
イノベーションの普及理論では、イノベーター2.5%とアーリーアダプター13.5%の普及率で合計16%を超えてくると、普及フェーズに入るとされる。この15〜16%のところに大きなキャズム(断絶)があり、これを超えるかどうかがポイントとなる。
ポータブルバッテリーの普及率は、まさにこのキャズムを超えるかどうかの瀬戸際に差し掛かっている。特に日本においては、何らかの災害が発生すると一気に導入が進む傾向があり、皮肉な話ではあるがキャズム超えはある意味、災害の多さに左右される。昨今では自然災害だけでなく、中東情勢の緊迫による石油危機といった政治的不安定さも大きな要因になりつつある。
今年3月にはEcoFlowがグローバルでトップシェアを獲得したと報じられたが、一方で日本国内ではトップシェアを獲得できていない。その日本で7年連続でトップシェアを獲得しているのが、Jackeryである。
4月13〜14日、筆者は中国・深?にてJackeryの本社および工場を見学する機会に恵まれた。一般には生産工場は社外秘の情報が多く、特にバッテリー関係は見学はできても写真撮影や記事化が難しい例も多いが、快く取材対応していただいた(取材協力:Jackery)。
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ポータブルバッテリーは、基本的には電気を貯めて吐くだけの装置なので差別化が難しいところではある。ただ昨今は大容量バッテリーの安全性が注目されているところでもあり、Jackeryが国内トップシェアである理由や差別化要因を、見学を通してお伝えしたい。
●意外にコンパクトなバッテリー製造ライン
Jackeryのヘッドオフィスは深?市中央のオフィスビル街にあるが、バッテリーの製造工場はそこから北に車で30分ほどいった郊外にある。日本でいうところの工業団地的なところのビルの一角に生産ラインがある。
ポータブルバッテリーメーカーは、Bluettiのように元々は製造工場からスタートして自社ブランドを立ち上げたところもあるが、他方で開発・設計のみを行うファブレス企業もある。Jackeryは出自は生産工場ではなくバッテリー販売が祖業だが、自社工場での生産および社内製品試験にこだわっている。
Jackeryが日本で展開している現行商品は、リン酸鉄リチウムイオン電池を採用したモデルが10モデル以上あるが、ワールドワイド向けにはもっと多くのモデルがある。自社工場では年間180万台もの多様なポータブルバッテリーを生産する。
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拝見したのは電源パックの組み立て工程で、3ラインですべてのモデルを生産している。三元系バッテリーの製造ラインもあるが、そちらは現在休止している。
前半のメイン基板(PCBA)はほぼ自動化されており、ロボットアームではつかみにくいコイルやケーブルなどは人が取り付けている。そしてセルの選別・実装は再び自動化され、ボディへの組み込みおよび外観チェックはまた人がやるという、自動化と人力の工程が交互に配置される構成になっている。
生産ライン以上の場所をとっているのが、生産後の全品検査エリアだ。電源の初期電量(通常は30%残量)から100%まで満充電し0%まで完全放電、また100%まで満充電し30%まで放電したところで、製品として出荷できる状態になる。
こうしたテスト用の電力も大量に必要になるが、放電した電力はまた系統電力へ戻して、電力のリサイクルを行っている。
同じ工業団地内の別のビル内には、実験室フロアがあり、開発中の製品はもちろん、製造製品の抜き取り試験も行っている。試験項目は、ポータブル電源で553項目以上、ソーラーパネルで87項目。今回は低気圧試験、高低温試験、コネクタの抜き差し耐久試験、キャスター耐久試験、防水試験、高温高圧下加速試験などを拝見した。
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特に防水試験は、ヨーロッパ市場向けのベランダ蓄電池が昨今人気ということで、周囲からかなりの高圧水を吹き付けて試験を行っていた。
またJackeryではソーラーパネルも自社製造している。多くのバッテリーメーカーは自社ECサイトでソーラーパネルもセット販売しているが、ほとんどは他社製品である。ソーラーパネルまで自社製造するところは珍しい。
実験室フロアでは、ソーラーパネルの耐久試験も行われている。こちらは87項目で、太陽光シミュレーションによる発電効率試験や、パネル屈曲耐久試験などを拝見した。
こうした試験は、製品スペックを満たしているかをチェックしているわけではなく、限界値を測定してそれよりもかなり安全の方へマージンを取った値がスペックとして決定されている。
バッテリーセルそのものは別メーカーからの購入品だが、発火を想定した釘差し試験も行っている。ただこの試験は第三者専門機構に委託することが義務付けられているため、海岸沿いで人家のない専用試験場に試験を依頼しているという。
●バッテリーより広いソーラーパネル生産ライン
続いて別の場所にあるソーラーパネル工場を見学した。こちらは工場というよりも、見た目は都心にある大学のキャンパスのように見える。あいにく撮影禁止エリアなので写真はないが、中庭を囲むように高い建物がいくつもあり、連絡通路で繋がっている。
この建物の中に様々なメーカーの工場があり、そこで働く人たちが居住するマンションも同じ敷地内にある。もしここに住んで働くなら、通勤時間は1〜2分である。こうした「生活を現場に持ってくる」という工業団地的なスタイルは、日本でも高度経済成長期には見られたところだが、昨今はすっかり廃れてしまった。
ソーラーパネル製造ラインは、面積ではバッテリー製造ラインよりも広い。横に広げて製造するため、どうしてもそれなりの面積が必要になるわけだ。ここで年間100万枚のソーラーパネルを生産している。
バッテリーセルは専業メーカーからの調達品だが、まずはウエハーからセルを短冊状に切り出していく。ソーラーパネル100Wの製造には、約7.5Wの発電能力を持つセルセットが15枚必要である。よってカットしたセルを金属コードで接続して、25Wのセットを組み立てる。このセットごとに発電性能をチェックし、不良品を弾いている。
発電効率を上げるため、EVAフィルム(糊)を挟んでこの7Wセルを積層し、高温・高圧で圧縮して一体化する。EVAフィルムは最初は乳白色だが、高温圧縮すると透明化するので、太陽光を透過する。
拝見した製造ラインでは、1枚で85W発電するパネルを6枚連結し、500Wのソーラーパネルを製造していた。アメリカ市場向けのパネルで、ベランダに設置することを想定した製品である。
同じくアメリカ市場向けとして、屋根材そのものに発電機能を持たせた「ソーラー瓦」が大量に出荷を待っていた。これは波形の屋根材だが、中にセルを埋め込んであり、連結することで屋根全体がソーラーパネル化するという仕組みである。色は黒とダークブラウンがあるが、発電効率は変わらないという。
京都では2025年4月から、大手ハウスメーカー等が新築する延床面積2000m2未満の建物を対象に、太陽光パネル設置等が義務付けられたが、基本的には屋根の上にソーラーパネルを設置することが想定されている。日本でもこうした屋根材の認可が下りれば、設置のハードルはもっと下がるだろう。新築だけでなく、既存の瓦を外してこれに入れ替えることもできる。
また考えられる課題としては、陽が当たらない北側の屋根にも同じコストをかけてソーラー瓦を積載しないといけないのか、という問題がある。そうしないと屋根のデザインが合わなくなるからだ。こうした問題に対処するため、ソーラー機能がない同じデザインのダミー瓦も製造されている。
●世界と日本のエネルギー不安
Jackeryの製品は、日本においてはポータブル電源と折りたたみ式ソーラーパネルが主役である。特に24年の能登半島地震以降、防災意識の高まりから、ポータブル電源とソーラーパネルの同時購入が増加している。また昨今はホルムズ海峡情勢をはじめとするエネルギー供給の不安定化を背景に、カスタマーサービスへの問い合わせが増加しているという。
他方で世界に目を向けると、それぞれの国の事情が見えてくる。ドイツとイギリスでは電力価格の高騰と環境意識の高さから、ベランダ設置型の蓄電・自家発電システム「SolarVault 3 Series」などのニーズが高い。つまり可搬型ではなく、常設型である。
ベランダに大型ソーラーパネルを配置し、バッテリー自体もベランダに常設する。そこに蓄電した電力は、ベランダに出ているコンセント経由で家庭内の回路へ供給して使用するというスタイルだ。日本ではこうした利用は法的整備が追いついていないため使用できないが、ヨーロッパでは早くに法整備が進み、こうしたシステムが流行し始めている。
アメリカでは、ハリケーンや山火事に伴う大規模停電対策として、非常用電源のニーズが強い。家庭内の電力全てを数日間供給できる、大型クラスのバッテリーだ。またアウトドアでのニーズも高く、日本では展開していない500Wクラスの大型ソーラーパネルや、バッテリーも後から拡張できる大容量モデルが人気である。
この大型ソーラーパネルは、庭などの広い場所に山形に設置する。なぜならば反射光で裏面でも発電できる、両面発電タイプだからだ。
一方、お膝元の中国では、防災用途よりも、どちらかというと生活を豊かにするスタイルのアウトドア用途が中心の需要となっている。
Jackery Japanでは4月29日より期間限定で、原宿に国内初のポップアップカフェ「Jackery原宿発電所」を展開する。コンセプトは「とれたての電気と、いれたてのコーヒー。」。防災、アウトドア、節電など日々の暮らしに寄り添う「新しい電気の楽しみ方」を提案する。会場では屋上に設置したソーラーパネルで発電した“とれたて”の電気を使用し、その場で“いれたて”の「ソーラーブレンド」コーヒーを提供するという。
こうした展開は、防災用途に用意しておくだけではコストが合わないのではないかといったユーザーの不安に対し、日常的にどう使っていくかを提案するという狙いがある。
日本での普及は、ここが大きな課題だ。筆者もこれをなんとかしたいと考え、自宅のベランダにソーラーパネルを展開し、日々自家発電によって得られた電力を使って仕事をしている。仕事に関しては、電気代は0円である。
今回事情があって首都圏のマンションへ転居するが、その部屋の電力アンペア数は30Aしかない。もちろん工事を依頼してアンペア数を上げることは可能だが、ソーラーパネル発電とポータブルバッテリーによる電力ピークシフトでどれぐらい戦えるのか、試してみるつもりだ。
電気は「買う」から「作る」へシフトすることで、これまでの常識を少しづつ変えていけるのではないか。
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