※画像はイメージです 精密機器会社の執行役員を務める安西さん(仮名・53歳)。毎晩のジム通いと、ファッションに敏感なイケオジです。実年齢より10歳以上若く見られることも珍しくないといいます。
そんな彼が今、人生最大の窮地に立たされています。きっかけは、一人息子から告げられた「結婚したい女性がいる」という一言でした。
◆息子にはもったいない女性の登場
息子(25歳)が結婚を前提に付き合っている女性というのは、かなりハイスペックとのことで、頭脳明晰でおまけにかなりの美人な彼女の初お披露目は、都内の高級ホテルの最上階にあるラウンジでした。
「妻とロビーで待っていたら、息子が一人で現れてレストランへ案内してくれたんです。彼女はお手洗いに寄っているというので、先に個室で待つことにしました。息子があまりにベタ惚れな様子なので、どんな彼女が来るのか期待半分、不安半分でした」
しばらくして、個室のドアが開きました。そこに現れたのは、グレーのワンピースを上品に着こなし、髪を上品にアップにした女性でした。
その凛とした雰囲気に、安西さん夫婦は思わず顔を見合わせ、満足げな笑みを浮かべたといいます。
「本当に綺麗な人だ、というのが第一印象でした。話し方も丁寧で、控えめで。息子にはもったいないくらいだと、その時は手放しで喜んでいたんです」
◆実は初対面ではなかった
食事会は、息子の主導で和やかに進みました。仕事の話、幼少期の思い出、二人の馴れ初め。会話は途切れることなく盛り上がりました。ところが、安西さんはメインディッシュが運ばれてくる頃から、言い知れぬ違和感に襲われたといいます。
「目の前の彼女が見せるちょっとした表情や、笑った時に少しだけ首を傾げる仕草……。どこかで見覚えがあると感じ始めたんです。
最初は『仕事関係のレセプションで会ったかな?』とか、『取引先の受付の方だったか?』と必死に記憶を辿りました。でも、どれもピンとこない。心のどこかで、もっと卑俗な場所での記憶だと胸騒ぎがしていました」
安西さんは、笑顔を取り繕いながらも背中に薄い汗が滲むのを感じていました。そして、食後のコーヒーが運ばれてきた時、パズルのピースが最悪の形で噛み合ったのです。
「思い出した瞬間、心臓が跳ね上がりました。今から2年ほど前、執行役員への昇進が決まる直前の、あの狂った時期のことです。
当時、私は出来心で『パパ活アプリ』に手を出していました。彼女は、その時に数回食事をし、それ以上の関係も持った……、まさにその相手だったんです」
◆生きた心地がしないまま時間だけが進む
確信を得てからの時間は、安西さんにとって拷問に等しいものでした。目の前で息子の横に座り、お淑やかに笑っている女性。2年前、ホテルのバーで自分に媚びるような視線を送り、対価を受け取っていた彼女。
「頭の中が真っ白になりました。向こうは気づいているのか? ちらっと彼女と目が合った時、ほんの一瞬だけ、彼女の瞳の奥が冷たく光った気がしたんです。
でも、彼女は完璧な『息子のフィアンセ』を演じ続けている。もしここで私が何か言えば、自分のパパ活も露呈し、家庭も社会的地位も崩壊する。気づかないフリをするしかない、と自分に言い聞かせました」
結局、食事会は何事もなかったかのように終了しました。息子は「親父も気に入ってくれてよかったよ」と嬉しそうに言い、妻も「素敵な娘さんね」と上機嫌。
安西さんだけが、足元の地面が腐り落ちていくような感覚を抱えたまま、ホテルの車寄せで彼らを見送ったといいます。
「彼女が去り際、私にだけ深々とお辞儀をしたんです。その時、微かに口角が上がったように見えました。それが確信犯としての嘲笑なのか、あるいは私と同じ恐怖を隠しているのか、判断がつきませんでした」
◆墓場まで持っていくべき「秘密」の行方
その後、事態は安西さんの葛藤を置き去りにして、猛スピードで進展していきました。両家の顔合わせが済み、披露宴の日取りまでもが決定。新居の相談まで始まったといいます。しかし、安西さんの心は一向に晴れません。
「彼女は今でも、私の前では完璧な『息子の妻』候補として振る舞っています。一度も過去を匂わせる発言はしません。
でも、もし結婚した後に誰かから漏れたら? あるいは彼女が息子を操り、私を強請り始めたら? 毎日、そのことばかり考えて眠れないんです。彼女の目的が、純粋な愛なのか、それとも偶然を装った復讐なのかさえ分かりません」
その後、息子たちの結婚へ向けての準備は順調に進み、この取材を受けた半年後に披露宴を行うそうです。自分の浅はかな行動に苦しめられている安西さん。最近は体重が5kgほど落ちたそうです。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営