共和党のトランプ前大統領の返り咲きで、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収の行方が一段と不透明になった。トランプ氏は選挙戦で「即座に阻止する」と繰り返してきた。ただ、「ディール(取引)」を重視するだけに条件次第で態度を変える可能性もある。当面の焦点は、安全保障上の懸念を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)がどのような判断を下すかだ。
日鉄は巨大市場の米国を世界戦略上の重点投資地域と位置付ける。買収表明後もUSスチールの製鉄所に総額27億ドル(約4100億円)の投資を行う方針を発表。買収に伴うレイオフ(一時解雇)や工場閉鎖は原則として行わないと約束し、利害関係者からの支持取り付けに奔走してきた。
日鉄によるUSスチール買収には、全米鉄鋼労組(USW)が強硬に反対。ただ、製鉄所がある米東部ペンシルベニア州の労働者には賛成の声も少なくない。10月にトランプ氏の選挙集会に参加した組合員の男性(28)は「大きな投資は地元に良いことだ」と話した。日鉄の森高弘副会長は7日の決算会見で、選挙戦終盤で買収賛成派の組合員がトランプ氏を支持したことに言及し「当然トランプ氏にも伝わっており、それ以降、否定的なコメントは出ていない」と状況変化を指摘した。
一方、CFIUSの審査の判断期限は原則、政権交代前の12月。森氏は「クローズ(買収完了)に必要なのはCFIUSと独禁審査の承認だけ。審査には期限がある」と述べ、トランプ氏就任前の年内に買収完了を目指す方針を強調した。
森氏は「何か違う大きな判断がない限り、現政権の中で年末までに判断が下されるだろう」と期待を示す。ただ、審査には「特別事態」と認めた案件にはさらに期限延長できる仕組みがあり、今後の審査に流動的な要素も残る。
日米関係に詳しいオウルズコンサルティンググループの羽生田慶介代表取締役CEOは、安保審査について「同盟国である日本からの投資に懸念を示せば、米国市場の不透明さが増し、大型投資をためらう動きが出てくる。選挙後には柔軟な判断が示される可能性もある」と指摘。その上で、「ビジネスへの影響を考えれば、トランプ氏が賛成する余地はある。ただ、米国の象徴ともいえる鉄鋼メーカーの買収という点では認めない可能性もあり、先行きは見通しづらい」と話した。