
若年層のネット依存は日本のみならず、世界各国で社会問題となっている(写真はイメージ)
昨年12月、オーストラリアで16歳未満のSNS利用を禁止する法律が施行された。「生活の一部」が突然消失した子供たちは何を思う? 保護者を含め、オーストラリア国民のQOLは上がった? 現地在住ジャーナリストが生の声を聞いて回った!
【友達を選ぶ権利を奪われた】
昨年12月10日、オーストラリアで壮大な社会実験が始まった。16歳未満のSNSの使用を禁じる法律が、世界で初めて施行されたのだ。
その目的はネットいじめ、児童ポルノの被害、暴力など不適切なコンテンツの閲覧などから子供たちを守ること。同様の取り組みはヨーロッパ諸国も検討しており、世界中がその成否に注目している。
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まずは当事者である16歳未満の子供の声を聞いてみた。ラクランさん(14歳・男子)は「大賛成だ」と語る。
「子供たちはSNS上で言葉の暴力、人種差別、いじめといった問題にさらされています。そしてインターネットに時間が取られ、そばにいる人と十分な時間を過ごしていないという状況が続いた結果、この法律が導入されたと思います」
意外というべきか、彼に限らず、賛成の声が目立つ。続いてはエミリーさん(13歳・女子)の意見。
「周りが皆SNSをやっているのに自分だけしていないと疎外感・孤独感を味わうので、仕方なくSNSに時間を費やしてきました。自由な時間が増えて私は大歓迎です」
マティルダさん(14歳・女子)もこう言う。
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「今は夏休み期間(南半球のオーストラリアでは例年12月10日前後から1月下旬までの約7週間が夏休み)で、SNSで連絡が取れなくなったらどうしようと思っていました。
でも連絡したい人とはメールやMessengerでやりとりしています。そう考えると今まで連絡しなくてもいい人とのやりとりに時間が取られていたんだなと、ビックリしました」
オーストラリアのアルバニージー首相は、「SNS禁止法によって子供の暮らしが変わる」と成果を強調した
今回禁止となったのはX、Instagram、Facebook、YouTube、TikTok、Snapchat、ThreadsなどのSNS。
一方でWhatsAppやMessengerなど、一対一や小さな集団内でのコミュニケーションツールという側面が強いものは規制対象から外れている。ちなみに日本で大人気のLINEはオーストラリアではほとんど利用されていない。
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このように好意的な声が主流を占めたが、もちろん反対意見もある。ジェイムスさん(15歳・男子)はこう言う。
「僕は過疎地の牧場に住んでいて、近所に友達はいません。夏休みにネットでYouTubeやTikTokを見られなくなった代わりに、テレビ番組や動画配信サービスを見る時間が増えただけです。動画にコメントもできないし、大人たちが見せたいものをただ一方的に見せられている気がしています」
匿名希望の13歳の女子は、「友達を選ぶ権利」の侵害だと訴えた。
「SNSがなくても家族や学校の友達と話せばいいという人もいます。でも私はちょっとした発言からいじめられた経験があり、対面で話すのが怖い。顔を合わせないネットの友達だから話せることもあります。大人たちは子供たちから、友達を選ぶ権利を奪っているようにしか思えません」
ネット依存は解消するべきだが、ネットのつながりが生命線だという人もいるのだ。
なお、同法で罰せられるのはプラットフォーマーで、違反した子供やその保護者が罰せられることはない。その抜け穴を突く人もいる、と語るのはジェイムスさん(15歳・男子)。
「詳しくは話せませんが、アカウントに偽の生年月日を打ち込むことはできますし、年上の知り合いにお願いしてその人の顔認証でアカウントを作ることもできます。あとAIでも顔の画像なんて作り放題ですよね?」
さらに、VPN(仮想プライベートネットワーク)を使って、あたかも自分が海外にいるかのようにしてSNSのアカウントを作る子供も少なくないという。
イーロン・マスク氏は、X上でオーストラリアのアルバニージー首相に引用リポストする形でSNS禁止法を批判した
【賛否分かれる保護者の声】
もう一方の当事者とも言える、保護者の声も聞いてみた。サプライチェーンマネジャーのヒルさん(52歳・男性)はこの法律を支持している。
「中学生の息子と、家族みんなで楽しめるボードゲームをする時間が増えました。また彼は、自転車を新調してサイクリングを楽しんでいます」
企業で取締役を務めるカービーさん(42歳・男性)もこう言う。
「今まで子供たちはYouTubeやTikTokを見るのに忙しく、私は彼らが見るチャンネルが適切なものかチェックすることばかりに時間を取られていました。ところが最近では、10歳と8歳の子とおしゃべりする時間が何倍にも増えました」
大筋では歓迎する一方で、彼は「子供たちにとって今まで夢中になっていたものが急になくなった状態です。喪失感は必ずあるはずで、それは親もケアする必要があるでしょうね」と続けた。
一方で、禁止法に真っ向から反対する保護者もいる。まずは建築デザイナーのE・J・Kさん(47歳・男性)の声。
「法律で禁止してしまうと、16歳まで一切触れず、その年齢になった途端ソーシャルメディアの荒波に突然さらされることになる。それは逆に危険ではないでしょうか。
お酒と一緒です。ある日を境に突然飲酒可能になり、限界を知らずに飲みすぎてしまって、急性アルコール中毒で亡くなる子もいます。それはなんの準備もなく、突然自由にしろと放り出されるからです。
ソーシャルメディアでも16歳で突然ほっぽり出すのではなく、もっと小さいときから親たちがその利点とともに危険性を教えながら、徐々に慣れさせていくべきだと思います」
最後に、40代女性(匿名希望)の切実な訴えを紹介しよう。
「私の15歳の娘はSNSを奪われて抜け殻のようになっています。本でも読んだら、と提案はしているのですが......。忙しすぎるのも問題ですが、暇でやることがないのも人間のメンタルヘルスを悪化させるので心配です」
SNS禁止法が施行されてまだわずか2ヵ月。SNSのない夏休みを経て人々はどう変わるのか、今後も目が離せない。
取材・文/柳沢有紀夫(海外書き人クラブ代表) 写真/時事通信社 iStock
