男子校は女子差別? 共学化論争に欠けた「機会の平等」議論と「東大至上主義」への疑問 おおたとしまささん

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2024年06月30日 08:10  弁護士ドットコム

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埼玉県の男女別学高校の共学化を巡り議論が起きている。この問題を取り上げたNHKの番組について、X(旧ツイッター)上で異論も噴出した。埼玉でいったいなにが起きているのか。経緯を振り返りながら、このNHKの番組に出演予定だったという教育ジャーナリストのおおたとしまささんに論点を聞いた。(ライター・国分瑠衣子)


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●発端は個人からの申し出

発端は2022年4月に、埼玉県の男女共同参画苦情処理委員に出された個人からの申し出だ。



申し出の趣旨は、おおむね次のようなものだ。



「埼玉県立の男子高校が女子が女子であることを理由に入学を拒んでいる事。女子の入学は当然認めるべきだ。女子差別撤廃条約に違反している事態は是正されるべきだ」



これを受け、2023年8月に埼玉県の男女共同参画苦情処理委員は、教育委員会に次のように勧告した。



「男女別学であることだけでは条約違反とはされていないものの、埼玉県立高校において、共学化が早期に実現されるべきである」



埼玉県には現在、女子校7校、男子校5校の計12の男女別学の高校がある。この勧告を受けて、県教育委員会は、県内の中高生や保護者へアンケートを実施。男女別学高校の同窓生や、市民団体などへもヒアリングし、8月末には報告書を作成する。



●Xでは共学化に反対する人から異論が続出

NHKは6月21日放送の「首都圏情報ネタドリ!」で、埼玉の男女共学化論争について放送した。番組の冒頭では、埼玉県内で東大進学実績がトップの男子校・浦和高校にクローズアップ。浦和高校の生徒会が在校生に共学化の是非についてアンケートしたところ、800人あまりが回答し、「反対」、「どちらかといえば反対」が85%だったと伝えた。共学化に賛成、反対の立場のOBがいることも紹介した。



番組では、共学化を推進すべきという立場の東京大学の瀬地山角教授が、「男女の機会均等を目指す時代の要請ですし、別学が残る合理的理由が見付かりません。埼玉の一番の問題点は、進学実績で県内で飛び抜けている浦和高校に女子中学生が入学できないことです」などと述べた。



また、前広島県教育長の平川理恵さんは「大人のみで一方的に方針を示すのは今の時代どうかなと思います。例えば期限を2035年などとちょっと切って、将来の後輩たちのために考えるにはどうするかと議論していくことが重要だと思います」と話し、「子どもの声、意見を大事にしてほしい」と語った。



しかし放送後、Xでは番組への異論が続出した。



瀬地山教授が紹介した声に対して、「そもそも東大や京大に合格する人数だけを基準にすることが間違っているのではないのでしょうか?」という声があったほか、「共学化しなくてもリーダーシップは十分に育成されています」「比較対象として他県の事例を持ってくるのが筋違い」などの声が上がった。



●「男子校は是か非かの二項対立の論点ではない」



教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、この番組に出演予定で、直前まで打ち合わせを重ねていたという。しかし「男子校擁護論者としての役回りを求められ、『論点はそこではないと思います』と伝えたら、その話は別の出演者にしてもらうとのことだったので、出演辞退の判断をしました」(おおたさん)



おおたさんが番組で伝えたかった論点とは何だったのか。



「今回の県立高校一律共学化論争については、『勧告』そのものの妥当性を論理的に検証することに論点を集中すべきだと思っています」



そのために、前提の置き方に注意が必要だとおおたさんは言う。



「まず学校単体で必ず機会の平等が保たれなければならないと考えるのか、あるいは複数の学校を一つのシステムと捉えて、全体で同質の教育を受ける機会の平等が保たれていればいいと考えるのか。どちらの立場をとるかによって、見え方は変わってくると思います。



学校単体で平等が保たれるべきという観点に立つなら、議論の余地なく、男子校や女子校の存在は否定されます。一方、複数の学校を一つのシステムと捉えるなら、男子校、女子校が存在する論理的余地が残されます。



どちらの立場に立って公教育を築いていくべきなのかという議論を抜きにして、男子校や女子校を共学化すべきとは言えないはずです」



●浦和高校が進学校でなければ議論は起こらなかった

「それともう一つ。この議論は『高校は大学進学実績で選ぶものだ』という価値観を内面化しているからこそ出てきたと思います。そもそもの発端となった個人の方の申し出は『埼玉県立の男子校』を指していて、女子校のことは指していません。



男子校である浦和高校の進学実績が低かったら、はたして共学化の議論は出たのでしょうか。その発想こそ、時代遅れの学歴主義に捉われていないでしょうか。



そもそも高校は、大学進学実績だけで選ぶものではないし、ここは世の中の多くの方が勘違いしているのですが、高い大学進学実績を誇る高校に通えば“いい大学”に合格しやすくなるというものでもありません進学実績がいいことを理由に男子校を批判するのはナンセンスです」



●埼玉県のトップ県立進学校はもはや浦和高校ではない?

番組内で共学校の大宮高校や女子校の浦和第一女子(浦和一女)の進学実績に触れられていないことを批判するネット上の書き込みも多かった。



「浦和高校が埼玉県で突出した進学校であるという認識も間違っています。模試業者などが発表する偏差値一覧によれば、高校受験における県立最難関は、浦和高校ではなく、共学の大宮高校の理数科です。



大宮高校の国公立大合格者数は浦和高校とまったくの互角です。東大合格者数では浦和高校の半分ですが、これは男子生徒の数が半分であることで大部分は説明がつきます。東大合格者の8割は男子だからです。浦和高校と大宮高校の進学実績は全く遜色ないといえます。



女子校の浦和一女も、共学のさいたま市立浦和高校も、東大合格者数では上記2校に水をあけられているものの、国公立大合格者数では上記2校に準ずる実績を出しています。このほか、さいたま市立大宮国際中等教育学校は国際バカロレア認定校で、無試験で海外の大学に進学する選択肢も得られます」



●既存の共学校をトップ校に育てる解決策もある

おおたさんは番組制作スタッフに、この客観的事実を前提情報として報じるべきと再三伝えたが、「聞き入れられなかった」と残念がる。仮に浦和高校がトップ進学校だったとしても、それを理由に共学化を迫ることは理屈に合わない、ともおおたさんは指摘する。



「もし県内トップ進学校が男子校である状態が問題だとするのなら、解決方法は2つあります。一つはその男子校を共学化すること。もう一つは、既存の共学校をトップ進学校に育てること。このどちらを選ぶのかという議論を経ずに男子校を共学化しろというのは明らかな論理の飛躍です」



●東大至上主義から脱却すれば男子校の人気はなくなる

このようにして、おおたさんは、今回の「申し出」や「勧告」については「論理的な飛躍が大きい」と評するが、県立高校の共学化が進むこと自体には必ずしも否定的ではない。



東大至上主義的教育競争が和らいで『どこの学校もいい学校だよね』となれば、多分男子校の人気も下がるんです。そうすればいずれ自然に男子進学校はなくなるでしょう。本当に変えていかなければいけない点は、東大至上主義的な教育観です。いま県民の支持を得ている学校をむりやり潰して遺恨を残すことは、優れた民主的判断とはいえないと思います。



もともとの『申し出』も『勧告』も、最終的な目的は男女平等な社会の実現であるはずです。しかし、すでに全国の高校の約92%が共学なのに、男女平等な社会にはなっていません。共学化するだけでは足りないということです」



では何が必要か。



「共学校であろうが、女子校や男子校であろうが、いずれにしても、男女共同参画社会を前提とした市民教育が体系的に行われる必要があると思います。いわゆるジェンダー教育や包括的性教育です。その具体的な実践例を取材して、拙著『男子校の性教育2.0』にまとめました。逆に、そのような教育がきちんと行われるのであれば、共学校であれ、女子校や男子校であれ、男女平等な社会の実現の障害にはならないと私は思っています」



●「男女別学の存在が、誰かのなんらかの権利を侵害しているか」

さらに、今回の埼玉県の議論に限らず一般論として男女別学校の是非を問うのであれば、「男女別学の存在が、誰かのなんらかの権利を侵害しているか」という論点に焦点を絞って考えてみることが大切だとおおたさんは提案する。



「こう言うと、『浦高(浦和高校)に入りたいのに入れない女子がいる』『浦和一女(浦和第一女子高校)に入りたいのに入れない男子がいる』のだから、すでに誰かの権利を侵害しているだろうという反論があるかもしれません。



では、その人たちが浦高や浦和一女に入りたい目的は何か。その目的は浦高や浦和一女以外では本当に達成できないことなのか。その目的のために、男子だけで学びたい、女子だけで学びたいとする人たちの権利を奪う正当性はあるのか。……そこを考えてみるべきだと思います」



最後におおたさんは苦笑いしながら言った。



「大事なことが、雑な議論で決められちゃうのは嫌ですよね。結論は賛成でも反対でもいいけれど、丁寧に論点を整理したい。それにしても、直前で生出演を辞退して、ここまで内情を明かしたら、もう二度とNHKには呼ばれないですね」


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  • 共学化を共産主義化、機会の平等を人間の均等化に置き換えると、コミュニズムを作ったユダヤ人グローバリストどもの影が見えてくるな。
    • イイネ!68
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