ヤマハはなぜ“六角形の船”を開発するのか 速さより居心地の良さを目指したワケ

21

2026年02月19日 07:20  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

ヤマハの六角形の船が面白い

 キャンプが「特別な趣味」でなくなったのは、いつからだろうか。テントを張り、テーブルを用意し、焚き火を囲む。かつてのアウトドアといえば、装備や知識が必要だったが、いまは違う。「週末、ふらっと行ってきますね〜」と言えるほど、日常に溶け込んだ。その背景には、道具が軽くなり、扱いやすくなり、“構えなくても”楽しめるようになったことがある。


【その他の画像】


 アウトドアの場所は水辺……いや、水面でも楽しめるのではないか。そんな発想から生まれたプロダクトがある。ヤマハ発動機の浮体「Sixフロート」だ。


 幅は3メートル弱。円形のゴムボートの上にFRP(繊維強化プラスチック)の天板を載せた構造で、大人でも大の字で寝転べる広さがある。電動で動き、出力は1.5キロワット。最高時速は5キロほどなので、歩く速度で進むイメージだ。


 タブレット端末またはジョイスティック(1本のレバー)で操作できると聞くと、「船舶の免許を持ってないから。操縦できないや」などと感じられたかもしれない。しかし、その心配はいらない。先ほど「幅は3メートル弱」と紹介したが、この数字には意味がある。


 全長が3メートルを超えて、エンジンが2馬力以上になると、国家資格の免許が必要になる。しかし、Sixフロートはその基準に満たしていないので、免許は不要である。ボートというよりは、水に浮かぶ“居場所”に近いのだ。


●開発の背景


 それにしても、なぜヤマハ発動機はこのようなプロダクトを開発したのか。背景に、マリンレジャーのハードルの高さがある。免許、エンジン、装備の準備など。そうした“構え”が、特に若い世代を遠ざけてきたと指摘されている。


 また、欧州では環境規制の強化によって、ガソリンエンジンが使えない水域が増えつつある。スピードや物理的な距離を競うのではなく、近くの水辺でゆっくり過ごせるモノはつくれないか。開発メンバーは、そのように考えたものの、課題も見えてきた。


 台船(だいせん)という言葉を聞いたことがあるだろうか。エンジンを持たない「平たい船」のことで、作業や運搬などのために浮かぶ作業台として使われていることが多い。レジャーでも使われていて、平らなデッキの上で釣りをしたり、水上のイベントを実施したり、バーベーキューを楽しんだり。いわば“水上テラス”のように使われているが、問題もある。コストだ。


 大型の台船は、運搬や設置に手間がかかるので、気軽に扱えるモノではない。「もっと小回りが利いて、必要に応じて広げたり、縮めたりできる台船をつくれないか」。開発リーダーの水谷真さんはこのように考え、Sixフロートの開発に着手した。


 これまでの台船を見ると、多くが四角形である。しかし、Sixフロートは六角形だ。なぜこの形にしたのかというと、理由は2つある。


 1つめは、面積効率だ。船舶扱いにならないサイズに抑えるため、最大幅は3メートル弱にしなければいけない。その制約の中で、できるだけ広い天板を確保するには、四角形よりも六角形のほうが適している。最大幅を変えずに、より広い“寝転べる面積”を取れるからだ。


 もう1つは、連結のしやすさだ。六角形はハチの巣のように、できるだけ隙間なく並べることができ、複数台を連結すれば水上に広い面をつくることも可能である。もちろん、四角形でも並べられるが、六角形のほうが外周が滑らかで(角が少なく、全体の輪郭が丸みに近い)、波の力を分散しやすい。


●販売は3年ほど先を予定


 実証実験は、これまでに4回実施した。水上にこたつを置き、紅葉を楽しむイベントに参加した人からは「次は星空の下で寝転びたい」といった声もあった。


 また、安全性の検証も行っている。Sixフロートの上を飛び跳ねても部材は外れないか、連結部に指をはさまないか、波を受けたときにどれほど揺れるのか。複数台を連結したほうが揺れを抑えられるという結果も出ていて、「実際に歩いてみると、桟橋の上にいるような感覚だった」(水谷さん)という。


 販売は、3年後を目標にしている。現状、持ち運びや組み立てのしやすさに課題があるが、慣れれば組み立ては15分ほどで完了する。「普及させるには、アウトドアで使うテーブルのように、もっと扱いやすいモノにしなければいけない」(水谷さん)という。


 ところで、Sixフロートはどこで開発しているのか。ヤマハ発動機は、かつて学校向けを中心にFRP製プールを手掛けてきた。そのときに整備した試験用プールを使い、開発を進めているのだ。


 そこで検証しているのは、浮力、バランス、連結構造など。形状を少し変えては水に浮かべ、状態を確認している。ちなみに、夏、そのプールで従業員が泳いでいる……といった目撃情報は届いていない。


 遠くへ行くための乗り物ではなく、速さを競うプロダクトでもない。水辺に出る理由をひとつ増やすためのモノだが、もしこれが普及すれば「週末、水上でゴロゴロしてきたよ」――。そんな会話が、あちこちで聞こえてきそうだ。


 20XX年の辞書には、「水上昼寝」という言葉が追加されているかもしれない。


(土肥義則)



このニュースに関するつぶやき

  • 水上ってまさか海�����顼�áʴ��(笑)漁船に当てられたらヤバイよ���顼�áʴ��
    • イイネ!1
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(15件)

ニュース設定