羽生結弦「自分の心と正義を信じてまっすぐ進んでいきたい」単独ツアー完走で得たもの

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2025年02月10日 16:21  webスポルティーバ

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【千秋楽で高難度構成をノーミス】

 羽生結弦のアイスショー「Yuzuru Hanyu ICE STORY 3rd "Echoes of Life" TOUR」が2月9日、千葉・ららアリーナ東京ベイで千秋楽を迎えた。昨年12月7日の30歳の誕生日に横浜で開幕し、3都市7公演を完走した羽生は、「とにかく頑張ったなということと、このアイスストーリーには本当に類を見ないぐらい多くの方々が関わってくださって。感謝の気持ちでいっぱいです」と語った。

 廃墟になった世界にただひとり誕生した主人公の「Nova」が、命や生きることの意味を探求する旅を続けるという、自ら執筆したストーリー。公演後、「これ以上ないなという出来で締めることができた」と本人が話した千秋楽の演技への思いの強さは、オープニングの『First Pulse』の力強い滑りから感じられた。

 ショー前半の最大の見せ場は、氷上に長時間とどまってピアノコレクション5曲を踊り、『バラード第1番ト短調』へ続く構成。言葉が五線譜に描かれた音符となって流れるプロジェクションマッピングのなかでの滑りだ。3曲目の『Keyboard Sonata in D Minor,K.141』では、4回転トーループとトリプルアクセルをきれいに決めた。

 そして『バラード第1番ト短調』は、プログラム後半にトリプルアクセルと連続ジャンプを持ってくる難しい構成で、運命を信じたいという気持ちを表現した。

「本当に最初からかなり苦戦をして、ショートプログラムの旧採点ルールでの後半に2回ジャンプを跳ぶ。それがトリプルアクセルと4回転+3回転だということの難しさをあらためて感じました。フリーとはまた違う緊張感。回復する余地がないのがショートプログラムの特徴で非常にいろんなものが詰まっているからこそ、フリーよりも難しいんだなということを、今回ツアーを通して感じました。

 さらに、ピアノ曲の前までに4曲やっていて、すでにつらいなと思いながら出ていく難しさ。僕の希望で照明つきにしてもらいましたが、会場によってリンクサイズが変わるということもあって非常に調整は難しかったですが、本当に製氷の職人さんも含めて皆さんが一生懸命やってくださったおかげでなんとかできました」

 こう話す演技は、最初の4回転サルコウをきれいに決めたあと、2本のスピンを滑ってからトリプルアクセルを決める。そして最後には4回転トーループ+3回転トーループもしっかり決めるノーミスの滑りと、底力を見せるものだった。

【みんな生きて......さまざまな祈りを込めた舞】

 そして羽生の集中力は、30分間の製氷休憩を挟んだあとの後半にはさらにヒートアップする。「憎悪たちに、自分の正義を見せる」と決意した戦い。

 氷上に映し出された水面のような光景のなかで、生命の誕生を予感させる優しい滑りの『アクアの旅路(Piano Solo Ver.)』。毎日を生きたいという思いのなかで踊る『Eclipse/blue』。そして命を探して疾走し続ける表現の『GATE OF STEINER-Aesthetics on Ice』は、狂おしささえ感じさせる力強さだった。

 そして、『Danny Boy』の印象は強烈だった。

「ストーリーとしてあのシーンは、あの世界で生命がほとんどなくなってしまったなかにやっと芽吹きが与えられることに気がつき始めるところ。自分の周りに命が宿っていくことへの祈りというか、その一つひとつの命がどうか育ってくれますように。みんな生きてくれるようにっていうことへの祈りが、Novaとしては一番強かった。最後は『みんな生きて』と言っていました」

 その踊りは、平安というより清冽(せいれつ)だった。澄みきった心で静かに滑り続ける舞のような......。その静謐な空気で見ている側の心も洗われていった。

「もう必死でしたね。とにかく全身で祈るというイメージでずっと滑っていました。その祈りが『Danny Boy』の原点にある死者への弔いという意味の祈りもあるし、ここに来てくださっている会場の皆さんの希望への祈りであったり。僕自身の個人的な幸せへの祈りだったり、スタッフへの祈りだったとか。本当にもうごっちゃにいろんなものが混ざってしまってはいるんですけど、すべてを一緒くたにして、音とともに祈るという気持ちでただひたすら祈っていました」

【自分の心と正義を信じてまっすぐ】

 7回の公演を通して完成させたストーリー。そこで得た思いとは。

「この物語を執筆して、実際ツアーを完走して自分自身の考えが深まったことがひとつだけど、未来なんて誰にもわかんないなということが、このツアーを滑りながら自分の心のなかに一番残ったものです。それは北京オリンピックもそうでしたけど、どんなに努力しても報われないなって思うこともあるし、どんなに一日一善をしてどんなにいいことを繰り返していたとしても不幸なことが起こってしまうのが未来だし。だからこそ簡単に、こんな生きざまとは言えないんですけど。でも生きている今をまっすぐ、自分の心と自分の正義を信じてまっすぐ進んでいきたいなっていう気持ちです」

 そして公演を経て、成長の手ごたえも得たという。

「新しいトレーニングもまた始めてみました。可動域を広げるとか、単純に柔軟性を上げるというだけではなく、使える体の動きとリカバリーをどれだけ早くできるかということ。それに自分の特徴であるしなやかさ、美しさみたいなものの磨き方みたいなことを広島公演の直前くらいから練習し始めているけど、それがやっと今回はまとまってくれたなっていう感覚です。なので、これからまたどんどん変わっていけるんだなという感触が、実感として今はあります」

 心も体も頭脳もすべてしぼり尽くすようにしてつくり上げた羽生結弦のアイスストーリー。羽生はさらなる進化を、見ている人たちに約束してくれた。

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