「私は加害者」母親がオウム真理教の信者だった女性の苦難。専用窓口もない“オウム2世”が抱え続ける十字架

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2026年10月11日 16:21  日刊SPA!

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オウム真理教の教祖、麻原彰晃のマスクを被り都内をパレードするオウムの信者たち ©産経新聞
 2022年に起きた安倍元首相襲撃事件をきっかけとして、皮肉なことに社会は宗教2世の声に耳を傾け始めた。一方で、同じ宗教2世でありながら、十分に光が当たってこなかった人たちがいる。オウム真理教の信者だった親のもとで育った「オウム2世」だ。
 ヒナさん(仮名)は事件に一切関わっていないが、「自分は加害者」と、長らく苦しみ続けてきた。彼女が信者になった経緯や心の回復に繋がった支援とは――。話をうかがった。

◆「ヨガを褒められて嬉しい」純粋な動機から始まった修行の日々

 オウム真理教は、麻原彰晃(本名・松本智津夫)が立ち上げたヨガ教室が発展・拡大していった宗教団体だ。ヒナさんの母は、姉妹同然に育ったいとこに誘われ、オウム真理教の前身「オウム神仙の会」に入信。いとこはホーリーネーム(教祖から授かる特別な名前)を持つほどオウムに傾倒していた。

 母は、いとこ家族に会うため教団へ行き、いとこに課せられたノルマの達成にも協力。夫の不倫後には「不倫はあなたのせいではなく、夫自身の前世でのカルマ(業)のせい」と、オウムの教義で慰められて心が救われた。

「私は支払った総額を知りませんが、母はセミナーや儀式への参加のためにお布施を払っていました。我が家は裕福なほうだったからか、幼少期、お布施によって生活が困窮することはありませんでした」

 母は家でもヨガを練習。ヒナさんは子どもならではの柔軟性を活かし、大人ができないヨガのポーズを披露し、褒められることが嬉しかった。小学生だったヒナさんは覚えていないが、「私もヨガをやる」と言ったことから、母は我が子を教団の道場へ連れて行くようになる。

「ただ母と同じことをして褒めてもらいたかっただけでした。教義は、さっぱり分かりませんでした」

◆教祖から手渡された液体には薬物が…命の危機さえ日常だった

 信者から「オウムの純粋培養」と言われたヒナさん。いとこがホーリーネームを持っていたため、漫画やゲームを禁止されるなど日常生活にも指導が入る。

 中学生の頃には、大人と同じ長期修行や特別な儀式に参加。飲食や睡眠時間を極限まで削り、同じ姿勢で夜通し読経する修行を日常的に受けた。

「寝たら竹刀で床を叩かれ、起こされます。長期の修行では入浴も許されません。大人でも音を上げる修行。何度も命の危機を感じました」

 長期修行中には体重が激減。自分の服が入ったカバンを持ち上げられなくなり、免疫が落ちて水疱瘡を発症。だが、信者は「浄化が起きている」と褒め、治療はされなかった。

「後で知りましたが、イニシエーションという儀式では液体に薬物が入れられていました。飲むと意識を失って暴れ回り、気づいた時には自分が誰か分からない。回復までに数日かかりました」

 やがて、心の中に激しい葛藤が生まれる。オウムに行かず、好きなことをやりたい。でも、オウムを辞めたら低い世界に生まれ変わり、家族が私の分の修行を背負わなくてはならない。

「繰り返し教育された教義が行動を狭め、未来が見えなくて。早く人生が終わってほしいと思っていました」

◆末端の信者には寝耳に水だった地下鉄サリン事件

 中学卒業後は幹部たちから出家(教団施設に入って修行と業務に専念すること)を何度も強要されたが、なんとか高校へ進学。入学後も出家を強要されるたびに逃亡する。だが、いとこ家族や幹部からの圧に耐えきれず、出家した。

 地下鉄サリン事件が起きたのは、それから数カ月後の1995年3月のこと。

「出家中は外部と隔離され、情報が得られません。私は一緒にいた出家信者から事件のことを聞きました。末端の信者だったので、オウムと事件が結びつきませんでした」

 事件後は親戚の家に身を寄せたが、様子が気になり、こっそり自宅へ。目に飛び込んできたのは、近所の人に胸ぐらを掴まれる母の姿だった。

「母はオウムで推奨されていた教えに従い、親族や近所の人を同意なく入信させていました。その人たちの家にも警察が来たので問い詰められたんです」

 オウムが起こした事件はあまりに凄惨なものであったため、当時はすべての信者に「お布施でオウムに資金協力をした加害者であり、犯罪者」という視線が向けられた。

「国家や親族、親しかった人たちから敵意を向けられ、身を隠すしかありませんでした」

 宗教2世という概念などない当時、ヒナさんは教団からの指示で成人と偽ったため、警察の取り調べを受ける。事件に関与していないことが分かっても、逃亡犯を匿っていないか確認するため、警察は何度も家に来た。

「家中を見せても、管轄が違う警察の訪問時にはまた一からの説明が必要でした」

 父は家族を捨てて姿を消した。母は定職につけず、生活は困窮。母娘は夜逃げ同然で引っ越した。

◆地下鉄サリン事件から2年後、孤独から再び信者に

 1年ほど身を隠して生活した後、ヒナさんは高校に編入。ただ、警察からのマークは続いており、取り囲まれながら取り調べられ、尾行もされた。そうした扱いは、状況を見かねた警察関係者が身元を保証してくれるまで続く。

 当時、オウム2世は入学や通学、医療機関への受診を断られることがあった。

「私に残ったのは母だけ。その母も生計を立てるのに必死だったので、学費は『自力でどうにかしないと』と思って……」

 地下鉄サリン事件から2年ほど経った頃、在家時代に親しかった信者からオウムの施設に誘われる。孤独だったヒナさんは再び入信。信者からパソコンを習い、バイト先を紹介してもらう。

「普段はオウムであることを隠しているので、安心して話せるのは信者だけでした。オウムに通えていなかった期間を取り戻さないという焦りも再び入信した理由でしたが、一番大きかったのは孤独で、自分のアイデンティティと直結する宗教と離れることは自身の崩壊に繋がるように感じたからです」

 精神が壊れ、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた感覚だったヒナさんは、教団に戻ることで命を紡いだ。

◆「自分は被害者だった」という認識が心の回復に繋がった

 教団を抜けられたのは、成人後。後継団体の「アレフ」への移行中、壮絶な内部分裂を目にし、「組織として信頼できない」と思ったからだ。しばらくは信仰心が消えず、禁忌とされていた治療や手術を受ける時に葛藤した。

 その後は進学し直し、就職。社会人として普通の暮らしを送っていた時に安倍元首相銃撃事件が起きる。容疑者のバックグラウンドが明らかになった時、他の宗教でも過酷な生活を強いられている人がいたことを知り、驚いた。

「あんな孤立と苦労を味わったのは、自分たちが最後だと思っていました。私は人の巡り合わせと運がよくて社会に溶け込めたけれど、そうでなかったら社会を恨んでいたかもしれないと、恐怖が押し寄せてきて」

 この事件は他人事ではない。そう感じて相談先を探したが、オウム2世向けの相談窓口はなかったため、SNSで体験談を発信。

「私は何十年経っても、修行が集中的にあった時期にはパニックを起こし、心が不安定になることがありました。発信を機に、癒えていない傷への支援を得られるかもしれないとも思って」

 発信後、出会えたのは信頼できる有識者や当事者たち。理解あるカウンセラーも自力で見つけ、自身の捉え方が変わる。

「私はずっと自分を加害者だと思っていました。オウムにいたのは事実だし、警察から加害者と言われてきたから。でも、『子どもだったあなたは被害者』と繰り返し言われる中で、初めて自分は被害者だと認めることができたんです」

◆オウムは「終わった宗教問題」じゃない

 ヒナさんの場合は、心理学を学ぶことも心の回復に繋がった。教祖への絶対服従で思考を停止させる教義とは異なり、心理学は学問として体系的に論理が展開され、順を追うごとに問いへの答えが深まっていく。

 学ぶ中で「こっちのほうが難しいけど、私はこっちがいい」と、何かがカチっとハマる感覚がした。

「いとこ家族は今も宗教指導を行っているので、絶縁しています。母は教団を離れ、カウンセリングを受けています」

 宗教2世向けの相談窓口は増えてきたが、オウム2世専用の相談窓口は今もない。宗教2世が運営するピアサポートは年齢や家庭状況、宗教団体の違いから理解やサポートが難しい現状がある。

「他の宗教2世や支援者から『オウムはテロ組織、カルトだから別枠』と言われたこともあります。私のように孤立し、遠回りする当事者が増えてほしくない。

 オウムの後継団体に子どもを連れて行く方は今もいる。オウムは令和の時代になっても終っていない宗教問題であり、自己責任論で片付けていい問題でもないと思っています」

 ようやく過去の自分に「よく頑張った。生きてくれてありがとう」と言えるようになれたというヒナさん。取材を受ければ、心ない言葉を受けることもあるが、それでも声を上げなければ変わらない現状があるため、体験を語り続ける。

 償いきれないほど凄惨な事件を起こした教祖や幹部に厳正な裁きが下されることはもちろん大切だが、選択権を持たずに巻き込まれ、自身を「加害者」と責め続ける罪なきオウム2世に適切な支援が当たり前に差し伸べられる社会になることを願う。

<取材・文/古川諭香>

【古川諭香】
フリーライター。生まれつき心臓病で脾臓がない。得意な執筆ジャンルは生きづらさ、障害、猫。おキャット様と快適に暮らせる家を建てたほど、私生活では猫の下僕。X:@yunc24291

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