
フランス対スペインの準決勝は、多くのブックメーカーのオッズで優勝候補の1番人気対2番人気の対戦となった。
力の接近した2チームの対戦で、どちらが前評判で上回っているかは、試合の行方を占ううえで重要な要素になる。選手、監督の耳にも入るので、上回っている側は受け身になりやすい。挑戦者の立場に身を置いていたほうが楽なのだ。
大会前の両者の関係は逆だった。スペインが1番人気でフランスが2番人気だった。両チームは一昨年のユーロの準決勝、昨年のネーションズリーグの準決勝で対戦していて、スペインが2−1、5−4と2連勝を収めていた。スペインが大会前の下馬評でフランスを上回った理由だ。
ところが、今大会が始まると両者の関係は逆転する。グループリーグを全勝で通過したフランスに対し、スペインはカーボベルデに引き分けてしまう。フランスのほうが調子はいい。スペインより強そうであるとブックメーカー各社は判断したのだろう。
フランス代表のディディエ・デシャン監督が、試合前の会見であえて「スペインのほうが強い」と述べた理由もわかる気がした。フランス有利の下馬評を打ち消したかったからだろう。
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ともあれ、下馬評に従えば事実上の決勝戦だ。今大会で第三者的なサッカーファンが最も見たかったカードでもある。空調の効いたダラスの快適なスタジアムは70176人の観衆で埋め尽くされた。
フランス、スペインとも布陣は4−2−3−1。だが、フランスのトップ下とスペインのトップ下を比べると、微妙な違いが浮き彫りになる。前者はマイケル・オリーセ、後者はダニ・オルモ。所属のバイエルンでは右ウイングを務めるオリーセに対し、バルセロナのダニ・オルモは中盤的な選手だ。
フランスがこのオリーセをトップ下で起用する理由はわかりやすい。アタッカー陣に豪華なメンバーを揃えているからだ。
この日は左からブラッドリー・バルコラ、キリアン・エムバペ、ウスマン・デンベレが並んだ。オリーセを含めれば、FWの力という点でフランスはスペインに勝る。左からアレックス・バエナ、ミケル・オヤルサバル、ラミン・ヤマルが並ぶスペインを上回るかに見えた。
【パスワークが進化】
だが、両者が交わると、フランス自慢の"FW力"はなかなか弾けなかった。目立ったのはスペインの"中盤力"で、おのずとスペインがボールを支配する時間が長くなった。
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予想されたことではあった。だが予想以上だった。フランスはスペインにパスをつながれると焦りの色を見せた。見るからに気持ち悪そうにプレーしていた。下馬評と試合の中身の違いは時間とともに鮮明になっていった。
前半20分すぎ、左SBのリュカ・ディニュが対峙するヤマルをエリア内で蹴飛ばしてしまったシーンもその流れから来ていた。スペインはオヤルサバルがこれを決め先制した。
スペインの中盤はロドリ、ファビアン・ルイス、ダニ・オルモの3枚だが、左ウイングのバエナも中盤的だ。中盤の選手が左ウイングのポジションで構えているという感じだ。さらに左SBのマルク・ククレジャも、今日的なSBらしく、そのパスワークのなかに積極的に絡んでくる。トップを張るオヤルサバルも、ボール操作の巧みな、言うならば中盤的なCFだ。
かつてのスペインは、パスワークが真ん中に集中するところを狙われ、裏返しの関係に陥り、カウンターを食いやすかった。2022年カタールワールドカップの日本戦がいい例である。
縦に速いフランスのようなサッカーは苦手なタイプだった。だが、優勝した2024年のユーロあたりから、危なっかしいプレーは激減。リスクの少ないパスワークに進化を遂げている。ただしプレーは高難度だ。狭い局面でも苦にせず、パスコースを次々に作り出していく。その鮮やかさが全開になった一戦。この準決勝をひと言でいえばそうなる。
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この日一番のプレーを挙げるならば、前半38分の球回しだ。相手GKマイク・メニャンのキックをバエナがカットし、ロドリ、ヤマル、ダニ・オルモ、ヤマル、ファビアン・ルイスと渡ったパス回しだ。ファビアン・ルイスのシュートはわずかに外れたが、こうした高級なプレーを見せられると、フランスは黙り込むしかなくなる。
【「壁パス」のお手本のようなゴール】
追加点は後半13分だった。右SBのペドロ・ポロがダニ・オルモとの間でワンツーを決めてDFラインの背後を取ると、GKメニャンと1対1となり、右足でニアサイドを打ち抜いた。サッカーの教科書に載せたくなる「壁パス」のお手本のような、繊細さ溢れるワンプレーだった。
フランスはその直前、バルコラに代えデジレ・ドゥエを投入していた。所属のパリ・サンジェルマン(PSG)では4−3−3の3トップやインサイドハーフを務める多機能型選手であり、フランスきっての技巧派アタッカーだ。スペインの技巧に対抗するためにも先発させたかった選手である。
デンベレを左に、オリーセを右に回せば、エムバペの下にドゥエを据えることもできたはず。CLを2連覇して名将の域に達したPSGのルイス・エンリケ監督なら、このスペインにどう対抗しただろうか。ルイス・エンリケは前スペイン代表監督でもある。解決策を聞いてみたくなる。
狭い局面でもパスコースを作り出す想像力と、それを実現する繊細な技巧――何より、エンタメ性を含めたサッカーというスポーツのマックス値が上昇したような気にさせるスペインの勝利だった。
攻撃的なパスサッカーの追求を怠ってきた森保一監督、並びに日本サッカー関係者は、このスペインの勝利をどう見るのか。4年前から大きく進歩したスペインと、中身的には停滞あるいは後退した日本。トップとの差は、この4年間で大きく広がってしまったと筆者は見る。
