16万5000円の「ロビンマスク」は300体超を販売 広島の鋳造会社が「視界に入るもの全てを金属化」した狙い

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2026年09月30日 06:11  ITmedia ビジネスオンライン

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漫画『キン肉マン』の商品

 人気ゲーム『ポケットモンスター』に登場するモンスターボールを模した虫かごや、漫画『キン肉マン』に登場するマスクを完全再現した鋼製の「ロビンマスク」、著名人の手型の金属製オブジェ――。これらを手掛けているのは、精密鋳造メーカーのキャステム(広島県福山市)だ。


【画像】バナナハンマー、モンスターボール 虫かごなどを見る


●なぜBtoC事業を始めたのか


 キャステムは、複雑な形状を可能にする「ロストワックス精密鋳造」などの技術を強みに、医療機器や半導体、電動工具、航空宇宙、ロボットといった幅広い産業向けに精密金属部品を製造している企業だ。2020年東京オリンピックで使われた聖火リレートーチの部品も製造した。


 特定の業界や顧客に依存せず、多品種少量の部品製造を手掛けているのも特徴だ。取引先の約6割は、1社当たりの売上比率が1%未満の企業だ。


 低コストを武器にする中国企業の台頭などを背景に、日本国内の精密鋳造メーカーは年々減少している。


 BtoB向けに製品を製造していたキャステムでは、どれだけ精密な金属部品を作っていても、一般の人から見れば「何を作っている会社なのか」が分かりにくいという課題があった。採用活動でも、自社の技術や仕事の面白さを伝えにくかった。


 また、部品メーカーでは、顧客から「この部品を作ってほしい」と依頼を受け、見積もりを出して受注するのが一般的だ。他社との相見積もりになることも多く、必ずしも自社が希望する価格で受注できるわけではない。


 そこで、同社は知名度向上や収益基盤の多様化などを目的に、BtoC事業を始めた。


 キャステムではもともと、展示会などで名刺交換をした人に、「ミニチュア工具」をプレゼントしていた。自社の金属加工技術をPRするために、ニッパーやハサミ、ラジオペンチなどの工具を、実物と同じように動かせる約25ミリのサイズで再現したものだ。


 ミニチュア工具が11種類できたタイミングで、2013年に「ミニチュア工具セット」として販売。本格的にBtoC事業に参入する前からこうした商品もあったことから、戸田氏は「技術があるのだから、雑貨やおもちゃメーカーの面白い案件などで、一般の方でも分かるものが作れるといいなと考えました」と説明する。


 2017年には、「Iron Factory」という自社商品ブランドを立ち上げ、BtoC商品の展開を本格的に始めた。


●「まずは作ってみる」からヒット商品に


 自社商品の開発は、5人ほどのメンバーでスタートした。工場に導入した3Dスキャナーや3Dプリンタを使い、当時はバナナや石、たんぽぽなど目の前にあるものを何でも3Dデータにして金属化していたという。


 キャステムの代表取締役 専務執行役員を務める戸田有紀氏は当時を「どういうものを作ってどういう風に打ち出せば売れるのかが全く分からなかったので、視界に入る物全てを金属化していました」と振り返る。


 その1つがバナナを金属化した「メタルバナナ」だ。実物のバナナを3Dスキャンでそのまま金属化しているため、バナナ特有のザラザラした質感、大きさなどが再現されている。自社のECサイトなどで販売している。


 最初はなかなか売れなかったが、「バナナハンマー」として「マイナス40度の世界でなくても、バナナでくぎが打てる」と打ち出したところSNSで話題になった。ブロンズ製で横幅20センチ、約1.5キロの「バナナハンマーDX」(1万1877円)は400個以上、横幅10センチ、約300グラムの「ミニバナナハンマーDX」(3287円)は1000個以上を販売。特に台湾で人気だという。


 この他、本物のカニや牡蠣を型取って制作したすず製の食器なども展開している。


 現在、自社商品の開発を担当している社員は約20人。30代の社員が多く、それぞれの趣味や興味が商品開発のアイデア源になっている。定例の商品開発会議は設けていない。話題のコンテンツがニュースになると、社内で「こんな商品が作れるのではないか」と会話が始まる。そこからネットで調べ、アイデアを膨らませているという。


 2019年に発売したモンスターボールを模した虫かご「モンスターボール 虫かご」(1430円)も、会議ではなく社内の会話から生まれた商品だ。モンスターボール同様に真ん中のボタンを押すと開閉する仕組みだ。


 アイデアが出てから1週間ほどで、社内の3Dプリンタで試作品を作り、商品化を進めた。累計販売数は50万個を超えている。キャラクターのぬいぐるみを入れたり、お菓子を詰めたりと、虫を入れる以外の用途にも使われているため、冬にも売れているという。


 戸田氏は「会議で案を出して、良さそうなものを商品化するというプロセスに取り組んだ時期もありましたが、面白みや商品開発のスピード感がなく、脳みそを柔らかくして発想するのが難しかったようです」と話す。


 商品開発のアイデアを全社員から募る仕組みも作った。社内にホワイトボードを設置し、アイデアを書いた社員には賞品としてお菓子をプレゼントしていた。そこで出たのが、広島東洋カープに所属する選手の手型を金属オブジェにするアイデアだった。キャステム本社がある広島にはカープファンが多い。そこで球団に掛け合い、試作品を持ってPRした。


 「カープのグッズは他球団と比べて斬新なものが多く、他球団が作っているような商品では、球団担当者に興味を持たれない。せっかくなので世の中にないものを作るといいのではと、中を空洞にして貯金箱として提案しました」(戸田氏)


 ボールやバットを持つ選手の手を、シリコンで型取りして制作し、しわや指紋も再現。コインを入れる穴を開けて貯金箱として発売した。


●多品種少量生産で、大手がやらない商品を狙う


 「漫画『キン肉マン』ロビンマスク (原作Ver.)」(16万5000円)は、『キン肉マン』に登場する人気超人であるロビンマスクを原作に近いサイズ、造形、材質で再現した商品だ。高額ながら受注生産で300体以上を販売している。


 『キン肉マン』の大ファンだった社員が自ら試作品を作り、作者に商品化を直談判した。上司には事後報告だったという。


 キャステムでは、社員の身近な興味や話題を起点にアイデアを出し、まず試作品を作ってみることで商品化につなげてきた。こうした商品開発を支えているのが、BtoB事業で培った多品種少量生産の強みだ。


 同社は、特定の顧客や業界に依存せず、さまざまな企業から少量ずつ部品を受注してきた。こうした生産体制があるため、大手玩具メーカーでは採算が合いにくい少量の商品でも、キャステムなら商品化できる。大量販売を前提とせず「大手がやらない商品」を狙った。


 BtoC事業への参入当初は苦戦したものの、約3年で利益を生み出す事業へと成長した。現在、自社商品の売上高は会社全体の2〜3%程度だが、毎年20〜30%程度のペースで伸長しているという。


 自社商品の開発が、従来のBtoBの部品を製造する技術向上にもつながっている。金型を手掛ける企業が減少する中、キャステムでは、金型製作の経験者が不足していることを課題として捉えている。そこで、BtoC商品の製造で培ったシリコン型の技術を、工業部品の製造にも応用している。シリコン型は金型に比べて製作の難易度が低く、短期間で作れるため、金型製作の経験が浅い社員でも製造工程に携わりやすい。


 シリコン型の活用方法を指導しているのは、自社商品の開発を担当するメンバーだ。BtoC商品の開発で培った技術やノウハウを、工業部品の製造にも生かしている。


 こうした取り組みによって、キャステムの知名度も向上。20人前後の新卒採用枠に対し、800人を超える応募が集まるまでになった。記事の後編では、同社の人材戦略に迫る。



このニュースに関するつぶやき

  • ボクシングのチャンピオンベルトは自腹購入だそうだ。金属でも段ボールでもいい。皆何か一つでいいから1等賞を得よう。見えない王冠があれば欲しい。ただし、裸の王様にはなるな。
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