限定公開( 3 )

ぬいぐるみと過ごす時間を写真で記録・共有する「ぬい活」向けのSNSアプリ「ぬい日和」が、7月下旬にかけて急速に利用者を増やした。他の人のぬいぐるみを画面越しに「なでなで」できる機能や、いいね数を隠せる設定など、既存のSNSとは違う作りが支持を集め、ユーザー数は約4万人に到達。開発者のShinさんに、着想から公開までの道のりと、急拡大の裏側を聞いた。
【画像】ぬい日和のタイムラインなど。写真と短い言葉でぬいとの日常を残せる(出典:開発者Shinさん提供、以下同)
ぬい日和は、Shinさんが6月17日に公開したiOS向けアプリ。自分のぬいぐるみを「うちの子」として登録し、お迎えからの日数や衣装を記録できるほか、写真と短い言葉で日々の様子を投稿できる。基本は無料で、月額300円のサポーター向け「応援プラン」も用意する。
ぬい活は、ぬいぐるみと一緒に過ごす時間を楽しむ趣味の総称だ。旅行先や街中でぬいぐるみを主役に写真を撮る「ぬい撮り」、季節や場面に合わせた衣装での着せ替え、カフェへの同伴などが定着している。撮った写真をSNSに上げる人も多く、ぬい日和はこの層に向けたアプリだ。
急拡大のきっかけは、複数のユーザーによる紹介ポストだった。そのうちの一つでは、「余計な投稿がなくて超平和」とアプリを紹介しており、多くのぬい活ユーザーの反応を集めた。Shinさんによると、その前日には1500ユーザー突破を記念する投稿をしていたが、そこから2〜3日で3万ユーザーを超えたという。7月29日時点では約4万人が利用する。
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■出発点は、妻との相談から出たアイデア
開発のきっかけは、Shinさんが妻とアプリのアイデアを出し合っていたことだった。1人で考えても案が固まらず、日ごろからぬいぐるみを連れ出して写真を撮る「ぬい撮り」をしている妻に相談したところ、ぬい活向けのSNSという発想が出てきた。「最初は面白半分だったが、話を聞くうちに需要がありそうだと思えてきた」とShinさんは話す。
妻から聞いたのは、既存のSNSの問題点だ。関係のないネガティブな情報も目に入ることや、「ぬいぐるみを投稿してもいいのかな」「変な目で見られるかも」といった懸念が、ぬい活をためらわせる一因になっていた。それなら「もっとゆるくてやさしい、ぬい好きだけが集まるSNSがあってもいいのでは」と考えたのが決め手になった。ユーザーの声を聞きたいときに直接相談できる点も後押しになったという。Shinさんは「妻には本当に感謝をしています」と話す。
■完成イメージ図を先に作り、広告で需要を検証
アイデアを思いついた当日には、米OpenAIの画像生成AI「GPT Image 2.0」でアプリの完成イメージ図を作った。個人開発では需要のないものを作り込んでしまう失敗が起きやすく、それを避けるためだったという。イメージ図を先に用意してXとInstagramの広告に回せば、すぐに需要を確かめられると考えた。翌日には広告を出し、アプリの事前登録を募り始める。集まったのは1日で30〜40件。「これはいける」と判断し、開発に着手した。
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開発は完全に1人で進めた。米AnthropicのAIコーディングツール「Claude Code」を使い、約1カ月で最小限の機能に絞った初期版を組み上げた。
完成後もすぐには公開せず、まず事前登録者に外部テストとして使ってもらった。テスト終了後も、しばらくは少人数のままXなどで発信を続け、安定して動くと確認できてから広告を再開した。それから1カ月ほどたったころに、冒頭の拡散が起きた。
■「自分がこうだったら癒される」から生まれた「なでなで」
高い評価を集めた「なでなで」は、投稿された写真の右上にある手のマークを押すと、そのぬいぐるみをなでられる機能だ。押した回数は持ち主に通知として届く。Shinさんが開発を機に自らぬい活を始めたことから生まれた。妻と一緒にぬいぐるみを選びに出かけ、迎えた子をアプリに登録して眺めていたときに「なんだかなでなでしたいな」と感じ、軽い気持ちで実装したという。
自分のぬいぐるみだけでなく、画面上で他の人のぬいぐるみにも手を伸ばせるようにした。「なでなでしてほしい場所はぬいぐるみごとに違う」と考え、持ち主が個別に設定できる作りにもしている。
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Shinさんは「すべては、自分がこうだったら癒やされるなという感覚を起点に実装しています。開発者自身もぬい活を始めたからこそ見えてきたポイント」と振り返る。それが今では多くの評価を集めることになり、驚いているそうだ。
一方で、なでなでの回数は他の人からは見えない。「世界一やさしいSNS」を掲げるうえで、比較につながる要素はなるべく減らしたいという考えからだ。「うちの子は他の子に比べてなでなでされないな……と悲しい気持ちになるからです」。投稿へのいいねはSNSの性質上ある程度避けられないとしつつ、こちらも設定で非表示にできるようにした。
反応の見え方を選べる仕組みは、ユーザーからのフィードバックを基に用意した。いいねやコメントの数が見えると、無意識に比較して気持ちが落ち込んでしまう。比較から離れるためにこのアプリを使う人も少なからずいるため、いいねやコメントの数を見ずに使えるモードを設けた。ただ「まだ完璧に実装できているとは言えない」として、改善を続けるという。
■ランキングは今後も作らない
その他、実装を見送った機能もあり、「リポスト」「動画」「トレンドなどのランキング系」の機能だ。まだ初期版の現段階で動かすための最低限の機能ではないと判断したためだとしつつ、ランキングのように人と比較してしまう機能は、先述の理由で今後も追加しない方針を示した。
機能を制限して課金に誘導する形も避けている。複数枚投稿の上限や「うちの子」の登録数の上限は、設けたほうが収益につながりやすいとみつつも、あえて置いていない。「せっかく使っていただいたのに、ぬいぐるみの登録数に制限があったら、悲しい気持ちになってしまう」ためだ。収益は応援プランに支えられており、運営はまだ赤字だという。
アプリ内に広告を入れないのも同じ考えからだ。ぬいぐるみの世界観の中に関係のないバナー広告が出ると、その雰囲気が崩れてしまう。ただ、採算のためにどうしても必要になった場合は、今後ぬいぐるみに関連する広告主を探して挟むこともあり得るとしている。
■想定外だった「◯◯日いっしょ」への反応
想定外だったのは、なでなで機能と「クローゼット」への反応の大きさだった。クローゼットは、うちの子が着た衣装を記録しておける機能。どちらも「あったらいいな」という軽い気持ちで作ったという。
うちの子のページに、お迎えからの日数を「◯◯日いっしょ」と表示する機能にも声が集まった。X上では「アプリに登録して初めて、この子と出会って1000日目だと知った」「もう1555日も一緒らしい」などといった投稿を見かけるようになったという。Shinさんは「ぬいぐるみとの思い出をもっと作ろうと思えたという声はとてもうれしかった」と語る。
■「運営が何かしたというより、皆さんのおかげ」
穏やかな空気を保つ工夫としてShinさんが挙げたのは、温かみのある画面設計、比較につながる機能を極力実装しないこと、不適切なアカウントへの素早い対応の3点。ただ「こちらの工夫というより、ユーザーの皆さんが作ってくださっている部分が大きい」と話す。拡散で一気に人が増えたときも、以前からのユーザーが新しく来た人を歓迎し、その雰囲気がそのまま残った。
通報への対応と悪質なアカウントの利用制限については、規模が大きくなってからも必ず自分で目を通しているという。
ただ、拡散の直後にはアプリの動作が大幅に重くなる問題も起きた。サーバ側・クライアント側ともに最適化が進んでいなかったことが原因で、「次に同じことが起きても重くならないよう努める」としている。
■アイコンは作家への依頼で作り直しを検討
注目が集まる一方で、SNSでは生成AIの利用に関する指摘もあった。ぬい日和ではアプリアイコンとストア画像を生成AIで制作していたが、一部ユーザーから反発の意見が見られたという。同様の声を受けShinさんは7月下旬、自身の見解をまとめた文書を公式Xアカウントで公開した。
Shinさんは取材に対し、アプリのアイコンとApp Storeの掲載画像の一部に生成AIを使っていたと説明。「ぬいぐるみを大切にされている方のなかには、生成AIに対して思うところのある方もいらっしゃいます。その点への配慮が足りていませんでした」。掲載画像は実際のぬいぐるみの写真への差し替えを進めており、アイコンについては作家に依頼して作り直すことを検討しているという。
今後は、iOS版が安定して動き、ユーザーが増えるほど採算が取れる状態を作れた段階で、多言語対応とAndroid版対応を進める。すでに韓国や台湾など海外からの利用もあり、「ここの体制は早急に整えたい」という。
「タイムラインを開くと、そっとあなたに寄り添ってくれるぬいぐるみたちがたくさんいます」。Shinさんは、学校や仕事でつらい思いをしている人、SNSの誹謗(ひぼう)中傷や比較に疲れてしまった人にこそ試してほしいと呼び掛けた。
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