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1946(昭和21)年創業、関東に6つの葬儀式場を運営している大手葬儀社・帝都典礼(東京都新宿区)が近く、新しい葬送サービスを始めるという。そこで、同社に問い合わせると、以下のように概要を説明してくれた。
「それは『夕告葬』です。従来は別日程で行われていた通夜、葬儀・告別式、火葬を、夕刻から1日で執り行う新しいお別れの形です」
「あれ? そんなニュースをちょっと前に聞いたような……」と思った人も多いはずだ。それは、東京都内で6つの斎場を運営する東京博善(東京都港区)が2026年2月から本格的に始めている「夕刻葬」だろう。
午後6時から葬儀を始めて、午後7時に火葬という流れの「夕刻葬」は、仕事や学校が終わった後にも参列がしやすい。また、式場利用料も通常28万6000円のところを19万8000円に割引されるなどのメリットがあるとして、東京博善が現在、普及に力を入れている「新しいお別れの形」だ。
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そんな「夕刻葬」に対して「夕告葬」とは名称までよく似ている。創業80年を迎えた老舗葬儀社がこんな大胆なパクりをするとは……と戸惑っていると、帝都典礼の市村圭取締役から意外な言葉が返ってきた。
「いやいや、実はこれは東京博善さんの夕刻葬のことなんです。最初に聞いたとき、非常にいい取り組みなので協力したいと思ったのですが、より私たちらしい名称を付けたいと思い、夕方から告別式を行う点を強調して“夕告葬”とご案内させていただいているんです」
では、「夕刻葬」として普及に努めている側は、このようなアレンジをどう考えているのか。東京博善の木場雅仁取締役は言う。
「私たちとしては、葬儀社さまと協力しながら、夕方からの葬儀を普及していくことが何よりも重要だと考えております。これから多死社会を迎える中、火葬場としては、ご遺族に新しいお別れの形をご提案し、火葬までの待ち時間を少しでも減らすことも大切な役割だと考えています。そのため、葬儀社の皆さまがご案内しやすい形でご紹介いただくことに、全く問題はありません」
まずはこの「新しい文化」を広めることが重要なので、呼び方など小さな問題だというのだ。このように大手斎場と大手葬儀社が手を取り合って普及に力を入れるのは、これが業界の課題解決につながると考えているからだ。
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夕刻葬が広まることでまず期待できるのが、「火葬集中の緩和」だ。
●業界が抱える深刻な問題
葬儀は基本的に午前中から昼間に行われるため、火葬が昼間の時間帯に集中してしまい、希望するタイミングで火葬できないという問題が生じている。
NHKの報道によれば、首都圏では数日から10日程度の「火葬待ち」が発生しているという。東京博善の発表では、同社が運営する23区内の火葬場において、火葬待ちは3〜4日とのことだ。「夕方からのお葬式」が当たり前になれば、昼間に集中する火葬も大幅に分散される。
また、減少している「会食の機会」が再び増えることも期待される。
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かつて日本のお葬式には、納棺の儀、お通夜、告別式、精進落とし、初七日法要とさまざまな儀式があった。葬儀の規模も大きく、経営者の葬儀に社員や取引先が弔問に訪れる「社葬」も珍しくなかった。参列者が会食をしながら故人をしのぶ場も多かった。
しかし、現在は葬儀の簡素化が進み、全てを1日で終えてしまう「1日葬」や、近親者のみで弔う「家族葬」がスタンダードになっている。当然、葬儀社の売り上げも減少傾向にある。これは、小規模事業者が多いこの業界では深刻な問題だ。
もし「夕方からのお葬式」が普及すれば、仕事や学校を終えて駆けつける参列者が増えるので、葬儀社側としては「夕食を提供する機会」が増えていくということだ。
「会食の機会が増えるということは、故人をしのび、人と人とのつながりを確かめ合う時間が増えることにもつながります。最近ではそうした機会も少なくなりましたが、故人と親しかった方々があいさつを交わし合ったり、喪主さまやご家族と食事を囲みながら在りし日の思い出話に花を咲かせたりする場の大切さについても、あらためて見直していただきたいですね」(帝都典礼・市村取締役)
●「新しい文化」の普及に立ちふさがる大きな壁
一方で、このような新しい葬送文化の普及には大きな壁が立ちはだかっているのも事実だ。「つなぐ葬儀社 襷―TASUKI―」という屋号で「ご家族に寄り添う」ことを何よりも大切にしている葬儀社・フラットセントラル(東京都新宿区)の平中康介社長はこう述べる。
「夕刻葬という新たな選択肢ができることで、ご家族の希望に沿った選択肢が増えることは、良いことだと思います。でも、難しいのは、私たち葬儀社側として、喪主さまなどに対して『夕刻葬はいかがですか』などとご提案できないことです。葬儀社というのは、利用される方が『このような形でお別れをしたい』という希望に寄り添い、できる限り実現するために手配をする仕事ですから」
一般的なサービス業では、新サービスがローンチすると現場ではいわゆる「売り込み」が行われるのが普通だ。メリットや費用面の利点を伝えて、契約につなげる。そのように利用者が増えていくことで、消費者の間で新サービスの認知も広がり、普及していくという流れだ。
しかし、葬儀はそうではない。メリットやコスパなどよりも、「悲しみの中にいるご遺族」が経済的・時間的な制約の中で、こういうお別れをしたいという意向が何より優先される。葬儀社側が「こういうお葬式がおすすめです」と積極的に勧めるようなものではないのだ。
「うちで夕刻葬をご利用いただいた方は、正直なところ“たまたま”だったんです。ご希望の時間帯はどこも予約で埋まっていて、困っていらっしゃったので、『でしたら夕方からの葬儀もできますよ』とご提案をさせていただいたところ、だったらこれにしようとなったんです」(平中社長)
夕刻葬が斎場運営会社や葬儀会社、そして利用者にとってもメリットの多い「三方良し」のサービスであったとしても、「売り込みができない」という性格上、普及には時間がかかるのではないか――。そんなネガティブな意見も葬儀業界からは聞こえてくるのだ。
●マスコミ報道により増えた“直葬”
ただ、帝都典礼の市村取締役はそれほど悲観していない。確かに、葬儀というのは葬儀社側があれこれと提案できるものではないので、新しい形式を意図的に広めることは難しい。一方で、利用者の間で認知が広がれば、葬儀社側が何もしなくても一気に普及していくこともあるからだ。
「その最たるものが“直葬”です。これはもともと葬儀社側が普及させようと思ったものではありません」
葬儀相談・依頼サイト『いい葬儀』を運営する鎌倉新書が2026年3月に実施した「第7回お葬式に関する全国調査」によれば、「直葬・火葬式」を行った割合は10.8%で、2018年の4.9%から2倍以上となっている。
これはどこかの葬儀社が「夕刻葬」のようにプロモーションをかけた結果ではなく、「マスコミ報道」によるものだ。
「そもそも“直葬”という言葉は、一般にはあまり知られておらず、主に葬儀業界の中で使われていたものでした。本来は、経済的な事情で葬儀費用を用意することが難しい方や、身寄りのない方のために選ばれるケースが中心でした。ところが、テレビや新聞などで直葬が取り上げられるようになると、その存在が広く知られるようになったのです。その結果、『直葬という形式があると聞いたのですが、そちらでも対応できますか』といった問い合わせが、葬儀社に寄せられるようになったのです」(帝都典礼・市村取締役)
葬儀は「悲しみに暮れるご遺族」の意向が何より優先されるため、「直葬がやりたい」と望めば葬儀社側としては断ることはできない。こうして、もともとは業界内でしか知られていなかった「特別な事情がある人向けの葬儀」が、全体の約1割を占める「新たな葬儀の形式」として普及していったというわけだ。
●お葬式とは何か
このような前例もあるので、「夕方からのお葬式」もマスコミが取り上げて認知が高まることで、ご遺族側から「そちらは夕方からの葬儀できますか」という要望が増え、自然に普及していくのではないかという。
このような可能性は、フラットセントラル・平中社長も否定していない。その理由は、現場スタッフから時折寄せられる「ご遺族の要望」からだ。
「喪主さまにもいろんな事情がありますので、夜間に火葬できないかという相談も時々あるんです。昼間は近所の手前、遺体を出したくないとか、亡くなったこと自体をあまり周囲に知られたくないという方もいるので。こういうご要望もあるので、普及には時間がかかるかもしれませんが、夕刻葬も知名度が上がれば徐々に受け入れられていくのではないかと考えています」
ただ、仮に普及したとしても、単なる「お葬式の時間帯別割引」と受け取られることは業界として避けなければならない。そう強く訴えるのは帝都典礼の市村取締役だ。理由は「直葬の増加」がもたらした課題である。
「私たちは、さまざまな宗教の方にご利用いただいていますので、さまざまな方とお話しする中で感じるのは、直葬のトラブルが非常に増えているということです」
最も多いのは「後悔」だ。費用を抑えられ、手軽だという理由から直葬を選んだものの、実際に遺骨を前にすると、喪主や家族が「やっぱりちゃんとしたお葬式をしてあげればよかった」などと自責の念にかられるのだ。親戚や友人から「どうしてちゃんと葬儀をしてあげなかったんだ」などと責められて、自分の判断を悔やむケースもある。
●「埋葬トラブル」に発展するケースも
また、直葬をした後に、弔問客や親戚が次々と訪れ何日にもわたって対応に追われ、「こんなことなら、きちんと葬儀をすればよかった」と悔やむケースや埋葬を巡るトラブルに発展するケースもある。
「檀家としてお墓を持つ菩提寺に埋葬する場合、通常は寺院の僧侶がお経をあげ、戒名を授けます。しかし、直葬ではそうした手続きを経ないケースが多いため、納骨の際に寺院との間で問題が生じることがあります。中には、菩提寺への相談がないまま、葬儀社が同宗派の僧侶を手配して戒名を授かるケースもあります。寺院との関係を考えると、同業者として疑問を感じる事例もありました」(帝都典礼・市村取締役)
このような「直葬トラブル」が増えているのは、「葬儀とは誰のものなのか」「なぜ亡くなった人を弔うのか」という本質的な意味が十分に理解されないまま、「安さ」「手軽さ」というコスパだけが注目を集めてしまい、葬儀を選ぶ人が増えていることが一因だ。
そして、実はこの「葬儀の表面的な部分にしか注目が集まらない」という傾向が、近年多発する「葬儀サービスの料金トラブル」にも拍車をかけている。
葬儀社側からすれば、あくまで自社が請け負うのは葬儀まわりの仕事に対する報酬だけで、火葬場や葬祭ホール、僧侶に払うお布施は別という認識だが、利用者側はそもそも「お葬式」に対する知識もないので、葬儀社に払ったお金で全てが賄えると思い込んでいる。そういう基本的な認識のギャップが、「ぼったくられたのではないか」という不信感につながり、トラブルに発展することも少なくない。
このような事態を避けるためにはどうすべきか。帝都典礼の市村取締役は「相見積もり(複数社から見積もりを取ること)」で比較することを勧める。
「ただ、そこでWebサイトや広告に掲載されている価格だけで判断してはいけません。掲載されている金額は各社で含まれている内容が異なる場合がありますので、合計金額だけでは比較しにくいこともあります。大変な状況の中ではありますが、しっかりとした見積書を出してもらって項目を比べてください」(帝都典礼・市村取締役)
●人を弔うとはどういうことか
今から30年ほど前は、ビジネスパーソンが「社葬」に参列することも珍しくなかった。50代くらいの人は「懐かしい」と感じるだろう。筆者も若いときには話をしたこともない取引先の社長や、その家族の葬儀に参列した経験がある。昔の営業マンは、いつでも通夜に参列できるように、会社に喪服を常備していた。
しかし、葬儀が簡素化して「近親者のみ」という形式が増えたことで、今の若者の中には「親も元気だし、お葬式に参列したことがない」という人も少なくない。そうなれば、「高額な費用をかけて葬儀をする必要はないのでは」「安いし火葬だけで十分じゃん」と、「葬儀のコストパフォーマンス」を重視するようになるのも当然かもしれない。
ただ、それでいいのか。人は亡くなった人を弔うという行為を、太古の昔から続けてきた。それは「遺された者」が心の整理をつけて、前向きに生きていくために必要な儀式だからではないのか。
東京博善によれば、大正時代までは夜間に火葬が行われるのが一般的だったという。家族や友人が食事を囲み、故人をしのぶ機会が少なくなる中で、夕刻葬は「葬送文化の伝統回帰」になるかもしれないのだ。
「家族だけ」「読経だけ」「火葬だけ」と葬儀の簡素化が進む中で、「夕方からのお葬式」は新たな選択肢として定着するのだろうか。多死社会を迎える日本で、その行方は葬送業界の未来を占う試金石となりそうだ。
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若者に響かない「犠牲アピール」(写真:ITmedia ビジネスオンライン)34

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