「東京チカラめし」が東京で再始動 今度はどう売っていくのか

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2024年06月28日 06:10  ITmedia ビジネスオンライン

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東京チカラめしが再始動、1カ月の結果は?

 2011年に1号店を東京・池袋にオープンした「東京チカラめし」。「煮る」のではなく「焼く」という珍しいスタイルの「焼き牛丼」を280円(創業当時)という低価格で提供して人気を獲得し、一気に店舗が広がった。


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 全盛期の2013年には130店舗以上を展開していたが、翌年からは食材の原価高騰と人材育成の課題が重なり、閉店を余儀なくされた。


 運営上の課題だけでなく物件の都合も重なり、閉店は止まらず。2023年11月には、国内店舗がフランチャイズ運営の大阪日本橋店のみとなった。そうした経緯を経て2024年5月、都内の九段第二合同庁舎内に「東京チカラめし食堂」がオープンした。


 焼き牛丼以外に週替わりの定食や麺類なども扱う新業態となり、館内で働く職員だけでなく一般の人も利用できる。


 東京での再始動にあたり、どのように東京チカラめしを売っていくのか。同ブランドを運営するSANKO MARKETING FOODS(サンコーマーケティングフーズ)の社長 長澤成博氏、東京チカラめし食堂 業態長 小川直樹氏に、新業態の戦略や再始動への思いを聞いた。


●大ヒットから一転、閉店ラッシュへ


 東京チカラめしは、東日本大震災の後、「東京から日本を元気にしたい」という思いのもとに誕生したブランドだ。看板メニューに、「煮る」のではなく「焼く」調理法を採用した「焼き牛丼」を開発。後発のブランドとして大手の牛丼チェーン店と戦っていくには、独自のアプローチで攻める必要があったためだ。


 タレを塗ってスチームオーブンで焼いた牛肉をご飯の上に乗せ、かけダレをかけて提供する。焼くことによる肉の香ばしさや焼きダレとかけダレの2種が絡み合うパンチの効いた味わいが特徴で、280円(並、みそ汁付き)という低価格も追い風となり、あっという間に繁盛店に。2011年の1号店オープンから2年半の間に、130店舗以上まで拡大した。


 「当時は新店舗を出せば行列ができる状態でした。2012年には年間で約80店舗がオープンし、これは2週間に3店舗を出店するペースです。メイン食材である牛肉と米を大量購入してスケールメリットを得ることで、低価格を維持していました」(長澤氏)


 ところが、2014年には状況が一変。牛肉と米の調達価格が急騰し、1杯300円前後での提供が難しくなった。加えて、人材の育成が出店ペースに追いつかず、品質やオペレーションの低下が目立つようになったという。


 「50店舗ほどに増えたところで、店舗によって、焼き牛丼の味や店内の清掃状態などにブレが生じてきました。というのも、煮込んだ牛肉をご飯の上にかけるだけの牛丼と比べて、当社の焼き牛丼は『タレを塗った牛肉を焼き、丼に並べてかけダレをかける』という手間のかかる調理法に加えて、肉を焼いた網の清掃も必要になるため、オペレーションの負荷がかかるんです」(長澤氏)


 手間をかけたぶん、おいしさは引き出されるが、それがあだとなった。「早い、安い、うまい」を求める顧客の期待に沿うサービスが提供できなくなり、2014年から閉店ラッシュに。一気に規模が縮小し、2023年11月には国内1店舗に激減した。


●定番に加えて「定食」や「麺類」も提供


 そうした苦しい局面を経て、2024年5月、九段第二合同庁舎内に「東京チカラめし食堂」がオープン。それまでの「東京チカラめし」とは業態を変えて、東京での再出発を切った。


 「コロナ禍で組織を存続させるにあたり、それまで主力だった居酒屋事業を縮小して、その代わりに官公庁の食堂事業を広げていきました。そういった流れの中で、東京法務局などが入る九段第二合同庁舎内に東京チカラめし食堂を開店することになりました」(長澤氏)


 現在、サンコーマーケティングフーズでは12の食堂を受託して運営している。これまでの食堂は館内の職員しか来店できなかったが、九段第二合同庁舎の食堂は一般の人も来店できる。そこで、日常食と親和性がある東京チカラめしのブランドとコラボして「東京チカラめし食堂」としての開店が決まったという。


 東京チカラめし食堂は、九段第二合同庁舎の営業日に合わせて平日の午前11時〜午後2時30分に営業。約300席を設ける。メニューは看板メニューの「焼き牛丼」(並・大/680円〜、ごはん大盛り+具1.5倍/880円〜)に加え、日替わりや週替わりの「定食」(650円〜)、「カレー」(800円)、「麺」(650円〜)と幅広くそろえる。


 「社食として毎日利用されることを考えると、焼き牛丼だけではニーズを満たせないだろうと。日常食としての選択肢を広く提供することで、利用者のニーズに応えたいと考えました」(小川氏)


 肉がメインのボリュームのあるメニューが多いものの、野菜が多く使われた彩りのいい定食もある。


 「メニューは、3年にわたって官公庁の食堂を運営するなかで感じた『食の価値観の変化』を反映しています。食事のカロリーを気にしたり、野菜が多いおかずを選んだり、健康意識を持つ方が非常に増えました」(小川氏)


 焼き牛丼の価格は並が680円で、大阪日本橋店の500円とは大きく異なる。この価格設定の要因として、小川氏は「原価高騰」を挙げた。


 「ブランド立ち上げの2011年から比較して、原価は3.5倍ほど上がっています。牛肉はずっと米国産を使っていますが、今後も物価上昇は進んでいくと思います。今、当社が提供できる価格帯として680円で設定しました」(小川氏)


●開店直後は「チカラめしファン」が行列


 5月7日に東京チカラめし食堂がオープンすると、東京での復活を待っていたチカラめしファンが多く足を運んだという。


 「初日と2日目は、30人ほどが開店前から並んでいました。告知は1週間前ぐらいでしたが、これだけの方が来店してくれ、期待してもらっているのだと感じました」(小川氏)


 2日間は『焼き牛丼』を注文する人が多く販売数が偏ったものの、開店から2カ月弱が経過した現在は、定食もよく売れるようになってきたという。


 「定食は日替わりや週替わりでメニューを変えているのですが、唐揚げや生姜焼きといった『定番のおかず』が入ると、そのメニューに注文が集中します。特に『唐揚げ』は圧倒的に人気で、味を変えて1週間に1度は必ずメニューに含めています。焼き牛丼はオーソドックスなメニューに、単品の味噌汁やサラダなどを追加される方がほとんどです」(小川氏)


 現状の客層は約65%が館内の職員で、残りがそれ以外とのこと。館内で働く人の男女比率は「男性6割、女性4割」だが、来客層の比率は「男性7割、女性3割」で、20〜30代の男性がボリュームゾーンだ。300席と席数が多いが、12時台はかなりにぎわっている状態だという。多くはないが、以前からの焼き牛丼のファンだと思われるお客もチラホラ見られるそうだ。


 これまでのところ反響は良く、特に法務局の職員にはとても喜ばれているとか。3年間の食堂事業で開発した独自レシピと得られたノウハウにより、「温かい食事を温かいまま提供する」ことができていて、一定の評価を得られていると小川氏は話した。


●新業態を育て、挑戦を加速したい


 東京チカラめしはコロナ禍に海外進出しており、香港に3店舗、タイに1店舗をオープンしている。海外企業から声がかかり、ライセンス契約を締結して出店にいたった。運営は現地パートナーが取り仕切っていて、どの店舗も人気を得ているそうだ。


 東京で再出発を切ったばかりの東京チカラめしは、今後どんな展開を見据えているのか。小川氏は「まずは足元を固めたい」と慎重な姿勢を見せた。


 「ひとまず、今回ご縁をいただいた『東京チカラめし食堂』をしっかり運営して、この業態を育てていきたいです。職員の方はもちろん、当ブランドの根強いファンの方の期待にも応えながら、当社の使命として第一次産業従事者を支えていきたい。食堂の運営では、国産の有機野菜や魚を積極的に使うようにしています」(小川氏)


 長澤氏も同様に「ブランドを磨いていく」としながらも、今後の国内外の展開に意欲を示した。


 「東京チカラめし食堂は、職員の方の健康を支える食堂としての責務を全うしながら業態を磨いていきます。東京チカラめし単体でいえば、非常に多くの方から支持をいただいていますので、現代に合わせたブランドにアップデートして国内外に広げていきたい。海外展開はラインセンス契約だけでなく直営も検討していますし、さまざま挑戦していきたい思いがあります」(長澤氏)


 「官公庁の食堂とのコラボ」という思いがけないスタイルで再出発した東京チカラめし。これからどんなブランドに変化していくのか。軒並み人気だという海外展開も、また気になるところだ。


(小林香織)


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  • ステマ禁止とか、なんの効果もないわけやな。 そのまま、再び消えてくれんかなあ。
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