限定公開( 13 )

「子どもはいますか? 結婚の予定はありますか?」
「持病はありませんか?」
「発達障害はありますか?」
採用面接で、こんな質問をした、もしくはされたことはないだろうか。
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応募者の人柄を知りたい。長く働ける人なのか見極めたい。入社後のミスマッチを防ぎたい――。
面接官に悪気はない。「相手をよく知ろう」とした結果、つい聞いてしまっていることも多い。採用面接における問題の本質はまさにそこにある。
●質問で得た情報を、何の評価に使うのか
筆者の実感では、面接官自身が「質問の意図」を明確に説明できないケースは多い。
7月、日本財団が発達障害・精神疾患の診断を受けた人を対象にした調査を公表した。障害者手帳を持たず、一般枠で就職活動をした人の76.5%が、医療機関での診断結果を企業に開示した経験がなかった。その理由で最も多かったのは、開示したことで不採用になった経験、または不採用になることへの懸念である。
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「言わないなら、面接で聞けばいい」と思うかもしれないが、話はそう単純ではないのだ。
●面接は「その人を知る場」ではない
厚生労働省は、公正な採用選考の基本として「応募者が、求人職種の職務遂行上必要な適性・能力をもっているかどうか」を基準にするよう求めている。具体的には、本籍・出生地、家族、住宅状況、宗教、支持政党、人生観、尊敬する人物、愛読書などは「就職差別につながるおそれがある事項」とされている。
「愛読書まで聞いてはダメなのか」と驚く人もいるだろう。しかし重要なのは、「なぜ、その質問をするのか」である。
子どもの有無から何を判断するのか。愛読書と仕事の成果にどんな関係があるのか。それらに明確に答えられないなら、軽率に質問をすべきではないだろう。
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●人は意味のない回答からでも「分かった気」になる
面接で得た情報が、かえって判断を狂わせることを示す興味深い実験がある。
2013年に米イェール大学などの研究チームが発表した実験において、参加者は学生の「その後の大学成績」を予測する課題に取り組んだ。判断材料として「過去の成績のみ」を与えられたグループと、「過去の成績に加えて面接での情報」も与えられたグループの精度を比較している。
この実験で驚くべきは、面接を行ったグループの方が予測精度が低かったという点だ。さらに一部の学生が質問にランダムに回答していたにもかかわらず、面接官役の参加者は「相手から有用な情報を得られた」と思い込んでいた。
人間には、根拠の薄い情報からでも「この人はこういう人物だ」と自分の中で辻褄(つじつま)の合った人物像を作り上げてしまう心理的傾向がある。研究者はこの意味づけのプロセスを「センスメイキング(sensemaking)」と呼ぶ。
面接で無用な質問をする本当のリスクは、単なる時間の浪費ではない。根拠に乏しい情報によって面接官が「相手を理解できた」と思い込み、かえって評価を見誤ってしまう点にある。
実際の採用担当者を対象としたカウゼル(Kausel)らの研究でも、同様の傾向が確認されている。形式を定めない「非構造化面接」の情報を取り入れると、担当者は自分の判断に強い自信を持つようになるものの、評価の正確さ自体は向上しなかった。
面接官が感じた「相手を深く理解できた」という手応えと、実際の「正しく見極められたか」という精度は、まったく別物なのだ。
●仕事の質問に言い換えられるか
では、余計な質問と、必要な質問はどう見極めれば良いか。答えはシンプルで、「仕事に関する質問へ言い換えられるか」である。
・「子どもはいますか?」ではなく、「この職種では月20時間程度の残業に加え、突発的な残業が発生することがあります。対応できますか?」と聞く。
・「持病はありますか?」と聞くのではなく、「月4回程度の夜勤があり、1回の勤務時間は○時間です。繁忙期には連続勤務になることもあります。この勤務条件で対応できますか?」と聞く。
・「発達障害はありますか?」と聞くのではなく、「この仕事では複数案件を並行して担当します。優先順位が短時間で変わることもあり、その都度、自分で仕事を組み替える必要がありますが対応できますか?」と聞く。
つまり、仕事の条件や、実際に働いたときに直面する状況をなるべく具体的に伝えることだ。
企業は採用したいあまり、面接では企業の良い面ばかりを強調しがちである。しかし、応募者に「この仕事を本当にできるか」を判断してもらうには、仕事の厳しさや負荷、ストレスになり得る部分まで伝える必要がある。
こうした手法は「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)」と呼ばれる。仕事の良い面だけでなく現実的な厳しさも事前に伝える方法で、採用後の期待とのズレや離職を抑える効果が研究されている。
●「うそを見抜く」より、うそや誇張が通りにくい質問をする
企業が応募者に不要な質問をしてしまう背景には、「うそや誇張を見抜きたい」という心理がある。しかし、不必要な質問を重ねるよりも、1つの質問を深く掘り下げる方が効果的だ。
例えば「前職で売上を150%に伸ばした」と主張された場合、確認すべきは以下の点である。
・どのくらいの期間で、どのような数値から増加したのか。一時的な成果か。
・チーム全体の業績も同様に伸びていたか。
・チームは何人体制で、本人が担当した範囲はどこまでか。
・その結果をもたらした要因をどう分析しているか。
単に実績の有無を聞くだけでは、個人の真の実力は測れない。書類や発言の内容を深掘りし、「その成果を出すために、どのような環境で本人が実際に何をしたのか」を鮮明にイメージできるレベルまで確認することが重要だ。
「できます」という表面的な回答から事実を引き出す「質問力」こそ、現在の採用現場で求められている。
優れた面接官とは、表情からうそを見抜く人ではない。採用判断に必要な問いを正しく立て、相手の回答を信頼できる事実まで深く掘り下げられる人なのだ。
著者プロフィール:村上 ゆかり
コラムニスト。1児の母。リクルートにて人材業界で法人営業、面接、面談フォロー実績数百件を経験。人事役員などと伴走しさまざまな人事課題に向き合う。広告業界にて5000人集客イベント企画&事務局経験、福祉業界では人事管理職として新卒及び中途採用を1人で設計から実務まで担当し年間約120人採用を達成。国会議員秘書約4年半を経験後、フリーで活動を始め、執筆のほか企業の人事採用コンサルタントなどを手掛ける。アンガーマネジメント講師。
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