【女子バレー】なぜアジア選手権でタイに敗れたのか 「迷惑をかけた」と涙する選手、一方のタイは「日本対策はやっていない」

7

2026年09月02日 10:00  webスポルティーバ

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

webスポルティーバ

写真

【そこまで高さがない相手に苦しんだ理由】

 望んだ結果とは異なる結末に、選手たちの目から涙があふれた。

 アジア選手権の3位決定戦でイランに勝利した日本。コート上でチームの5勝目を表すため、背番号「5」の佐藤淑乃を囲んで全員が並び、集合写真では笑顔を見せた。だが、コートから控え室に戻る通路に設けられたミックスゾーンを通る選手たちの足取りは重い。試合後のセレモニーで授与された銅メダルを首にかけたままの選手など、当然ながらひとりもいない。

 それでも、日本から来た決して多くないメディアの問いかけに、ひとつずつ、丁寧に答える。準決勝でタイに敗れてから24時間も経たないうちに迎えた3位決定戦の難しさだけでなく、今大会の課題や自身のプレーについて言葉を紡ぎ出すうち、目からまた涙がこぼれ、言葉を詰まらせた。

 リベロの福留慧美も、まさにそんなひとりだった。

 ディグ力を武器に2024年のパリ五輪にも出場。その後、イタリア・ミラノでもプレーし、パオラ・エゴヌ(イタリア)など世界の大エースたちの打球を受けた。昨季からはSVリーグのヴィクトリーナ姫路に在籍している。得意のディグだけでなくサーブレシーブでもチームのディフェンスの柱として貢献し、今夏のネーションズリーグでも福留のレシーブが何度もチームを救うシーンがあった。

 そんな活躍が強く印象に残っていたからこそ、アジア選手権では思わず首をかしげるシーンも少なくなかった。欧州勢と比べれば高さもパワーもそれほど圧倒的には見えないアジアの攻撃に対し、なぜ福留のレシーブでもつなげないのか。

 その答えは、イラン戦を終えた直後の福留の言葉に示されていた。

「ネーションズリーグで対戦してきたチームは、ブロックの上から打ってきたり、抜けてきた強打を拾うケースが多いんですけど、アジアのチームは動きをつけてブロックをかわして打ってくる。打球自体はそれほど強くないんですけど、ブロックをうまく使われたり、(ブロックに)当てて飛ばされたり、いつもと違うことをされた。自分自身、ヨーロッパの強打を誇る選手のスパイクをレシーブすることは得意なんですけど、変化への対応があまり得意ではなくて、すごく難しかったです」

【選手たちが吐露した自責の念】

 負けた悔しさではなく、どんな相手だろうと対応できなかったもどかしさ。数秒言葉を詰まらせたあと、福留の目から涙があふれた。

「大会序盤から全然拾えていなくて、チームにすごく迷惑をかけてしまって......。『リベロなのに全然拾えていない』って。それでもタイ戦は、『勝てばなんでもいい。自分がうまくいかなくてもチームが勝てばいいから、何がなんでもボールに触る。ノータッチで落とされないように』ということだけ意識して、上げれば絶対つないでくれると信じてプレーしていました。

 でも、プレッシャーがかかる試合のなかで、気持ちが引いてしまったり、縮こまっていいプレーを出すことができなかった。そのせいでサーブレシーブも乱れて、チームに迷惑をかけてしまったので、もっとメンタルから、揺さぶられても崩れないように鍛えないといけない、と強く感じました」

 チームに迷惑をかけた――。

 そう言いながら涙した選手は福留だけではない。1−3で敗れた準決勝のタイ戦後は、多くの選手が敗れた悔しさ以上に矢印を自らに向け、「申し訳ない」という言葉を口にした。

 特に責任を背負っていたのが、セッターの関菜々巳とオポジットの和田由紀子だ。

 大会序盤から「自分のトスが不安定で、アタッカーを助けるどころか迷惑ばかりかけてきた」という関は、もともと考え始めるとどこまでも考えて、落ち込むタイプだと自認している。ネーションズリーグでもなかなか調子が上がらず、中盤から終盤にかけてスタメン出場の機会も少なくなったが、予選ラウンド最終戦でポーランドにフルセットの逆転勝利を飾ったあとは「本当に苦しかった」とミックスゾーンで大粒の涙を流した。

 アジア選手権に向け、アタッカーとのコミュニケーションも重ねてきたが、丁寧にトスを上げようと考えれば考えるほど、手からボールが離れるタイミングが遅くなり、些細なズレが生じる。「自分ができていないのはわかっていたけれど、今、自分にできることをやりきるしかないし、自分ひとりではなく、(栄)絵里香さんがいるので、一緒に戦う気持ちだった」と語った関。準々決勝からは「開き直ってできた」といい、台湾に勝利したあとは笑顔も見せた。

 だが、タイ戦では高い打点から伸びやかにスパイクを打ってくる相手に対して、序盤からリードを許し、焦りが生じた。タイのブロックに攻撃が阻まれるシーンも目立ち、関は責任の矛先をすべて自分に向けた。

「今シーズン、この大会に勝つためにやってきたので......。自分たちの弱さが出た試合だった、と率直に思います。私自身も勝ちたい、勝ちたいという思いが前に出てしまって、点を早く取ろうとしすぎて直接失点にしてしまったり、上げ急いでトスが余計にブレてしまったり、自分たちが自分たちをコントロールできていませんでした」

【和田は「守りに入りながら攻めてしまった」】

 自分のトスが悪かった、と責める関に対し、攻撃の中心を担う和田は「自分が決められずにプレッシャーをかけてしまった」と自らに矢印を向ける。

 確かに準決勝の序盤、和田の攻撃はタイの2枚ブロックとレシーブでつながれ、なかなか決まらなかった。だが、それはここまでの試合で和田が日本の攻撃を牽引してきたからこそ、「和田を止めなければならない」と相手が徹底的に警戒していた証でもある。

 序盤こそ、スパイクを拾われ、得点に結びつかない場面はあったが、そのまま終わったわけではない。それでもトスを呼び、アプローチや打つコースを変えながら次々と得点を挙げた。「和田が決まらなかった」など誰も思うはずもなく、むしろ第3セットを取り返したのは和田の攻撃力と気迫あふれた姿が、チームに力を与えていた。そう見た人のほうが多かったはずだ。

 それでも「自分が悪い」と言い、どんな時でも責任を背負う。それが攻撃の大黒柱であるオポジットとして戦う和田由紀子という選手だ。

 コート上のインタビューで涙をこらえきれない和田の姿も衝撃だったが、ミックスゾーンでもあふれる涙を何度も拭った。

「1、2セット目にライト側からの決定があまりうまくいかなかったので、セッターにもすごくプレッシャーをかけてしまったことが本当に申し訳なくて......。みんながみんな、すごくプレッシャーがかかっていて、焦っているなかで、チームで一番ボールを触る回数が多いのは、セッターのセナさんでもある。今までもたくさん悩んで試合の組み立てをしてきたし、この試合も誰よりも悩んでいたと思うんです。でもそこで、私に上げてくれたのに1、2セット目はなかなか決めることができずに、強気でいけなくなってしまって、守りに入りながら攻めてしまった。自分のなかではそれが一番悔しいです」

 優勝を目標にやってきた。勝たないといけなかった。

 口々に発するその言葉から、選手たちがどれだけの責任とプレッシャーを背負っていたのか。現地で取材するなかで十分に伝わってきた。

【優勝したタイ代表が見せた前向きな姿】

 一方で、対照的だったのがタイ代表だ。

 日本に準決勝で勝利し、翌日の中国との決勝では、第1セットを先取したあとに2セットを連取されたが、フルセットの末に逆転勝利した。同国初の五輪出場を決めただけでなく、同国女子の団体球技としては初の五輪出場という快挙を成し遂げた。

 世界ランキングでタイを上回り、対戦成績でもタイにとって分の悪い日本、中国に対し、どんな対策を練ってきたのか。勝利直後、タイ代表のアシスタントコーチ、吉田伸氏が取材に応じた。昨季まで日本代表のスタッフを務めた吉田氏が明かしたのは意外な真実だった。

「日本対策や中国対策は一切やっていないんです。予選ラウンドからひとつずつ、まずはこの試合、勝ったら、次はこの試合、と目の前の試合に向けてやってきただけ。タイの国民性もありますが、たとえ過去の成績がよくなくても、今、このセットを取られて追い込まれていたとしても、次、次と切り替えられる。

 日本戦の前も、もちろん戦術的な面はありますが、『おそらく我々に対してこうしてくるだろうから、自分たちはこうしよう』というだけ。スタッフ陣が一方的に出すのではなく、選手も含め、みんなでコミュニケーションを取ってきたことが、コート上でも力を発揮することにつながりました」

 最後まで笑顔を絶やさなかった勝者を見ていたら、願わずにいられない。日本代表の選手たちも、どうか背負いすぎることなく、自身のやるべきことも「やらなきゃならない」と重荷にするのではなく、「やってみよう」と明るくチャレンジできるような環境で成長し続けてほしい、と。

 アジア選手権ではロサンゼルス五輪出場権を獲得できなかったが、もうそれも過去のことで、結果は変わらない。そして、ロサンゼルス五輪出場の可能性が潰えたわけではない。

 来年のワールドカップ出場は決まった。ここからはまた、未来へ向けて進んでいくだけだ。次は涙ではなく笑顔で、「やりきった」と胸を張る姿を見せてほしい。

田中夕子●取材・文 text by Yuko Tanaka

このニュースに関するつぶやき

  • 日本はミスだらけだし、まとまりが無かった印象。は強くなったと改めて感じさせられた試合。
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(6件)

ランキングスポーツ

前日のランキングへ

ニュース設定