女性が牛丼屋に入りにくい問題どうする? 「吉野家」15年ぶり大規模出店 女性を狙った2つの店舗スタイルとは

79

2024年06月29日 06:30  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

大規模な出店攻勢を進める方針の吉野家

 吉野家は今期、国内で100店舗を増やす計画だ。約1200店舗で頭打ちとなり、10年以上にわたって横ばいに推移してきた吉野家があらためて攻勢をかける。100店規模の新規出店は実に15年ぶりのことだという。


【画像】女性客が半数の吉野家、女性が喜ぶ新型店舗、戦闘力を高めた吉野家、女性向けの牛丼(計5枚)


 2種類の新業態店で攻める方針だが、既に飽和状態にある牛丼業界において、どのような勝機があるのか。新業態店の特徴とその狙いを探る。


●店舗数1位は最後発の「すき家」


 吉野家は1899年に東京・日本橋で創業した。その後に築地へ移転し、戦災を乗り越えて営業を再開。多店舗展開を始めたのは1960年代以降である。その後は、「早い、うまい、安い」をキャッチフレーズとして店舗展開を加速させる。


 競合の松屋は1968年に牛めし・焼肉定食店として1号店をオープン。吉野家と同じようにチェーン展開を進めた。ちなみに松屋の創業者は吉野家の味に感銘を受け、牛丼業態を始めたといわれている。


 後発のすき家は、1982年に1号店をオープンした。都市部を抑えていた吉野家・松屋に対してすき家はロードサイドに出店し、地方および郊外で勢力を伸ばし、2008年に当時トップだった吉野家の店舗数を上回り業界1位となった。


 業界全体では2014年以降、すき家・吉野家・松屋の3社はそれぞれ約2000店舗・約1200店・約1000店舗のまま横ばいに推移しており、飽和状態になっている。


●女性比率の高いテークアウト専門店


 先述の通り、吉野家は今期大きく出店を加速する方針だ。2025年2月末時点の店舗数は1323店舗を計画しており、実に15年ぶりとなる100店規模の出店を目指す。


 新規出店の軸となるのがテークアウト専門店である。同店舗の面積は約50平方メートルと、100平方メートルを基本とする従来店の半分だ。テークアウトとデリバリー専門のため、イートインスペースはない。中に待合スペースを設ける店舗もあるが、通りに面した窓口があるだけの簡易的な店舗もある。都市部では商店街や角地への出店が目立つ。


 初期投資額も従来店の2分の1以下と安価だ。従業員数は従来店と変わらないが、配膳の必要がなく、より効率的に運営できるため運営コストも低い。求人では配膳や片付けが不要な点を強調しており、従来の「キツい」というイメージを軽減できているのか、アルバイトを集めやすいという。


 これまで吉野家はテークアウト専門店を2022年度に6店舗、2023年度に37店舗出店した。2年の検証期間では売上高が計画を上回ったほか、弱みとする女性客を獲得できていることが分かり、同店舗の出店加速を決めたという。


 テークアウト専門店の女性客比率はチェーン全体の25%に対し、50%と高い。コロナ禍を通じて吉野家のテークアウト比率が7.8%から37.5%へと拡大したことも背景にある。今期は117店舗の出店を計画し、来期はさらなる出店を模索する。


●「らしくない」C&C店舗も大幅に拡大へ


 吉野家は他にもC&C店舗の出店を強化する方針を発表している。


 C&Cとは「クッキング&コンフォート」の略。従来店のようにU字型のカウンター席はなく、C&C店舗はファミレスやカフェのようにテーブル席を多く設置する。椅子も簡素な丸椅子ではなく、背もたれがついたものだ。カウンター席には電源もあり、ゆっくり休めそうな雰囲気である。無機質な従来店の内装とは対照的に、C&C店舗は木目やレンガ調の壁紙、フェイクグリーンを設置するなど内装にも凝っている。


 利用客は入口付近のレジで会計を済ませ、呼ばれたら取りに行くセルフ式をとる。松屋のように券売機を置かないのは、対面を重視する吉野家らしい施策だ。C&C店舗限定のメニューもある。「牛丼ON野菜」(並盛677円)や「ON野菜」(110円)のほか、アイスクリームやドリンクバーまであるのが特徴的だ。以前はケーキも提供していた。


 牛丼御三家の中でもトッピングや特徴的なメニューが少なく、牛丼一辺倒だった吉野家のメニューをかえりみると、C&C店は女性客を取り込もうとする姿勢がうかがえる。


 C&C店は従来店よりテークアウトの売り上げが伸びた他、2割だった女性客比率が3割に増えた実績もあったといい、期待は大きい。2016年から出店し、2019年時点では4店舗しかなかったが、新規出店および従来店の改装を進めた。直近2年で店舗数を著しく増やし、2024年2月期末時点では412店舗まで拡大している。2025年2月期末には532店舗を目標とする。


●本業に集中し、女性客を取り込む


 テークアウト専門店、C&C店と2つの新業態店を強化する吉野家だが、背景には女性客を取り込みたい狙いがある。従来の狭いカウンター式店舗には抵抗がある女性も多く、新業態店でそれを打ち消す形だ。


 各社が実施する牛丼屋のアンケートでは、女性からの評価が高いのはすき家の傾向がある。すき家は豊富なトッピングメニューや子ども向けメニューで幅広い客層を取り込んできた。一方の吉野家は女性客比率が低く、新規開拓を模索した結果が新たな戦略に反映されている。


 吉野家ホールディングス全体に目を向ければ、2020年に「ステーキのどん」や「フォルクス」などのアークミール事業を手放し、翌2021年には持ち帰り寿司店の「京樽」事業をスシローグローバルホールディングス(現:FOOD & LIFE COMPANIES)へと売却した。国内のはなまる事業も芳しくなく、すき家のゼンショーのように多角化を進めたが、うまくいっていない模様だ。他事業がうまくいかない状況であらためて本業を伸ばそうとしたのだろう。


 女性からは「牛丼屋には入りにくい」という意見も聞かれ、新業態店のポテンシャルはありそうだ。テークアウト店の半分が女性客であることからも、牛丼自体が避けられているわけではないことは明確であり、女性客を取り込んで再成長できるのか、吉野家の今後に注目したい。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。


このニュースに関するつぶやき

  • 牛丼屋さんって、あんなにたくさんのメニューが必要なんでしょうかね?今は多過ぎると思いますよ。あんなにたくさんある必要は無いでしょう。働いている人も大変だと思いますよ。
    • イイネ!10
    • コメント 1件

つぶやき一覧へ(59件)

ニュース設定