ブルーレイはなぜ、DVDより先に「オワコン化」したのか タイミングを逃し続けた“勝者”の末路

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2025年12月25日 10:21  ITmedia NEWS

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 2025年2月にソニーがBlu-rayディスクメディアの生産を終了した。同時にMDやミニDVカセットも終了した。ソニーのプレスリリースには終了理由は書かれていないが、日本企業が国内で製造するメリットがなくなった、ということだろう。


【画像を見る】下がり続けているブルーレイレコーダー/ブレーヤーの出荷台数推移


 ディスクメディアで名をはせた国内企業に、太陽誘電がある。だがこちらはすでに15年という早い段階で撤退している。


 ソニーのBDメディア生産終了の影響は、コンシューマーでは軽微だろう。利用者もまだ存在するため、すぐに市場から消えるわけではなく、需要がある限り台湾などの国外メーカーが作り続ける。


 実はソニーのBDメディア生産終了は、プロの方が影響が大きい。ソニーではBlu-rayディスク開発で得られた知見をベースに、放送用記録メディアである「XDCAM」用ディスク、「Professional Disc」を製品化した。Blu-rayとの互換性はないが、技術的背景はかなり近い。


 Professional Discディスクは、ポストプロダクションや製作会社から放送局の番組納品メディアとして利用されている。現時点ではProfessional Discの生産終了は公式には発表されていないが、20年にはCM納品専用ディスクであった「30PFD23ACM」の販売を終了した。それ以降放送局のCM納品は、ファイルベースへ移行している。


 今年の「Inter BEE」では、番組納品もファイルベースで行うなど、「XAVC」ファイルをワークフローの中心に据えていく方向が示された。これは暗にXDCAMディスクメディアの終了を見据えてのソリューション展開だろう。


 加えてソニーでは、Professional Discをデータ用に特化させた「Professional Disc for DATA」を開発・商品化した。専用ドライブと合わせて、業務用バックアップシステムを構築するものだった。


 その後、同じくBlu-rayの技術を使い、パナソニックと共同で「オプティカルディスク・アーカイブ」を商品化している。これも専用カートシステムでライブラリ管理を行うものだ。


 だがこれも25年3月いっぱいで、商品の販売が終了した。カートリッジは引き続き入手可能としているが、現在も生産し続けているのかは分からない。大量に在庫しているだけで、生産自体は終了している可能性もある。ただこれ以上ハードウェアが入手できないのでは、実質的にはシステムの終了である。


 保守的なプロの世界でも、ディスクメディアは終わりの準備に入っている。


●Blu-rayはなぜ続かなかったのか


 ビデオ用光ディスクの歴史は、競合の歴史ともいえる。市販ソフト用のフォーマットは早期に決まったが、書き込み型のメディアフォーマットは規格が乱立した。


 00年代初頭のDVD時代には、DVD-R/RWとDVD+R/RWとDVD-RAMが、推進メーカーのにらみ合いという格好で競合した。競合は製品開発を加速させる。この頃からテレビ録画用のレコーダーはHDDとDVDメディアのハイブリッドとなり、VHSに代表されるテープの時代を急速に終焉に向かわせた。


 乱立と言われたDVDフォーマットの競合を終わらせたのは、5フォーマットが全部読み書きできるというドライブの登場だった。なんとも力業だが、これにより選択はユーザーに任されたことは大きい。最終的に生き残ったのがDVD-Rだったのは、規格としての優位性というよりは、メディアの値崩れが一番顕著だったからだと思っている。


 一方Blu-rayは、03年にスタートした地上デジタル放送のハイビジョンに対応できるとして登場したものの、初期型はメディアがカートリッジタイプで、レコーダー自体も45万円と高価だったため、大半の消費者は「見送り」状態であった。


 06年にDVDの正式な後継フォーマットとして「HD-DVD」が登場すると、Blu-rayと競合した。Blu-ray陣営は対抗のために規格を変更して、カートリッジなしの現在の姿に舵を切った。


 どちらとも決着がつかない膠着状態が続いたが、HD-DVDが市場撤退を決めたのは08年で、そこでフォーマット戦争が終結し、Blu-ray1本となった。


 しかし地上ハイビジョン放送が始まってすでに5年が経過しており、ユーザーはハイビジョン番組はHDDに録画すれば十分と考えるようになっていた。さらに保存するなら、SD解像度にダウンコンバートしてDVD-Rに記録しなければならないという、なんとも中途半端な状態に置かれたことで、記録メディアに対する依存度が下がった。


 よってBlu-ray陣営は記録メディアよりも、映画タイトルを販売するためのパッケージフォーマットとしての方向性を重視していった。レコーダーのBDドライブは、ディスクメディアのプレーヤーとしての役割を担うようになっていった。


 つまりBlu-rayは、規格が一本化されたときにはすでに記録メディアとしては、あまり期待されていなかった。時代に乗り遅れたのだ。


 以前作成した、BDレコーダー/ブレーヤーの出荷台数推移のグラフを再掲載しておく。レコーダーの11年の急激な伸びは3Dブームだったわけだが、それも急速に収束したことが分かる。それ以降の推移を見ても、右肩上がりとはいえない。


 つまりBDレコーダーは、規格が統一されて以降、3Dブーム以外では需要が伸びたことはなかった。


 PC用バックアップメディアとして考えても、ドライブの価格とディスクの価格を考えれば、それほどコスパがいいわけではない。ちょっと人にデータを渡す用途であれば、容量を上げてきたUSBメモリで対応できた。


 のちにセキュリティの問題からUSBでのデータ渡しが禁止されても、コスパと容量の関係から、CD-RかDVD-Rで十分だった。


 一方映像の高解像度化が進行し、放送用では08年頃から、コンシューマーでは13年頃には4K対応カメラが登場してきた。カメラとテレビが先行したが、Blu-rayが規格を拡張して4K記録対応になったのは16年である。ここでも3年のブランクがある。


●ソフトウェアパッケージとしての存在価値


 ではソフトウェアパッケージとしてはどのように推移したのか。一般社団法人 日本映像ソフト協会がまとめた、「ビデオソフトの売上金額と数量の推移(1978年〜2024年)」によれば、販売用メディアとしてBlu-rayは08年頃から徐々に頭角を現し、15年にはDVDを上回るようになった。


 だがセルビデオセールス全体から見れば、収益は下がり続けている。注目すべきは、24年時点でもまだDVDがそれなりにシェアを持っているというところだ。


 ではレンタルはどうだろうか。こちらもBlu-rayの登場は08年だが、ほとんどBlu-rayは存在感を示せていない。そもそも07年以降は滑り台のようにセールスが下がっている。


 言うまでもなく、動画視聴がメディアからネットストリーミングに変わっていったからだ。「YouTube」が日本語対応になったのが07年、米Amazonが今のプライムビデオの前身となるAmazonインスタント・ビデオを開始したのが13年だ。15年には黒船と言われた米Netflixが日本でサービスを開始している。


 ここで注目すべきは、3D対応機が出てきた11年の売上だ。ハードウェアは売れたが、ソフトはそれほど目立った売上に結びついていない。つまり、キラーコンテンツがなかったということである。3D映画としての大ヒット作「アバター」の公開が09年だったが、家庭用Blu-ray 3D対応ハードウェアが登場するまで2年かかっている。ここでも微妙にタイミングを逸していることが分かる。


 業務ビデオの世界に目を向けてみよう。幼稚園や学校では、卒業に合わせて卒園・卒業ビデオを学校公式の業者が制作し、販売するという事業がある。


 DVDかBlu-rayが選択できるが、一般にDVDが3000〜5000円程度であるのに対し、Blu-rayは5000〜7000円程度になる。DVDの方が価格が安いのは、メディア代が安いこともあるだろうが、デュープマシンのコストも安いからだ。さらにDVDの方が数が出るのであれば、当然単価は下がる。


 また家庭内での再生機を考えると、昔はBlu-rayプレーヤーを持っていたが、もう何年前だ? という人も多いだろう。筆者宅にあるBlu-rayプレーヤーはおそらく15年ぐらい前に買ったもので、もう7年ぐらい電源を入れていないので、今は動くかどうかも分からない。それだけBlu-rayディスクは、「手元にはないもの」になってしまった。


 こうした卒園・卒業ビデオがいつまでもメディア販売なのは、おそらく保護者がデータをなくすからだと思う。すでに写真はダウンロード販売になっているが、写真はスマホ写真と一緒に管理できる。しかし動画データはサイズが大きく、しかもファイルが1つしかないので、管理しきれずなくしてしまう可能性は高い。それよりは、押し入れを整理してたら卒園DVDが出てきたという方が、まだ楽しみがある。


 DVDプレーヤーも今となってはレガシー製品扱いだが、PC用のCD/DVDドライブはいまだ現役商品として売られており、2000円程度で買える。再生の可能性を考えたら、Blu-rayよりもDVDの方がまだつぶしが効くように思える。


 Blu-rayは、フォーマット戦争華やかだった時代の最後の産物であり、常に成長のタイミングを逸し続けた規格だった。基幹技術はプロフォーマットの中に残ったが、それも終わろうとしている。


 記録型DVDはPCの世界で「ライティングブーム」が起こったので、00年代初頭に随分攻略した人もたくさんいるだろう。一方Blu-rayにはそれがなく、PCユーザーにとってもなんとなくよそよそしいメディアだった。


 DVDよりも早く終焉を迎えるのも、仕方がないように思える。



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  • それでもHDDレコーダーに録画した物を残すには欠かせない。
    • イイネ!24
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