「着物買い取り」のCM見るけど「着物は何世代も着られます」、お悩み解決の「悉皆(しっかい)」の仕事とは

28

2025年02月10日 17:10  まいどなニュース

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

まいどなニュース

右側の着物の色を抜き、左側の柄に染め直した着物(京都市中京区・新染苑廣田)

 「社会的に日の浴びることが少ない着物の悉皆(しっかい)を取り上げていただけないか」。京都新聞の双方向型報道「読者に応える」に投稿が寄せられた。「悉皆」といえば和装に関わる京都ならではの産業というのは分かるものの、具体的なイメージは湧きにくい。悉皆業を家業とする投稿者を訪ねた。

【写真】加工を終えた反物

 投稿を寄せたのは新染苑廣田(中京区)の廣田理也子さん(30)。昨年6月に東京の広告代理店を辞めて京都に戻った。現在は家業を継承すべく「見習い」として勉強中だという。「悉皆という着物のお悩みを解決する仕事を知ってほしい」という思いから投稿したという。

 「広辞苑」には「悉皆屋」の項目があり、江戸時代に大坂から京都に衣服を送り調製したという歴史を紹介した上で「染め替えや洗張りなど着物の手入れ・仕立て直し・調達をする店」と記す。理也子さんの父・英一さん(74)が現代の悉皆業を、さまざまな着物や布地などを広げて説明する。

 例えば染みがついた着物が販売店を通じて持ち込まれた場合。染み抜きをするか、その染み部分に刺しゅうをするか、染み部分を隠すような新たな柄を染めるか―などいくつもの解決法が存在する。「予算をいくらぐらいでお考えですか、と聞きながら提案します」と英一さんは語る。

 すると「着物と着物で新たな着物もできますよ」と理也子さんが言葉を継いだ。「おじいさんのとおばあさんの着物を半分ずつつないで新たな着物をつくることができます」と英一さん。もちろん、この場合も色の染め直しが可能という。

 悉皆業はこれらの作業を自社でするわけではない。それぞれの工程を取引先の職人に発注するのだ。英一さんは「着物をほどく人、色を抜く人。そのほか、染める作業にも蒸しの工程の人、色止めなどさまざまな仕事があり、いろんな職人が携わっています。『あそこは今忙しいな』とか『今度あの職人のところは入学式やから今はやめておこう』とか考えて発注します」と明かす。

 つまり顧客の予算と、60カ所以上ある取引先の技術や仕事の空き状況などを迅速に考え、現実的な着物トラブルの最適解を即座に客に提案するのが悉皆業の大事な仕事だという。「われわれの仕事は『引き出し』の多さが大事なんです」(英一さん)。

 こうした「お悩み解決」だけではなく、完全にオーダーメードで客の要望に応じて白生地から柄や色を決めて着物を仕立てることもしているという。「悉皆」の文字通り「着物に関する仕事全て」が対象となるようだ。

 さらに作業場を見学した。作業場には加工を終えたという反物が段になって積まれていた。それぞれの反物には「渋札」と呼ばれる札が取り付けられている。この渋札には草津市特産のアオバナ由来の「インク」を用いたペンを使って客の名前や加工内容などの情報が書かれる。

 現在はこうした反物や注文を受けた着物を包装し宅配便でやりとりしている。しかし「何十年も前は預かった品物を自転車に載せて、職人から職人へと京都市内を回ってたんです。父親は『悉皆業は運送業みたいなものや』と言ってました」と英一さんは懐かしむ。

 悉皆業者が加盟する京染卸商業組合(中京区)によると、悉皆業者は戦前には1000近くあったが、現在加盟は56社(2024年4月1日現在)という。

 英一さんは「25年ほど前から京都でも廃業が相次いだ」と解説する。

 現在ではテレビで「着物の買い取り」をうたう広告をよく見る。一方で成人式には新たな着物を購入してもらったという若者のニュースも見かける。一部で着物をリサイクルしたりリメークしたりする動きはあるものの、古い着物は買い取り業者へと流れる。対照的に新たな着物が多く販売されているのが昨今の着物流通の主流のようだ。

 理也子さんは「古い着物でも悉皆業に依頼してもらえば、何世代にもわたって着られます。ぜひ悉皆業を知ってもらって、もっと多くの人に着物を着てもらいたい」と意気込む。

(まいどなニュース/京都新聞・浅井 佳穂)

動画・画像が表示されない場合はこちら

このニュースに関するつぶやき

  • 実家に母の花嫁道具の着物が沢山あるけど50年程昔の着物で保存状態も良くないので終活の一環で捨てるみたい。私に譲られても管理できないし困るし、着物はレンタルが一番だよ…
    • イイネ!1
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(18件)

ランキングトレンド

ニュース設定