田中将大投手 公式インスタグラムより引用 昨季オフに楽天を退団し、一時は現役続行の危機も囁かれた田中将大。しかし、年の瀬が迫った昨年12月24日に巨人と電撃契約を結び、ファンを驚かせた。
36歳にして国内で初めて楽天以外のユニホームを身に着けた田中だが、1日に始まった春季キャンプでは久保康生巡回投手コーチと二人三脚で投球フォームの改造に取り組んでいる。
◆久保コーチの手腕で“マー君再生”なるか
久保コーチといえば、昨季、巨人が4年ぶりのリーグ制覇を遂げた陰の立役者とも呼ばれる人物だ。近年不振に陥っていた菅野智之を完全復活に導いたからだが、その裏にはやはりフォーム改造があった。
その菅野は昨季、15勝3敗、防御率1.67と大車輪の活躍を見せ、自身2度目のリーグMVPを受賞。今季もエース格としての活躍が期待されたが、昨季オフにメジャー挑戦を表明すると、オリオールズと契約を結び、今季は夢の舞台でマウンドに登ることになる。
久保コーチはそんな菅野の“復活ストーリー”を描いた敏腕だけに、「次はマー君再生を」と願うファンの思いは当然だろう。
春季キャンプ入りと同時に、久保コーチのマンツーマン指導が早速スタート。当初はフォーム固めに取り組んでいた田中だが、3日目にして急遽ブルペン入りすると投球の様子がSNSなどを通じて拡散された。すると、多くのファンから共通の反応があった。
「菅野とフォームそっくり」「マー君のフォームが完全に菅野で歓喜」「菅野はメジャーに行かなかったのね」
投球動作に入る前の腕の位置や、左足を上げるまでの動きが菅野のそれとそっくりだったのだ。
◆久保コーチの改造は「再びできるようにする」
“魔改造”と称される久保コーチの手腕に対して、巨人ファンからは期待の声が日に日に高まっているのだが……。某球団のスコアラーはこう指摘する。
「久保コーチの指導は別に魔改造でもなんでもなくて、できていたことを再びできるように戻すだけのこと。改造というと新しく作り直すイメージがあるがそうではありません。キャンプではマウンドの傾斜を逆に使った練習を行っていましたが、これは(左足の)着地点を短くすることで上から叩く感覚を養うためでしょう。要は横振りになっていた腕を縦振りに修正するために行っていると思われます」(某スコアラー、以下同)
実際に過去の田中の投球フォームを時系列で確認したが、高校時代はまさに真上から投げ下ろす縦振りだった。楽天での全盛期もほぼ変わらなかったが、年を追うごとに腕の角度が下がり、近年はスリークオーターに近づいていることがわかる。やはり、かつてのように切れのある速球を投げるには、できるだけ縦振りに近いフォームが理想なのだろう。
◆「ツーシームの投げ方」もポイントに
ただ仮に矯正に成功したとしても、ある球種がそれを阻害する可能性があるという。
「ツーシームの投げ方がポイントになりそう。実は昨年の夏場以降、ファーム(二軍)でツーシームを多投していました。右打者の胸元をえぐる生命線ともいえる球種です。効果的なツーシームを投げることができれば、伝家の宝刀スライダーや落ちる球も生きますからね。ただ、曲げたいという意識が強くなりすぎると、腕が横振りに戻ってしまう可能性が高い。そうなると、魔改造は頓挫ということにもなりかねない。春季キャンプのキーワードが横振りから縦振りへの改造だとすれば、ツーシームはそれを一瞬で壊してしまってもおかしくありません」
◆もう一つの“復活のカギ”
菅野を完全復活に導いた久保コーチなら、そんな心配もなさそうだが、田中にはもう一つの懸念事項もあるようだ。
「一昨年(23年)と昨年(24年)の田中の体を比べてもらうと分かりますが、そもそも昨年は加齢によるものなのか、体重増もあって体が回らなくなっていました。今季も体重面は要チェックですね」
キャンプに現れた田中の姿を見る限り、昨年に比べるとかなりシェープアップしているようにも映るが、年齢を考えれば、体の切れをどこまで取り戻せるかも重要なポイントとなりそうだ。
「田中はタイプ的にあまり器用ではない方。似たような矯正をした菅野と同列で比較するのは危険かもしれません」
◆過度な期待は禁物だが…
前年4勝から11勝を上積みした菅野に対して、そもそも田中は昨季一軍で1試合しか投げていない。残り3勝に迫った日米通算200勝だけでなく、自身6年ぶりとなるシーズン二桁勝利にも期待したくはなるが、過度な期待は禁物といったところか。
プロ18年目にして初のシーズン未勝利という屈辱を味わった田中。新天地で迎える今季は華麗な巻き返しを見せられるのか。フォーム改造の成否、つまり“神の子”マー君が今季復活できるかどうかのカギは「ツーシーム」と「体重管理」の2つということになりそうだ。
文/八木遊(やぎ・ゆう)
【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。