脱「牛丼一本足」進める吉野家 カレー、から揚げ、おにぎり、ラーメン、どこまで広がる?

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2025年01月27日 11:41  ITmedia ビジネスオンライン

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吉野家HDの行方は?

 吉野家ホールディングス(HD)が、牛丼以外にカレー、から揚げ、ラーメンなどのブランド育成を本格化している。2024年12月には、東京・浅草に、カレー専門店「もう〜とりこ」1号店をオープン。インバウンドの観光客も多い場所だ。同月には、横浜市にから揚げとおにぎりの専門店「でいから」の1号店もオープンしている。


【画像】めっちゃおいしそう! 吉野家HDがオープンしたカレー専門店のカレーと、から揚げ専門店の定食を食べてみた(全6枚)


 いずれも吉野家の跡地であり、カレーは都市型、から揚げは郊外ロードサイド型とそれぞれ異なる立地でスタートした。カレーとから揚げは、ともに吉野家で提供しているメニューだが、専門店ではさらにブラッシュアップして、ブランディングしている。


 広報によれば、「いずれも、順調なスタートを切っている」とのこと。まだオープンしたばかりだが、実際に訪問した感想としても同様の印象を持った。


 吉野家HDは2024年12月に、京都の鶏白湯ラーメン店「キラメキノトリ」などを運営する、キラメキノ未来も買収。傘下のスターティングオーバーでも、同月に肉あんかけ炒飯専門店「炒王」と、カレーうどん専門店「千吉」、親子丼など鶏料理専門店「鶏千」の3業態複合店を、千葉県佐倉市にオープン。はなまるも1月に本社を創業の地である香川・高松に移すなど、新たな動きが多い。


 吉野家HDの担当者は「ホールディングスで進めたわけでなく、たまたま傘下の各社がほぼ時を同じくして、新しいチャレンジを行った」とのこと。牛丼依存からの脱却が急務と、全社的に危機感が共有されている表れのように見える。強固なブランド力を持つ牛丼のパイオニア、吉野家HDに何が起きているのか。取材した。


●値上げしたのに「増収減益」


 吉野家HDの2025年2月期第3四半期決算は、売上高が1517億5100万円(前年同期比9.3%増)、経常利益が62億5600万円(同4.8%減)で、売り上げ自体は好調だ。にもかかわらず減益となっており、営業利益も前年同期比で7.0%減。


 セグメント別では、吉野家の売上高は、1021億900万円(同9.2%増)、利益が57億900万円(同2.8%減)。主力の吉野家ですら増収減益の状況だ。2024年7月に牛丼(並盛)の価格を店内飲食で468円から498円に値上げしたが、売り上げ面では影響を受けてないようだ。一方で減益となったのは、顧客離れを恐れてワンコイン以内に収める値上げにとどめため、コスト高を吸収しきれなかった可能性が高い。


●から揚げにダチョウ 牛からの分散を進めてきた


 吉野家は牛丼で使う肉について、秘伝のたれに合う米国産のバラ肉にこだわっている。このこだわりの強さが、競合のすき家や松屋と比べても熱烈なファンを持つゆえんでもあるだろう。一方、すき家では牛丼(並盛)が450円、松屋では牛めし(並盛)が430円で、吉野家の割高感は否めない。


 近年、米国産牛の値上げはすさまじい。日本食肉流通センターが発表した「最近の食肉をめぐる状況」(2024年3月報告)によれば、2020年1月を起点(100)としたUSチルドショートプレート(トモバラ)の価格指数(首都圏)は、2021年10月に160近くに上昇。


 一時的に落ち着くものの、円安の影響で2023年10月には再び160辺りまで上昇している。吉野家としてみれば、利益を出すために、これ以上の値上げが難しい牛丼以外の商品をなるべく売っていきたい状況だろう。


 振り返れば、既に2022年から牛丼に並ぶ第2の主力商品にから揚げを位置付け、宣伝にも力を入れてきた。そうした“畜種分散”の一環として、傘下のSPEEDIA(スピーディア)という会社では「オーストリッチ」、すなわちダチョウの飼育、商品開発に着手。店舗限定だが、2024年8月に「オーストリッチ丼」を約6万食を上限として販売した。


 カレーにも本格的に力を入れてきた。1月16日から、東京・大久保の行列が絶えない人気カレー店「SPYCY CURRY 魯珈」が監修した、「牛魯珈カレー」(729円)、「肉だく牛魯珈カレー」(839円)を期間限定で販売している。魯珈といえば、大手チェーンとのコラボ実績が豊富な有名店。従来の吉野家のカレーと違う、専門性の高いスパイスカレーのメニューだ。


●はなまるの本社移転は、値上げへの対応か


 はなまるは、セグメント売上高が231億9000万円(同5.8%増)、セグメント利益は18億4100万円(同27.7%増)と好調だ。期末の店舗数は418店で、トップを走る丸亀製麺にはダブルスコアを付けられているが、決して不振なわけではない。


 1月23日に値上げを行い、かけ(小)の価格は330円から360円に、かけ(中)は520円で、ワンコインを超えた。小麦や食用油の価格高騰を受けて4年連続の値上げとなるが、これまで幸いにも値上げによる売上減は起こっていなかった。


 しかし、かけ(小)はコロナ前の2倍となっており、さすがにここまで値段が上がると、顧客を納得させる新たなるストーリーが必要になってきた。そういった理由で、香川・高松へ本社移転したのではないか。


 業界のトップである丸亀製麺は「讃岐うどん」の代表ブランドとされるが、本場である香川県の店舗は1店にとどまる。丸亀市内に店舗はなく「心の本店」と称する研修施設を、2024年11月に離島の讃岐広島に設けた。対して、はなまるは本社を、高松市内に移した。


 はなまるには「サラダうどん」、期間限定の「ごま担々」など、他店にないユニークな商品もある。それにプラスして、本社移転で打ち出した「おいでまい!さぬきプロジェクト」によって、いかに香川色を出していくか。高くても、通いたくなる店づくりに期待したい。


●海外事業が特に足を引っ張った


 吉野家HD全体へ話を戻すと、増収減益の大きな理由は海外事業の不振だろう。


 セグメント売上高は211億2700万円(同4.7%増)と増収だったが、セグメント利益は11億4900万円(同34.9%減)と大幅な減益。特に米国・カリフォルニア州と中国の不況が影響しており、店舗数も期中に10店舗減少となった。


 吉野家HDとして、海外事業の立て直しは急務であり、海外・インバウンドに人気が高いラーメンの強化に余念がない。そうした中で、 先述したキラメキノ未来のM&Aを行った。


●「ココイチ」が君臨するカレーは立地勝負か


 これまでも吉野家HDは「せたが屋」「ひるがお」で知られる、せたが屋を2017年に買収し、2019年にも「とりの助」「風雲丸」などを展開するウィズリンクを買収している。ラーメン店向けの麺やスープ、タレなどを製造販売する宝産業も2024年5月に買収し、M&Aを駆使して第3の柱に育成する方針だ。


 バブル崩壊以降、ずっと続いてきた日本のデフレ経済の中で、低価格路線で勝ってきたのが吉野家HDだった。牛丼(並盛)の価格は、2012年に一部店舗では250円とかなり安かった。はなまるのかけ(小)にいたっては、同時期105円である。


 それが今や、牛肉に米、小麦、食用油など食材価格が高騰。人件費・エネルギー価格も高止まりしているが、牛丼やかけうどんの価格を上げ過ぎると、顧客離れが懸念される。そこで、1000円前後の顧客単価が取れるカレーやから揚げの専門店に至ったのである。


 そのうち「もう〜とりこ」では「ビーフカレー」(858円)、「スパイシービーフカレー」(858円)、「バタービーフカレー」(913円)と3種類のカレーを提供し、トッピングも充実させた。ライスは300グラムが基本で、200グラムなら110円引き、増量に応じて価格が上がり、1000グラムまで可能とした。


 浅草という立地だけに、インバウンドの顧客が多く、海外の人にとっては格安の値段だろう。同じようにインバウンドに強い、大阪のミナミなどでは問題なく展開できるはずだ。いうまでもなく、カレー業界では絶対王者の「ココイチ」が存在する。まともに勝負していては勝てないことから、立地を選んで出店していくことになるだろう。


●「エブリデイから揚げ」を標ぼうする、でいから


 一方の「でいから」は、“エブリデイから揚げ”が由来であり、毎日食べても飽きないから揚げを目指したという。コロナ禍で起こったから揚げブームは、既に終焉(しゅうえん)している。そこで、吉野家では一計を案じ、今ブームのおにぎりと組み合わせた。


 遠目からも目立つ赤い外観の店内に入ると、レジ前のケースにおにぎりが並んでおり、テークアウトで購入でき、ドライブスルーにも対応する。メニューは、から揚げ定食が基本で、から揚げは4個が基本。3個なら110円引き、最大で6個まで増量でき、220円追加となる。定食はご飯の大盛に加えて「昔話盛」が無料サービスで、通常の2.5倍ある昔話盛ならたくさん食べる人も満足できるだろう。


 おにぎりは、1個の最低価格が253円。「から揚げ専用おにぎり」「悪魔のおにぎり」などユニークなものもある。その他、143円の小鉢も9種類販売する。


 顧客層は広いようで、平日は男性、休日はファミリー、テークアウトは女性が多い。


 以上、吉野家HDで進む、「500円の壁」を破れるメニューと業態の多様化をまとめた。こうしてみると、競合も多く前途多難だ。しかし、既に1社でフードコートを編成できるほどの多種多様な業態があり、他社との差別化の観点から、今後はフードコートをまるごと請け負う出店もあるかもしれない。


(長浜淳之介)



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  • 100%大ゴケして牛丼屋の方まで経ちいかなくなるに100万ペソ
    • イイネ!11
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