なぜ1枚550円のシールが争奪戦に? ボンドロブームが示した「レアの正体」

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2026年02月20日 07:50  ITmedia ビジネスオンライン

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なぜ、ボンボンドロップシールを欲するのか?

 ボンボンドロップシールの魅力は何か。前編では1枚数百円にすぎないシールが起こしているさまざまな騒動を紹介した。転売により価格が高騰し、模倣品まで登場。窃盗事件が発生し、家庭間の格差も浮き彫りにしている。


【社会問題に発展】なぜ1枚550円のシールが争奪戦に? ボンドロブームが示した「レアの正体」


 こうした実態を踏まえると、ボンボンドロップシール人気の要因は、単なる「かわいさ」や「交換する楽しさ」などでは説明できない。なぜ人々は、これほどまでにボンボンドロップシールを欲するのか。本稿では、この現象を「レア商品」という観点から探っていく。


 そもそも、レアとは簡単には手に入らない特別な状態を指す言葉だ。商品は一般的に「コモディティ商品」と「ぜいたく品」に分けて考えることができる。前者は、ティッシュペーパーやペットボトル飲料水のような、誰が買っても品質や機能に大きな差がなく、日常的に消費される商品を指す。ここでは「持っていること」自体に特別な意味はほとんど付与されない。


 一方、後者は必需性を超えた価値を帯びた商品である。高級ブランドのバッグや限定モデルの腕時計のように、所有することそのものが象徴的な意味を持ち、しばしば社会的な評価や自己表現と結び付く。価格の高さや入手の困難さが、その価値を補強する役割を果たす。


 両者の違いは「機能のために消費されるのか」、それとも「意味のために消費されるのか」という点である。


 その意味で、レア消費は「意味のための消費」と位置付けることができる。シールのように本来は日用品に近い商品であっても、ひとたび「レア」と認識されれば、その商品自体の機能やデザイン以上に、「レアである」という属性そのものが価値を帯びる。


 つまり、モノそのものではなく、「レアだという記号(文脈)」が消費の理由となるのである。


 例えば、ポケモンカードに代表されるトレーディングカードには、「C(コモン)」「R(レア)」「SR(スーパーレア)」「UR(アルティメットレア)」など、あらかじめ公式が定めたレアリティ区分が存在する。現在では20前後に細分化され、1箱に必ず1枚封入されるものから、出現率1%程度のものまで、封入確率は明確に設計されている。


 つまり「出現率=希少性」という構造が制度として組み込まれており、レアは製造者によって意図的に生み出されている。


 これはカードに限った話ではない。数量限定や期間限定、地域限定といった販売条件も、流通量を制御することで「手に入りにくさ」を演出する仕組みだ。希少性はモノ自体の性質というより、流通の設計によって規定されているといえるだろう。


 経年による希少性もレア度を上げる要素になる。時間の経過とともに失われ、現存数が自然と減少していく、ビンテージやアンティーク商品などが分かりやすい例だ。時間が経ってもなお残っているという事実そのものが、希少性を生み出す。


 ポケモンカードでいえば、「かいりきリザードン」が象徴的な例だ。1996年10月20日発売の第1弾拡張パック初版に収録されたこのカードは、本来「かえんポケモン」と表記されるべきところが、「かいりきポケモン」と誤植されたエラーカードとして知られている。


 誤りはすぐに修正されたため、初版の流通枚数は少ない。しかし、それ以上に重要なのは、発売から約30年が経過しているという事実である。「誤植」という偶然性と「時間」という不可逆性が重なり合うことで、このカードは数千万円という価格で取引されるまでになった。2022年にはYouTuberのHIKAKINが約5000万円で購入したことでも話題となった。


●ボンボンドロップシールを「レア」にしたのは、何か?


 あらかじめ公式が設定した希少性や、経年による現存数の減少は、数量や時間といった客観的指標で説明できる「測定可能なレア」である。一方で、ボンボンドロップシールはそうした設計型の希少性とは異なる。消費者の側から立ち上がった「文脈的レア」といえるだろう。


 「人気だから」「○○が使っているから」「ファンなら持っておきたい」といった理由によって価値が付与され、商品は後天的に社会的意味を帯びる。ここで重要なのは、レアがモノの内部ではなく、「語られ方」や「欲望の集中」によって生成される点である。


 典型的なのは、大衆的な人気が価値を押し上げるパターンだ。多くの人が欲しがることで需要が急増し、供給が追いつかなくなる。その結果として入手困難性が生じ、「レア」と認識される。ボンボンドロップシールだけでなく、昨年流行した「ラブブ」も同様の事例といえる。


 実際に検索動向を見ても、その関心の移り変わりは可視化できる。Googleトレンド(日本・過去1年)で「ラブブ」の検索動向を見ると、2025年夏から初秋にかけて検索関心が急上昇し、ピークを迎えた後、秋以降は緩やかに減少していることが確認できる。


 もしかしたらと「ボンボンドロップシール」を同期間で比較したところ、ラブブがピークアウトする秋頃から検索関心が上昇し始めていた。両者の動きを重ねると、あたかも関心が入れ替わるような推移が見られた。


 このタイプの希少性は、物理的な不足よりも、「いま欲しがられている」という事実そのものが価値の根拠となることを示唆している。製造は続いていても、市場で見かけにくい状態が続けば、人々の経験としては“手に入らないもの”になる。こうして需給の偏りが、商品をレアへと変質させる。


 ボンボンドロップシールも、発売当初は一部の層で注目される存在にすぎなかった。しかし2024年後半にTikTokで拡散され、認知が一気に拡大。キャラクターコラボも後押しし、2025年には売り切れが続出するブームへと発展した。


 こうした大衆的ムーブメントの起点は、多くの場合、特定の誰かの発信である。芸能人やインフルエンサーが紹介したり、SNS投稿が拡散されたりした瞬間、市場の評価軸は動き出す。特別ではなかった商品が「価値あるもの」として再定義され、機能や原価とは別の付加価値が形成される。


 ラブブのブームは、その典型例である。韓国のガールズグループ「BLACKPINK」のメンバーであるLISA(リサ)が、2024年にお気に入りのキャラクターとしてSNSで紹介したことが発端とされる。彼女がラブブをモチーフにした衣装でステージに立つなど象徴的な行動を取ったことで注目が集まった。その後、海外セレブやインフルエンサーがハイブランドのバッグにラブブを付けた投稿を発信。人気は一気に拡大し、ラブブにはステータスシンボルとしての意味が付与された。


 ボンボンドロップシールが、コミュニティ内での支持とSNS拡散を通じて徐々に「流行している」という文脈を積み重ねていったのに対し、ラブブは特定の人物の影響力を契機に、価値が跳躍的に押し上げられたケースである。どちらにせよ、こうして生じた入手困難性が、「レア」という認識を形成する。つまりレアは、影響力によって生み出された需要過多の帰結ともいえる。


 だが現代の消費では、もう一歩先の動きがある。人々は「いま人気があるもの」だけでなく、「これから人気が出そうなもの」まで欲しがる。


 例えば「次のシールはこのデザインだから流行りそう」「人気キャラクターとのコラボだから値が上がりそう」といった予測が立つ。すると、「人気が出て手に入らなくなりそう」というある意味その商品に対する期待が、先に需要を作っているのである。


 その結果、前述した例のように、入手するために人が集まりすぎてしまい、供給が追いつかなくなる。すると本当に手に入りにくくなり、「レア」という認識が強まる。つまりレアという状態は、すでに人気があるから生まれるだけではない。「これから他人が欲しがるはずだ」という予測が共有された瞬間から、生み出されることがあるのだ。


●レア失効の可能性も


 ボンボンドロップシールが特別視されるのも、この“欲望の集中”が起きているからにほかならない。だが、その集中が揺るぎないものかというと、そうではない。


 文脈的レアは市場で生成されると同時に、市場の動き次第で消滅するからだ。生産が追いつき、流通量が増え、誰でも容易に手に入る状態になれば、それはもはやレアではない。数量という物理的条件が変われば、希少性は失われる。


 さらに、レアが失効する理由はそれだけではない。仮に供給量が変わらなくても、人々の関心が別の対象へ移れば、その商品を求める人が減るためレアではなくなる。つまり、レアを規定しているのは供給だけではなく、需要、とりわけ人々の欲望の強度と持続力が要因なのだ。


 それゆえにレアとは物の本質ではない。公式が定めたレアであっても人気がなければ簡単に手に入ってしまうし、文脈的にそれがレアであると認識する人がいてもその母数が少なければ手に入ってしまう。コンテクストが共有され、欲望が集中し手に入れることが困難な状態がレアといえる。だからこそ、「いまはレア」であっても、それが永続する保証はない。


 ボンボンドロップシールの公式Xは先日、「品薄が続いておりご迷惑おかけしております。全種類の増産体制に入っております」と投稿した。供給が追い付けば、文脈的レアでなくなる可能性は高い。文脈的レアとは、欲望が集中している“現在”そのものなのだ。


●著者紹介:廣瀬涼


1989年生まれ、静岡県出身。2019年、大学院博士課程在学中にニッセイ基礎研究所に研究員として入社。専門は現代消費文化論。「オタクの消費」を主なテーマとし、10年以上、彼らの消費欲求の源泉を研究。若者(Z世代)の消費文化についても講演や各種メディアで発表を行っている。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」、TBS「マツコの知らない世界」、TBS「新・情報7daysニュースキャスター」などで製作協力。本人は生粋のディズニーオタク。瀬の「頁」は正しくは「刀に貝」。



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  • まさか流行るなんて考えなかったから生産ラインも少ないだろうし、増産した途端に廃れるかもしれないからラインを増やすかも悩みどころ
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