【高田馬場・路上刺殺事件】「痛い、やめて…」法廷で公開された“生々しい音声”…懲役16年判決までに明らかになった“犯行の一部始終”

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2026年08月04日 09:20  日刊SPA!

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事件後、現場付近には多数の花などが供えられていた/2025年3月14日、筆者撮影
 昨年3月、東京・高田馬場の路上で動画配信中だった女性を刺殺したとして、殺人罪などに問われた高野健一被告(44)に対して、今年7月15日に東京地裁(井戸俊一裁判長)は懲役16年(求刑:同20年)の実刑判決を言い渡した。この判決を不服として控訴していたことがわかった。
 残忍な犯行の背景にちらついた、被害者との歪んだ関係に社会が注目したこの事件。法廷で、高野被告自らの口で語られた事件の詳細を振り返る——。

◆「殺すつもりはなかった」謝罪直後に語られた高野被告の弁明

「間違ったことをしてしまい、痛い思いをさせて、怖い思いをさせて、命を奪ってしまったことを本当に申し訳なく思っています」

 被告人質問の冒頭で、このように謝罪した高野被告。判決によると、2025年3月11日の午前9時50分頃、東京・高田馬場の路上で佐藤愛里さん(当時22歳)の顔面や首などを、ナイフ(刃体の長さ約12.4センチ)で刺して殺害するなどした。

 司法解剖の結果、佐藤さんは「多発刺切創による出血性ショック」で死亡したとされる。高野被告からの攻撃は、頭部や顔面、頸部などにわたり、合計で「55か所」もの刺し傷が認められた。致命傷は、深さ約9センチで「首を貫通していた」と所見されている。

 まさにメッタ刺し状態。苛烈な犯行だが、当初は殺意がなかったと高野被告は供述した。

「大けがをさせようと思っていませんでした」「事件になって、佐藤さんが裁判に出るとか、取り調べを受けて(佐藤さんとの金銭トラブルを)社会に明るみに出すつもりで、殺すつもりはありませんでした」(被告人質問から・以下同)

◆「彼氏みたい」——配信者と古参リスナーが親密になった経緯

「社会に明るみに出すつもり」と高野被告が表現した、佐藤さんとの問題。それは事件の発端ともされる金銭トラブルだった。はじめに、二人の関係性から解説する。

 佐藤さんは自身を「最上あい」と名乗り、動画配信サイト「ふわっち」の配信者として活動していた。投げ銭などに応じて決まるランクでは、「プラチナプラス(最上位クラス)」になったこともあった。

 一方の高野被告は、佐藤さんが配信を始めた頃から視聴していた古参のリスナー。二人はSNS上のDMを通じてLINEを交換すると、佐藤さんの方から「大好き」や、「タカノ選んでいい人」「大きな出会いした」「彼氏みたい」「タカノいなかったら配信できない」などのメッセージがあったようだ。

 次第に配信者対視聴者の構図から親密な関係へと発展していった。

◆借金を重ねても応じ続けた金銭要求…

 その親密な関係を表すように、佐藤さんは配信休止中も自身が勤務していた山形県内のキャバクラに高野被告を誘い、計4回にわたって飲食などをともにしていた。その関係性について高野被告は、自身を「リスナーの中でも特別な存在だろうと思っていた」と振り返っている。そんな二人の関係が歪みはじめたきっかけが、佐藤さんからの金銭の無心だった。

 初対面から14日後のこと。突然、佐藤さんがこうLINEしてきた。

<申し訳ないんだけどさ、昨日日雇いバイト行った先に財布忘れちゃってまじ手持ちない状態だからちょいお金貸してほしいんよね。明日か明後日取りにいくときに返すから(土下座の絵文字)>(裁判証拠から)

 その後も「高額のお酒の代金を支払うことになった」、「姉の売り掛け金の支払いを請求された。払えなければデリヘルさせられる」など、その真偽は不明だが、佐藤さんは度々助けを求めてきたという。

 その度に貯金を切り崩したり、消費者金融から借金したりして、佐藤さんに送金。結局のところ、佐藤さんから3万円が返済されたのみで、未払い額は約251万円にものぼった。

◆民事裁判でも回収できず…追い詰められた生活の実態

 その後、高野被告は佐藤さんに対して貸金返還請求の民事裁判を提起。強制執行をしたものの、佐藤さんの財産状況から回収できなかった。

 当時、高野被告は医師から「統合失調症も疑われる」と診断され、無職で貯金を切り崩して生活。その後は父親と喧嘩したことで一人暮らしになり、当面の生活を稼ごうと就労支援事業所で勤務していたが困窮をきわめた。当時の食生活を回想した。

「夕食はごはんと味噌汁だけでした。贅沢は月に1回の通院のときにマクドナルドでハンバーガーを食べる楽しみだけでした」(被告人質問から・以下同)

◆復讐心が犯行へ変わっていくまで

 佐藤さんが欺く意思があったのかはわからない。高野被告は「佐藤さんに騙されているかもしれない」と気づくと、報復感情よりもこう思ったという。

「許せないもあったと思いますが、それよりも騙されて悲しいとか、この先不安だとか、悲しみしか自分で考えられませんでした」

 高野被告によると、当初は自殺して遺書で金銭トラブルを告白したり、暴露系YouTuberに相談しようとしていたという。遺書も作成済みで、具体的に「首吊りとかナイフでお腹を刺して死んでしまおうと考えた」と企てていたようである。

 しかし、その言葉と裏腹に、購入した「ナイフ」は犯行に使用された。裁判では、知人に「お金を返してもらうのはほぼ諦めている。復讐したい方向」と告白していたことも明らかになっている。

 そして、この事件につながる転機もあった。事件の3か月前から、「配信中なら居場所がわかるだろう」「暴露したい」との思いから、傷害事件を計画しはじめたとしている。

「あまり現実的ではないんですが、事件を起こそうと考えました。佐藤さんに襲いかかって傷害事件になって、警察の取り調べや裁判でお金を騙し取って逃げたというのを社会に知らしめようと思いました」

 事件を実行に移す契機となったのは、前日のことだった。仕事を終えて帰宅途中に、佐藤さんが「明日山手線徒歩1周」というタイトルで配信中であることに気づく。

 傷害事件計画を実行すべく、高野被告は匿名で「どこスタート?」とコメントして、出発地点を特定。勤務先に「明日は休む」と連絡もした。翌朝、鞄に予備用も含めてナイフを2本入れるなどして、栃木県内の最寄り駅から都内に向かった。

◆「無我夢中で刺した」55か所の刺し傷を巡る被告の供述

「怖くなったらやめて仕事に行こうと思っていた」と振り返る高野被告。なぜなら、この配信企画には、時にタクシーで移動するなどのゲーム性があり、現在地を特定することは困難だと考えていた。

 それでも、配信を確認して高田馬場駅付近の路上で待ち伏せ。佐藤さんを発見すると、鞄からナイフを取り出して襲いかかった。

「ドンとぶつかったので位置関係からお腹にあたったんじゃないかと思います」「大けがさせるつもりはなかった」

 そう弁解するが、前述のとおり、解剖医は55か所の刺し傷があると所見しており、メッタ刺しだった。

「無我夢中で止められず、自分の力でどうにかできなかったという感じなんですけど、覚えてないところもいっぱいあるので、申し訳ないですけど……」

 その反動で倒れた佐藤さんを見下げる形で、何度も攻撃を加えた。

「自動的にナイフを掴む、刺す、抜くということを、感情的というよりも、無我夢中で続けてしまったと思います」

◆法廷で公開された“生々しい音声”

 さらに、高野被告は「覚えていない」と供述するが、配信中だった佐藤さんのスマホを拾い上げると、佐藤さんの血だらけの顔面を撮影。当時、多数いたリスナーに自身の所業を公開した。

 裁判では、配信の反訳書面が検察側から証拠請求された。弁護側は「証拠は刺激的で判断を誤らせるおそれがある」と異議を出したが、裁判官の判断で採用。そこには、“生々しい瞬間”が記録されていた。

佐藤さん「わー痛い、やめて。キャー、やめて、やめて、助けて、助けて、助けて、助けて、助けて……(声が小さくなっていく)」

通行人「おいおいおい。何やってるんだよ。救急車呼びました?」

高野被告「まだ動くんだ。死んでますかね」

◆「同情の余地はある」それでも懲役16年と判断された理由

 佐藤さんの落ち度も否定しきれないが、殺害される理由には断じてならない。法廷で明らかになった様々な事情について、司法判断はどう下されたのか。懲役16年とした量刑の理由で、このように断罪している。

「極めて残虐で被害者の尊厳を踏みにじる犯行である。到底殺意がなかったとは思えない」

 一方で、本件の特異な事情も考慮された。

「求められるままに多額の金銭を貸し、自身の貯金が尽きた一方、被害者からの連絡が途絶え心理的に追い込まれていたものであり、同情の余地がある」

 被告人質問では、「今後、社会に出て働くことが許されるならそこでできる限り賠償をしていきたいです」と意向を示していた高野被告。この先も消費者金融への返済も含め、生涯をかけて事件と向き合い続けることになる。

取材・文/学生傍聴人

【学生傍聴人】
傍聴歴7年、傍聴総数1000件超。 都内某私立大の大学院に在籍中の現役大学院生。趣味は御神輿を担ぐこと。高校生の頃から裁判傍聴をはじめ、有名事件から万引き事件など幅広く傍聴している。その他、裁判記録の閲覧や行政文書の開示請求も行なっている。

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