画像提供:マイナビニュース「土地活用というと、やはりアパートを建てるしかないのでしょうか」
土地を所有する方から、このようなご相談を受けることがあります。
結論から言えば、答えは「ノー」です。土地活用の代表例はアパートやマンションなどの賃貸住宅ですが、土地を貸して収益を得る方法はそれだけではありません。
例えば、ロードサイドの飲食店やドラッグストア、介護・福祉施設などを見ていると、その事業者のために建てられたと思われる建物を見かけることがあります。こうした事業者の中には、自社の事業に適した建物を建ててもらい、それを長期間借りたいというニーズがあります。そのニーズに応える土地活用が「建て貸し」です。
建て貸しは「テナントを先に決めてから建てる」
建て貸しの最大の特徴は、その順番にあります。
まず、土地を利用したいテナントを探します。そのテナントと賃料や契約期間などの条件を協議し、テナントが必要とする建物の規模や間取り、設備などの仕様を決めます。そのうえで土地所有者が建物を建築し、完成後に土地・建物を一体としてテナントへ賃貸します。
つまり、土地がある→建物を建てる→入居者を探す
のではなく、
土地がある→テナントを探す→条件を決める→テナント仕様の建物を建てる
という順番です。ここが一般的なアパート経営との大きな違いです。
なぜ事業者は建て貸し物件を求めるのか
一般的な企業であれば、既存のオフィスや店舗を借りれば事業を始められます。しかし、どの事業でも既存の賃貸物件で対応できるとは限りません。
例えば、ロードサイド店舗では、店舗面積だけでなく、駐車場の台数、道路からの入りやすさ、看板の見え方、ドライブスルーの動線など、その事業者独自の店舗づくりが必要になることがあります。介護・福祉施設でも、居室の広さや数、共用スペース、浴室、厨房、職員の動線など、運営方法によって必要な建物の仕様が変わります。
出来合いの賃貸物件に自分たちの事業を合わせるより、自社の運営方法に適した建物を最初からつくってもらいたい。こうした需要を持つ事業者が、建て貸し用地を探しているのです。
入居者を探してから建てるから、空室リスクを抑えやすい
建て貸しのもう一つの特徴は、賃貸経営の安定性です。
アパートであれば、完成後も複数の入居者を募集し続けなければなりません。退去者が出れば、その都度新しい入居者を探します。一方、建て貸しでは、あらかじめ決めた一つの事業者が建物全体を長期間借りることが基本となります。そのため、契約が継続している間は、アパートのように一室ごとの入退去を繰り返すことがなく、管理負担が少なく、空室リスクを抑えながら比較的安定した賃料収入を得やすいという特徴があります。
土地所有者自身が店舗や介護施設を経営するわけではありません。事業を行うのはテナントであり、土地所有者は土地と建物を所有して賃料を受け取ります。土地を収益資産に変えながら、事業そのものの運営リスクはテナント側が負う。この役割分担も建て貸しの特徴です。
なお、信用力のあるテナントとの長期賃貸借契約が見込めれば、将来の賃料収入を予測しやすくなります。これは、建築資金の調達を検討するうえでも重要な要素となります。
リスクが低い分、リターンも抑えられる
もちろん、建て貸しだけが優れた土地活用というわけではありません。一般的には、長期間安定した賃料収入を得やすい反面、アパートなどと比較すると高い利回りを狙う土地活用ではありません。
つまり、「高い収益性を狙うというより、リスクを抑えながら長期間安定した収益を得る」。
この性格を理解しておく必要があります。
一方で、住宅系の土地活用とは土地の評価方法も異なります。賃貸住宅であれば駅からの距離などの生活利便性が賃貸需要を大きく左右しますが、事業用不動産では、その事業に必要な条件を満たしているかどうかが重要になります。そのため、「アパートには向かない土地でも、建て貸しなら可能性がある」というケースもあります。この点については、次回詳しく取り上げます。
長期契約だからこそのリスクもある
もっとも、「長期契約だから安心」と考えるのも危険です。
建て貸しは特定のテナントの仕様に合わせて建物をつくります。もし契約途中でそのテナントが撤退すれば、賃料収入が一度に失われる可能性があります。さらに、建物の特殊性が高ければ、次のテナントがそのまま利用できず、多額の改修費が必要になったり、場合によっては転用そのものが難しくなったりします。
したがって建築前には、テナントの信用力や事業の継続性を確認するとともに、中途解約時の取り扱い、建設費の回収期間、退去後の建物の再利用可能性などを検証し、契約と事業計画を組み立てる必要があります。
建物をできるだけ汎用的な仕様にする、中途解約時の条件を契約であらかじめ定めておくなど、こうしたリスクを回避・軽減する方法もあります。
重要なのは、テナント探し、建築計画、資金計画、賃貸借契約を別々に検討するのではなく、一つの事業として一貫したマネジメントのもとに組み立てることです。
「何を建てるか」より先に「誰が使うか」を決める
土地活用というと、「この土地に何を建てようか」と考えがちです。建て貸しは、その発想を逆転させます。
先に、その土地を使いたいテナントを探す。そして、その事業者と賃料や契約期間を協議し、事業者が必要とする建物を計画する。建築費や借入返済を含めて採算が成立することを確認してから、建物を建てる。
つまり、「建ててから貸す」のではなく、「貸す相手を決めてから建てる」。
これが建て貸しの基本です。アパートやマンションだけを土地活用の選択肢と考える必要はありません。その土地を必要としている事業者を見つけ、その需要に合わせて不動産をつくる。建て貸しは、土地を長期安定型の収益資産に変えるための選択肢の一つなのです。
佐嘉田 英樹 さかた ひでき アテナ・パートナーズ株式会社 代表取締役。1991年に東京大学卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行、主に融資営業・マーケティング戦略企画に携わる。その後不動産・建設業界に身を転じ、建売分譲、賃貸アパート、介護福祉施設等の企画開発・売買などに従事し、2023年8月に独立。地主・不動産投資家・中小企業の不動産活用コンサルティングやプロジェクト・マネジメント、テナント企業の開業支援を行う。宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター、2級建築士、FP2級など幅広い専門知識を駆使し、総合的な視点からクライアントの課題解決にあたる。
アテナ・パートナーズ株式会社:https://athena-ptr.co.jp/
アテナ・パートナーズ株式会社は、お客様のニーズや目的を詳細にヒアリングして、物件や市場の調査を行った上で、所有不動産の有効活用、開発、建て替え、リノベーション・用途変更、売却、交換など、多角的・戦略的な企画提案・マネジメントを行う。企画計画から資金調達、テナント誘致、設計、工事、引き渡しまで一貫してプロジェクトをマネジメントすることで、独自のビジネスモデルを展開する。 この著者の記事一覧はこちら(佐嘉田 英樹)