
「また起こったのか、という落胆と怒り。それから、やっぱり恐怖というのが強いですね」
そう語るのは、憲法学者で、参議院議員の高良沙哉氏(47)だ。沖縄県那覇市生まれの高良議員は沖縄大学人文学部教授を経て、2025年の参議院選挙に沖縄選挙区から立候補し、初当選。地元出身者として基地問題について強い関心を持ち、学者としても研究の対象としてきた。
10月3日、沖縄県那覇市のホテルで39歳の女性が殺害され、財布などが奪われた事件で、沖縄県警は4日、米軍普天間飛行場所属の海兵隊員(20)を強盗殺人容疑で逮捕した。容疑者は容疑を否認している。
事件を受け、高市早苗首相(65)ら政府関係者は米側に抗議し、再発防止を求めたが、沖縄では米軍関係者による事件が繰り返されてきた。地元紙記者は、こう話す。
「1972年の本土復帰から2021年までに、米軍人・軍属・家族による刑法犯の摘発は6109件に上ります。1995年には米兵3人による少女暴行事件が発生。日本側は逮捕状を取得しましたが、日米地位協定の壁によって、容疑者3人の身柄は起訴まで引き渡されませんでした。
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県民の怒りが爆発し、日米両政府は殺人や強姦事件などの重大事件については、日本側が起訴前の身柄引き渡しを求めた場合、米側が『好意的な考慮』を払うという運用改善に合意しました」
だが、日米地位協定そのものは改定されていない。日本側に裁判権があっても、米側が先に身柄を確保した場合、原則として起訴まで米側が拘禁を続ける仕組みは変わっていないのだ。
■「軍隊は凶暴性を高める組織」女性や子どもに向かう暴力
なぜ、米兵による凶悪事件が繰り返されるのか。高良氏は、軍隊そのものが持つ性質を指摘する。
「軍隊というのは、そもそも相手国の人間を攻撃する任務を負っています。一人ひとりの兵士は、もともとは普通の優しい人間であっても、訓練の中で凶暴性を高め、他者を殺傷することを学ばなければいけません」
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軍隊では「男らしさ」や「強さ」が強調され、その暴力性が女性や子どもなど、弱い立場の人々に向かいやすいという。さらに、戦勝国としての優位意識や、“占領”地域の人々、アジア人への差別感情も暴力につながっている可能性を指摘する。
■基地の7割が沖縄に集中 日本全体の問題にならない理由
沖縄には、在日米軍専用施設面積の約7割が集中している。
「沖縄では基地と住民の居住地域が非常に密接です。米兵は公務外には自由に民間地域を行き来している。そうした環境も事件が起こりやすい要因になっていると思います」
高良氏は、戦後、本土にあった米軍基地の一部が沖縄へ移され、危険が集中したことも問題視する。
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「基地の不利益が沖縄に集中するようになったことで、本土では地位協定の不平等性や米軍による危険を意識しなくても、日常生活ができるようになってしまったんです」
日本政府の姿勢にも疑問を呈する。
「日本は米軍の駐留を受け入れ、国内での訓練も認めています。そんなに物が言えない立場ではないはずです。それなのに、地位協定の改定を議論しようとする様子がなかなか生まれない」
■「48時間停止して、49時間目には再開する」綱紀粛正に効果はあるのか
今回の事件では、日本の警察が基地外で容疑者を逮捕したため、日米地位協定による身柄引き渡しの問題は生じていない。しかし、高良氏は捜査上の懸念を指摘する。
「事件当時と逮捕時で容疑者の服装が違っていたという報道があります。仮に基地内に証拠を置いていたとすれば、日本の捜査機関は米軍の協力なしには証拠を押さえられません」
事件後、米軍は沖縄に駐留する米兵に48時間の活動停止を命じ、その後30日間の夜間外出制限を発表した。
「48時間の活動停止をしても、49時間目にはまた活動を始めるわけですよね。30日間の行動制限をしたとしても、その後はどうするんですか、ということです」
事件のたびに繰り返される綱紀粛正や教育の見直し。その実効性を高良氏は疑問視する。
「これまでどういう教育をしてきてたのか、教育の効果がないのだとすれば、どこに問題があったのか、しっかり検証してほしいと思います」
軍隊は人を殺傷する訓練をしながらも、同時に人に暴力を振るってはいけないと教えなければならない。
「この二つを両立させるのは、とても難しいことだと思います。でも、米軍の駐留を認める以上、日本政府も単なる受け入れ国としてではなく、積極的に関わらなければ改善は難しいと思います」
さらに、沖縄の海兵隊をグアムへ移転させる計画についても言及する。日米両政府は4,000人以上の移転を計画し、2024年12月には約100人の先遣隊が移転を開始した。
「海兵隊による犯罪をどう食い止めるかということと、計画に基づいて実際に沖縄の海兵隊をどう減らしていくかということも忘れてはいけないと思います」
事件が起こるたびに繰り返される抗議と再発防止の約束。米軍の駐留を認め、その危険を沖縄に集中させてきた日本政府の責任が、いま改めて問われている。
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