「北海道新幹線、札幌延伸はいつ?」 計画の遅れで自治体はがっかり、企業はやきもき 現地からのリポート

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2025年01月05日 06:41  ITmedia ビジネスオンライン

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北海道新幹線の現状をレポートしていく(出所:ゲッティイメージズ)

 2030年度末に札幌延伸開業を予定していた北海道新幹線は、工事の遅れが明らかになるなどして正式な開業年が不透明となっている。新幹線の延伸に合わせてまちづくりを進めようとしていた沿線自治体は、なかなか決まらない方向性に気をもんでいる。本稿では、現地から北海道新幹線の現状をお届けする。


【画像】工事が続く札幌駅西口、整備が進む札幌駅新幹線ホームなど(全5枚)


●2016年に開業も、さまざまな課題があった


 1973年、政府は全国新幹線鉄道整備法に基づき、新幹線鉄道の建設に関する整備計画を決めた。そのうちの一つに「北海道新幹線(青森〜札幌)」がある。2005年4月には工事の実施計画が認可され、着工。2016年3月26日にまず新青森〜新函館北斗区間が開業した。


 ただ、開業に至るまでには、さまざまな課題があった。例えば、貨物列車との線路共用問題だ。


 1988年に使用を開始した海底トンネル「青函トンネル」は、北海道と本州を結ぶ物流の大動脈ともいえるトンネルである。青函トンネルに北海道新幹線を通せば、貨物列車のダイヤにも影響が及ぶ。しかし、新幹線の速度を落とせば北海道から先の所要時間が増えてしまう。そのため、設計上の最高速度は260キロだが青函トンネルなどの「青函共用走行区間」では160キロ運転となっている。


 とはいえ、2024年のGW・盆の時期に合わせて青函トンネル内での260キロ運転を実施しており、本稿執筆時(2025年1月3日)では年末年始にも実施する予定だという。またJR北海道は、札幌延伸開業時には最高速度を320キロにし、東京〜札幌間を4時間30分で結ぶとしている。


 並行して話題となったのが駅の名称問題だ。新函館北斗駅が所在するのは北海道北斗市で、駅名を「新函館」とするか否かで論争となった。当初は「新函館」が仮称だったが、立地する北斗市が難色を示して「北斗駅」「北斗函館駅」などさまざまな候補が挙がった


 北海道新幹線の残り区間は、新函館北斗から札幌までの約212キロ。その区間では複数駅が開業する予定で、駅のデザイン案の選定も進む。


●開業後の経済効果は好調も……


 北海道新幹線の開業が、北海道経済に与える効果についてさまざまな試算がある。例えば、道がまとめた「北海道新幹線札幌延伸による経済波及効果調査」によると、建設工事では事業費約1兆5000億円の約1.7倍、約2兆5000億円の経済波及効果が期待されている。雇用創出効果でも約19万7000人を見込み、開業時期が早いほど税収が大きくなるとしている。


 日本政策投資銀行(DBJ)の調査では、開業初年度の経済波及効果は推計で約350億円。当初試算していた136億円の倍以上となる効果をもたらしたことが明らかとなった。


 このまま経済効果がうまく発現し、北海道新幹線が札幌に延伸した後も北海道経済が潤うことに期待があった。沿線自治体もまちづくりを通じ、まちおこしをしようとさまざまな計画を策定。並行して進んでいる工事の状況も良好なはずだった。


 ところが、想定はとん挫することになる。2021年、羊蹄トンネルで岩塊が見つかり、約2年もの間、工事が停滞した。この件について、2022年に有識者会議が報告書を公表している。


 報告書によると、2012年の着工から約10年が経過しており、着工後に生じた資材価格などの上昇、働き方改革への対応などで追加として約6450億円もの事業費が必要だという。トンネル掘削の中断などが影響し、工期が約3〜4年遅れている工区があるのも判明した。建設業界では従来から人手不足であり、加えて2024年4月から時間外労働の上限規制が開始されたことから準備に手が回らないとの懸念があったが、あらためて表出した形だ。さらに追い打ちをかけるかのように、札幌市が2030年冬季五輪の招致を断念している。


●2030年度末開業は「極めて困難」


 この5月には、鉄道・運輸機構の藤田耕三理事長が国土交通省を訪問し、国交大臣に対して「北海道新幹線新函館北斗〜札幌間の2030年度末開業は『極めて困難』」と報告した。新しい開業時期は「数年単位」で延期するとも説明。岩塊が見つかった影響などにより一部工区で遅れがあり、今後、工期短縮策を講じても2030年度末の開業は難しいとした。


 報告を受け、さまざまな反応がみられた。北海道の鈴木直道知事は「地元自治体や関係者らが一丸となって進めてきた一大プロジェクトであることを踏まえると、(一部略)われわれ地元関係者にとっては大変遺憾といわざるを得ない」などとコメントを発表。秋元克広札幌市長も「開業が遅れることになれば、まちづくりや民間投資への影響は広範・甚大だ」などと影響を危惧した。


 報告を受けて札幌市内で開いた北海道新幹線の整備に関する関係者会議でも、鉄道・運輸機構が工事の遅れと2030年度末の北海道新幹線札幌延伸開業が極めて困難になったと報告。多くのトンネルでは掘削が順調に進んでいるものの、岩塊が見つかった羊蹄トンネルなど「3つの箇所が全体工程のボトルネック」と説明。沿線自治体の首長らも、不安な胸中を明かした。一部首長からは「がっかり」との声もあった。それほど、沿線の市町村で新幹線延伸への期待が高まっていたのだ。


●再開発も中途半端な形に


 北海道新幹線の延伸を見据え、終点となる札幌駅では再開発が進む。例えば、1978年に開業し、多くの市民らに親しまれてきた札幌駅隣接の商業施設「エスタ」が2023年8月末に閉店している。ただ、この地に建設予定の再開発ビルは、資材価格や人件費の高騰が影響して完成の延期を検討している状況だ。工費が1000億円を超えることが想定されることから、再開発ビルの高さも低くなる予定である。


 北斗市も新駅周辺の整備を進めてきた。しかし、空きテナントなどもあり、駅前の区画もあまり埋まっていない。背景には新函館北斗駅ではなく、同駅から電車で15〜20分程度の函館駅に向かう観光客らが多いとの話もある。


 新函館北斗駅から札幌駅までの沿線自治体も困惑している。新小樽駅(仮称)の開業を予定している小樽市の迫俊哉市長は、5月の定例会見で「北海道新幹線の開業効果は、札幌まで延伸されて初めて享受できる。その効果が発揮されるのが先送りになることは、少なからず各沿線自治体にも影響があるものと思っている。まちづくりの関係もあるため、できるだけ早い時期に開業時期を示してほしいという要望活動を重ねていきたい」などと述べた上で、開業時期に合わせて再開発を進める考えを示した。新小樽駅(仮称)と小樽駅は約4キロ離れており、市は「天神地区交通戦略案」で新しいバス路線を検討するなどの動きがある。


 新八雲駅(仮称)の周辺整備計画では、今後の人口減少なども踏まえて必要な機能をコンパクトに整備、農業に配慮し寄与するという方針だった。計画では現状の約5%となる約4.1万人の観光客増加、新八雲(仮称)〜札幌間の定期利用が2倍に増えることを見込んでいた。


 このように、札幌延伸の延期によって、さまざまな影響が及んでいる。一部報道では、2025年1月をめどに札幌延伸開業の新たな目標を設定するために調整が進んでいるとの話もある。ただ本稿執筆時点(2025年1月3日)で、将来の開業時期は明らかになっていない。国交省の有識者会議も議論を続けているが、将来の開業目標は「早急の開業」としているのみだ。札幌延伸開業の延期は、沿線自治体、そして北海道にも大きな影響を及ぼしている。


著者プロフィール


小林英介


1996年北海道滝川市生まれ、札幌市在住。ライター・記者。北海道を中心として、社会問題や企業・団体等の不祥事、交通問題、ビジネスなどについて取材。阪神タイガースをこよなく愛しており、体は酒でできている。「酒はライフラインだ」を合言葉に、道内や東京などで居酒屋めぐりをするのがライフワーク。



このニュースに関するつぶやき

  • 飛行機があるからエエじゃんとの声もありそうやが、飛行機と新幹線では輸送力に差があるし、冬場の天候を考えると新幹線が有利。首都圏でも北の方だと羽田行くより有利みたいやし。
    • イイネ!12
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