビについて、どのように設置を確認し契約を迫るのかを尋ねた。
「NHKの放送を受信できるカーナビを所有されている場合、受信契約の対象となりますが、世帯においては、住居に設置されたテレビなどの受信機で既に受信契約を締結済みであれば、新たに契約する必要はありません」
「受信契約は、NHKの放送を受信されている方に届け出ていただくことが放送法等で規定されています」
ここで、誤解がないように契約ルールの違いについて補足しておきたい。NHKの回答にもある通り、一般家庭における「自家用車」の場合、住居ですでに受信契約を結んでいれば、例え車にテレビ番組視聴が可能なチューナー付きのカーナビが搭載されていても、追加契約の必要はない。これは世帯同一性が認められるためだ。
しかし、これが企業や官公庁が保有する「事業用車」となると話は全く異なる。事業所単位の場合、テレビ機能付きのカーナビを搭載していれば、原則として「車両1台ごと」にNHKとの個別契約が必要になる。今回の愛知県警などのケースがまさにこれにあたる。何十台、何百台とある捜査車両の1台1台に対して契約義務が発生するため、その未払い額も数百万円規模という巨額になったのだ。
ここで気になるのは、その運用が可能かという点だ。自家用であれ事業用であれ、カーナビ搭載車を外から見ただけでは、カーナビにチューナーが付いているのか、あるいは走行中にテレビが見られない設定になっているのかを判別することは不可能に近い。
NHKの「届け出ていただくことが放送法等で規定されています」という回答は、裏を返せば、NHK側には「外観からカーナビの有無を特定する有効な手段がない」ことを事実上認めているに等しい。
警察車両ですら「届け出漏れ」していたものを、一般の事業者が正確に把握し、自発的に全台数分を届け出るとは考えにくい。
●「公平」の定義が揺らいでいる
そもそも、放送法第64条に基づく受信料制度は、公共放送を支える根幹であり、公平負担の原則は尊重されるべきだが、その「公平」の定義が揺らいでいる。
身内である公的機関の組織的な未払いには「丁寧な周知」で済ませ、捕捉困難なカーナビには「自己申告の義務」を盾にし、一般家庭には不透明な基準で「法的措置」をちらつかせる。
特に、警察車両の未払いが見逃されてきた事実は重い。彼らは「受信料特別対策センター」から督促を受け、民事手続きを迫られただろうか? おそらく、事務的な修正手続きだけで済まされたはずだ。
NHKが掲げる「未収対策の強化」が、単に立場の弱い国民への締め付け強化を意味するのであれば、公共放送への不信感は募るばかりだ。
まずは、警察や自治体を含めた公的セクターの全数調査を行い、身ぎれいにしてからでなければ、国民に対して“公平負担”や“法的措置”を口にするのはいかがなものかと思う。
「受信料で成り立つ公共放送NHK」の立場や方針、その在り方を貫くならば、受信料督促の手法も、誰に対しても公平で、かつガラス張りの透明性が求められるはずだ。ブラックボックスの中に逃げ込むような回答では、真の理解は決して得られないだろう。
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“NHK受信料”の督促に温度差 警察には「丁寧な周知」も、国民には「法的措置」(写真:ITmedia Mobile)73

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