「一番忙しい時期に辞めてやる」――なぜ社員は最後に“暴走”するのか? リベンジ退職を起こす真犯人とは

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2026年08月13日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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「リベンジ退職」の実態と、その原因は?

 「リベンジ退職」という言葉が、たびたび話題になっている。


【画像】厳しいルールは職場の雰囲気を悪化させかねない


 繁忙期に突然辞める、データを削除する、SNSで内情を暴露する――。


 このように、職場への報復を目的とした退職スタイルを指す言葉だ。人事系メディアでも対策記事が目立ち、「リベンジ退職が増加している」という印象を受けやすい。


 しかし、公的統計に目を向けると、離職率自体はむしろ減少傾向にある。また、筆者の経験上、こうした「報復的な辞め方」をする人は、かなり以前から一定数存在していた。


 では、なぜ今になって注目を集めているのだろうか。そして、その実態はどのように変わってきたのだろうか。この点をひも解くことこそが、問題の本質や有効な対策を見いだすヒントになる。


●違法性が認められても、損害は戻らない


 退職時に会社のデータを消去する、機密情報を持ち出す。こうした明らかな違法行為の責任は、当然ながら実行した本人にある。動機がどれほど切実であろうと、職場環境にどれほど問題があろうと、違法行為は一線を越えている。いかなる背景も免責の理由にはならない。


 実際に、退職時の報復行為をめぐる裁判の判例が存在する。2025年1月、徳島地裁は退職時に共有サーバーのデータを削除した元従業員に対し、「バックアップを取っていなかった会社にも落ち度がある」という主張を退け、過失相殺を認めない判決を下した。


 リベンジ退職に違法性があれば、退職者へ法的責任を追及することは可能だ。しかし、一度損なわれた重要なデータが元通りに戻るとは限らない。


●リベンジ退職は以前から起きていた


 「リベンジ退職は以前から起きていた」という見解を裏付ける研究が存在する。


 1995年、米国の研究者が「会社や上司への仕返し」に相当する行動を45種類抽出し、発生状況を測定する質問票を作成した。こうした調査が行われたこと自体、当時すでに「報復行為」が問題として認識されていたことを示している。1997年にも、製造業の従業員240人を対象に「組織的報復行動」を測定する研究が実施されている。


 退職が決まれば、もはや会社からの評価を気にする必要はない。そのため、退職時は、これまでため込んだ鬱憤(うっぷん)を晴らす機会になり得る。そう考えて行動する人物は、昔から一定数存在していたのだ。


 では、なぜ近年になって急激に注目されるようになったのだろうか。


 「リベンジ退職」とは、米国の求人口コミサイト「Glassdoor」が2024年11月に公表した年次トレンドレポートで生み出された造語だ。翌12月には日本にも紹介され、徐々に言葉が浸透していった。つまり、報復的な退職が急増したというより、既に存在していた行動に「リベンジ退職」という名前が付いたことで、注目を集めるようになったと考えられる。


●消えなくなった「報復行為」の証拠


 かつては、腹いせに書類を持ち出すような社員がいたとしても、「誰が・いつ・何を」持ち出したのか、明確な証拠を示せないケースが多かった。しかし、デジタル化が進んだ現在では状況が異なる。前述した日亜化学工業の事例では、詳細なデジタル上の記録(ログ)が残されていた。


 当該の元従業員は退職日にデータを削除するプログラムを作成し、自宅からリモート接続して起動させる設定を行っていた。しかし、プログラムの作成日時やアクセスログ、削除されたフォルダ数に至るまで、詳細な記録が残っていた。


 その結果、残された記録に基づいて再開発費用などが明確に算定され、一審で約577万円、控訴審では開発関連レンズの再購入費用が加算され、約1040万円の損害賠償支払いが命じられた。


 さらに刑事事件としても、2024年12月の家宅捜索、2025年11月の逮捕を経て、2026年6月には電子計算機損壊等業務妨害罪で起訴され、公判が続いている。


 このように、現代の「リベンジ退職」に伴う違法行為は、デジタル技術によって極めて可視化されやすくなっている。


●リベンジ退職のリスクは「低頻度・高影響」


 リベンジ退職はリスク管理上、典型的な「低頻度・高影響型リスク」に分類される。


 国内の定量調査としては、組織コンサルティング会社のスコラ・コンサルト(東京都品川区)が2025年に一般社員・管理職2106人を対象に実施した調査がある。これによると、11.8%が「リベンジ退職」を経験した(上司・同僚・部下の行為を見聞きした)と回答している。発生頻度は決して高くないものの、前述した判例が示す通り、ひとたび発生した場合の1件当たりの損害・影響は極めて巨大だ。


 こうした低頻度・高影響のリスクに対して、発生確率そのものを下げようとする対策はあまり意味をなさない。「危険そうな人物」を特定しようとすればするほど誤検知が増え、過剰な規律(オーバーコンプライアンス)に陥る。監視の強化はかえって職場の雰囲気を悪化させ、逆効果となりかねない。必要なのは、発生した際の影響を極力抑えるための実務的なリスク軽減策だ。


 例えば先述した日亜化学工業の事案は、最終出社日から正式な退職日までの間に発生しており、データの復元可能期間は40日、事件の発覚は約2カ月後だった。最終出社日の時点でリモートアクセス権限を停止していれば実行自体を未然に防げたうえ、バックアップの保持期間を発覚までの期間以上に設定していれば、損害の大部分は回避できたはずだ。いずれもシステムや運用の設定見直しだけで十分に予防可能な領域といえる。


●主な要因は「質の低いリーダーシップ」と「不当な扱い」


 米国の心理学会誌『Journal of Applied Psychology』に掲載されたメタ分析によると、上司に対する攻撃的行動を最も強く引き起こす要因は、「質の低いリーダーシップ」と「不公平な接し方」であることが判明している。


 さらに興味深いのが、前述した1997年の研究成果だ。評価や処遇への不満(分配的不公正)が実際の報復行動へと発展するのは、「決定プロセスが不透明で(手続的不公正)」、かつ「尊重されず雑に扱われた(対人的不公正)」という条件が重なった場合に限られるという。筆者の経験上、こうした問題の一端を担っているのは、直属の上司であることが多い。したがって、評価者である直属の上司と適切な信頼関係が築けていれば、こうした報復行動は発生しにくい。


●「リベンジ退職」が示唆する組織課題と向き合う


 「リベンジ退職」とは、本人の動機(意図)に踏み込んだ言葉である。しかし「繁忙期に突然辞めた」「引き継ぎが不十分だった」という表面的な言動のみから、本当に報復の意図があったのかどうかを判断するのは難しい。


 表出する問題行動ばかりを問題視し、一方的に悪意や動機を疑っても根本的な解決にはならない。単に行為そのものを処罰するだけでなく、そこに潜む組織やマネジメント側の課題を直視し、体制を見直す姿勢こそが極めて重要だ。


著者プロフィール:村上 ゆかり


コラムニスト。1児の母。リクルートにて人材業界で法人営業、面接、面談フォロー実績数百件を経験。人事役員などと伴走しさまざまな人事課題に向き合う。広告業界にて5000人集客イベント企画&事務局経験、福祉業界では人事管理職として新卒及び中途採用を1人で設計から実務まで担当し年間約120人採用を達成。国会議員秘書約4年半を経験後、フリーで活動を始め、執筆のほか企業の人事採用コンサルタントなどを手掛ける。アンガーマネジメント講師。



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  • 「組織やマネジメント側の課題を直視し、体制を見直す姿勢こそが極めて重要だ。」というのは、その通りですね。その社員が辞めるに至った潜在的な理由を探らないと解決になりません。
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