なぜ、コンビニや駅で「バー」が増えているの? 参入ハードルをとことん下げた“仕組み”が面白い

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2024年10月24日 07:21  ITmedia ビジネスオンライン

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「お酒の美術館」が100店舗を達成

 重厚な扉を開け、カウンター越しに高級ウイスキーを嗜(たしな)む――。そんなバーの典型的なイメージを覆し、急成長を遂げているチェーンがある。創業7年で100店舗を達成した「お酒の美術館」だ。


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 路面やコンビニ、駅ナカなどの生活動線上に出店し、バー人口の裾野を広げつつある。業界の常識に捉われない独自の戦略と今後の展望を聞いた。


●「バー文化」を身近に


 お酒の美術館を運営するNBG社(京都市)は、「あらゆる生活シーンにバー文化を」という理念を掲げ、2017年2月に京都で1号店を開業した。2024年11月には105店舗に到達する計画で、バーチェーンとしては日本最大規模になる見込みという。


 同社で事業統括本部長を務める長田隆志氏は、「日本のバー業界は個人店が多く、馴染みのない人にとってはハードルが高い」と指摘する。事業開始の原点は、より気軽に利用できる店舗の必要性を感じたからだという。


 お酒の美術館の価格は、1杯500円からでチャージ料なし。アイテム数は約250種類で、希少なオールドボトルも提供している。独自の仕入れルートに加え、100店舗の規模を生かしたボリュームディスカウントで原価を抑え、手頃な価格設定と品質の両立を実現している。おつまみは乾きものが中心で、営業時間は店舗によって異なるが、午後3時から午前0時までが多い。


 路面店や駅ナカなど、タッチポイントの多い生活動線上に出店し、外からでも店舗の内部が見えるオープンな設計を採用している。バーに馴染みのない層でも、心理的なハードルを感じずに気軽に足を運べるようにした。


●7年で100店舗を達成


 成長を支える大きな要因は、フランチャイズ(FC)展開だ。2024年10月現在で、100店舗のうちFCが96店舗、直営店はわずか4店舗。なぜFCを拡大できたのか。


 当初は脱サラした個人や飲食未経験者でも出店できるように、初期投資を1000万円以下に抑えた。現在は物価高の影響があるものの、1400万円ほどで収まるようにしている。家賃は30万円以内で、広さは8坪以内。ワンオペが可能な運営形態で設計されている。


 参入のハードルを下げた結果、異業種からFC加盟するオーナーが多いという。「お酒を扱うビジネスモデルゆえに、ロスが少なく、人材も集めやすいことが魅力になっている」(長田氏)


 未経験者が多いことを踏まえ、1カ月にわたるスタート研修を用意し、ウイスキーの提供方法を中心に指導を行う。ウイスキーをメインにした業態にすることで、高度な技術を必要とするカクテルづくりよりも運営のハードルを下げている。簡素化されたオペレーションにより、短期間で必要なスキル習得、効率的な店舗運営を可能にした。


 また、飲食業界でみると、物価高や人手不足が課題となっているが、これらの社会課題についても長田氏は独自の強みを挙げる。


 価格面では、お酒が嗜好(しこう)品であることから、例えばラーメン店における「1000円の壁」のような心理的障壁が少なく、原価の上昇を価格に反映しやすいという。人材確保の面でも、バーテンダーが人気職種であることから応募が多いと語る。


●お酒の美術館ならではの出店戦略


 出店戦略も従来の飲食の出店と一線を画す。繁華街のど真ん中ではなく、駅ナカや路面店、コンビニ併設店など、タッチポイントの多い生活動線上に店舗を展開している。その結果、バーに通う機会が少ないライト層を取り込むことに成功したようだ。


 日本酒やワインといった食中酒と比較すると、ウイスキーは単体でも楽しみやすく、厨房設備や調理器具が最小限で済む。これにより、従来の飲食店では難しかった小規模スペースや特殊な立地条件下での出店を可能にした。


 「『あらゆる生活シーンにバー文化を』という理念のもと、お酒の美術館はバーの裾野を広げる入門編として展開している。ライト層を増やすという目的からいえば、立地戦略がうまく合致した」(長田氏)


 例えば、大阪市内にある商業施設「LINKS UMEDA」の店舗は、元々は同施設の受付だった4坪ほどのスペースをバーに転換した。「給排水は必要だが、おつまみは乾きもの中心のため調理がほぼなく、ガスを使わない。飲食は無理と思われる場所でもお酒の美術館なら営業可能」と、長田氏は強みを語る。


 駅ナカへの出店もお酒の美術館の特徴だ。会社帰りに毎日1〜2杯飲んで帰る利用客も多く、生活動線上に出店する戦略が成果を上げている。短時間での利用が可能な立地と、気軽に楽しめる価格設定が、新たな飲酒習慣を生み出しているようだ。


●ジャパニーズウイスキーがインバウンド客に人気


 増加するインバウンド需要も積極的に取り込んでいる。訪日客が多い京都では、時間帯によってインバウンド客が9割を占める店舗もあるという。背景にはジャパニーズウイスキーブームの高まりもあり、京都の店舗では特にラインアップを充実させている。


 そのほか、英語表記メニューの用意、SNSを活用した集客戦略を展開している。広告費はほぼ使わずに、SNSなどで十分にインバウンド客を呼び込めていることから、効率的なマーケティングを実践していることがうかがえる。


 一方で、急速な店舗拡大に伴い、課題もある。「売り上げがいい店舗もあれば、良くない店舗もある。FC向けの教育部分は今後も力を入れていきたい」(長田氏)


 対策として、バーテンダーの研修部隊による既存店舗へのフォローやスキルアップ施策、著名バーテンダーを招いた講演会などを行っているほか、SNS戦略のレクチャーなどにも注力している。


 お酒の美術館は、2025年8月期に160店舗の出店を計画しており、2030年に1000店舗の目標を掲げている。1000店舗というのはただの数値的な目標ではなく、同社の理念実現のための指標だという。


 「『あらゆる生活シーンにバー文化を』という理念を実現し、バーが日常生活に溶け込んだ文化とするには1000店舗規模の展開が必要不可欠」と、長田氏は事業拡大の本質を語る。今後も生活動線に紐(ひも)づいた出店戦略を継続しつつ、FCの加盟拡大を通じて、バー文化の醸成を目指していくという。


(カワブチカズキ)



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