限定公開( 2 )

新幹線や飛行機で、長距離を短時間で移動できる時代。それでも、夜行列車には一定の需要が残っている。ポイントは、移動時間を「睡眠や旅行体験そのもの」として付加価値に変えていることだ。夜行列車の魅力と新幹線の速達性を組み合わせ、JR東海が新たな移動サービスを打ち出した。
ただ、新幹線を夜間に走らせるのは簡単ではない。実は国鉄時代にも、新幹線を夜間に運行する案が出ていたが、騒音対策や保守作業のため実現しなかった。
沿線住民への騒音の影響を抑えるとともに、列車が走らない時間帯に線路や設備の点検・補修を行う必要があるためだ。そもそも、高速かつ高頻度で運行する新幹線は、日中にまとまった保守作業の時間を確保することも難しい。
そこでJR東海が考えたのが、深夜は途中駅で長時間停車し、翌朝に再び走り出すという方法だ。こうして誕生したのが、夜行新幹線ともいえる「東海道ルミエールエクスプレス」である。初回は発売からわずか2日間で完売し、第2回は新大阪発・東京行きの運行も実現した。
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夜行列車のロマンと新幹線の利便性を両立させたこの企画は、なぜ好評だったのか。その仕組みと今後の可能性を探ってみたい。
●夜行列車への人々の思い
かつて全国各地を走っていた夜行列車は、次々と姿を消している。青森〜札幌間を結んでいた夜行急行「はまなす」は、2016年の北海道新幹線開業に伴って廃止。多くの鉄道ファンに親しまれた夜行快速「ムーンライトながら」も、2020年の運行を最後に姿を消した。
そんな中、寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」は根強い人気を誇る。夜間に移動できるという利便性に加え、いまや希少な存在となった夜行列車ならではの特別感が、多くの人を引きつけているのだ。寝ている間に遠くの街へ向かい、目覚めたら目的地に到着している。そうした旅ができる定期夜行列車は、現在ではサンライズだけになった。
こうした夜行列車への根強い需要を背景に、JR西日本では臨時の夜行列車を運行しており、JR東日本でも新たな夜行列車の運行を計画している。
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では、JR東海はどうか。JR東海の在来線区間は、長距離の夜行列車を運行できる在来線が限られている。そこで生まれたのが、新幹線を利用した東海道ルミエールエクスプレスだ。深夜は駅に長時間停車することで、新幹線の運行上の制約をクリアしながら、夜行列車に近い旅を実現したのである。
●深夜運行の制限、どう克服した?
新幹線は原則として深夜に運行できない。しかし、その速達性を生かし、深夜帯はどこかの駅に停車し、その前後に高速で移動することで、夜行列車に近い運行が可能になる。
そこで注目されたのが、国鉄時代にも構想されていた、深夜帯に駅で長時間停車するというアイデアだ。
東海道ルミエールエクスプレスは、東京駅を午後10時に出発し、品川駅、新横浜駅を経由して、深夜に岐阜羽島駅に到着する。名古屋駅までは「のぞみ549号」と同じダイヤで走り、岐阜羽島駅で翌朝まで停車する。
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停車中は、到着後と発車前の各30分間に限り、駅の改札内にある自動販売機や喫煙所を利用できる。深夜帯を駅で過ごすことで、新幹線の運行上の制約をクリアした。
翌朝午前6時過ぎに岐阜羽島駅を出発すると、京都駅には午前6時44分、新大阪駅には午前6時59分に到着する。通常の始発列車よりも早く新大阪駅に到着するのが特徴だ。
7月19日のマイナビニュースによると、新大阪駅からさらに西へ向かう列車に乗り継ぎ、同日午前中に博多駅や鹿児島中央駅に到着することもできるという。特急「くろしお」に乗り、和歌山方面に向かったことをブログで紹介している人もいた。
また、新大阪駅に早朝に到着するため、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の開園時間にも間に合う。単に夜行列車の旅を楽しむだけでなく、早朝から現地で活動できるという良さもあった。
この列車は、JR東海ツアーズの旅行商品として発売された。料金は普通車で大人1人1万5000円で、通常の新幹線の運賃・料金と大きく変わらない水準だ。座席は窓側のみを販売し、隣にほかの乗客が座らないよう配慮。さらに、アイマスクやスリッパ、靴用の脱臭乾燥剤を配布するなど、車内で快適に夜を過ごせるよう工夫されていた。
●好評を受け、新大阪発の運行も実現
初回の東海道ルミエールエクスプレスは、発売からわずか2日間で完売したという。夜行列車ならではの旅を楽しむだけでなく、早朝に目的地へ到着できるという実用性も評価されたようだ。
この反響を受け、JR東海は9月22日発、翌23日早朝着の東海道ルミエールエクスプレスを企画した。
新大阪駅を午後10時3分に出発し、京都駅、名古屋駅に停車した後、新富士駅で翌朝まで長時間停車する。名古屋駅までなら、さらに遅い時間に到着する列車もあるが、新富士駅まで運行することを考慮して、出発時刻が設定されたとみられる。
新横浜駅には翌日の午前6時35分、品川駅には午前6時47分、終点の東京駅には午前6時54分に到着する。東京駅への到着は、通常の東海道新幹線で最も早く東京駅に到着する、午前6時17分三島駅発の新幹線より12分早い。
早朝に東京駅に到着できるため、品川駅から京急電鉄に乗り換えて羽田空港へ向かったり、東京駅から東京ディズニーリゾートや成田国際空港へ移動するといった使い方も考えられる。また、運行日が大型連休の終盤に当たることから、大阪や京都で夜遅くまで過ごし、翌朝には東京へ戻りたいという人の需要も見込んでいたのだろう。
今回は、普通車の窓側席(A席・E席)に加え、3人掛け席の通路側(C席)も販売。初回の好評を受けて販売する座席を増やしたとみられるが、隣の座席は空けるなど、車内で快適に過ごせるよう配慮されている。
●東海道ルミエールエクスプレスの今後は?
通常の東海道新幹線とそれほど変わらない価格で販売され、初回はわずか2日間で完売した東海道ルミエールエクスプレス。夜行列車ならではのロマンと、早朝に目的地へ到着できる利便性を両立した企画は好評だった。
今回の企画を可能にしたのは、東海道新幹線の東京〜新大阪間がJR東海の管轄であることだ。在来線の東海道本線では、東京駅はJR東日本、大阪駅はJR西日本の管轄だが、東海道新幹線なら、自社の営業エリア内で運行を完結できる。他社との調整をできる限り減らしながら、夜行列車に近い運行を実現できる点は大きい。
また、ホテルの宿泊料金が高騰する中、宿泊費を抑えられる移動手段としての需要もあったとみられる。テーマパークを朝から楽しみたい人や、コンサートの終了後に移動したい人にとっても魅力的な選択肢となりそうだ。
夜行列車のロマンと新幹線の利便性を組み合わせた今回の試みは、新たな鉄道旅行の可能性を示した。
(小林拓矢)
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