大谷翔平「MLB東京シリーズ」を独占生配信 Prime Videoがスポーツを強化する狙い

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2025年03月02日 10:40  ITmedia ビジネスオンライン

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大谷翔平「東京シリーズ」を独占ライブ配信

 地上波テレビ、有料放送、インターネット配信……メディアは変われど、スポーツ中継はいつの時代もキラーコンテンツだ。国を問わず、視聴率や会員獲得のための強力な手段となる。AmazonのPrime Video(プライム・ビデオ)は2月19日に記者会見を開き、野球やバスケットボールを軸に2025年のスポーツ配信を強化すると発表した。


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 プライム・ビデオのジャパンコンテンツ事業本部の石橋陽輔本部長に、その意図をインタビューした。


●「会員増のためにスポーツは重要」 なぜMLBとNBA?


 プライム・ビデオは3月18日、19日のメジャーリーグ(MLB)のシカゴ・カブス対ロサンゼルス・ドジャースの日本開幕戦「東京シリーズ」を、地上波以外で独占ライブ配信する。加えて「MLB 2025レギュラーシーズン」と題して、日本人選手が出場する試合を毎週末に2試合、年間54試合を、スポーツ配信サービス「SPOTV JAPAN」と新たに開設した「SPOTV」チャンネル内でライブ配信するという。これは、プライム会員であれば追加料金なしで視聴できるようにした。


 米国のバスケットボールリーグNBAについても2025〜26シーズンから11シーズンにわたって配信することも発表。レギュラーシーズンで60試合以上、プレイオフの試合などを配信する。別途料金で全チームの試合を全て視聴できる「NBA League Pass」も利用可能にした。


 ソーシャルメディアのXには「Prime Video Sport JP」(プライムビデオスポーツ)のアカウントを開設。プライム・ビデオで配信するスポーツコンテンツの情報提供やプレゼントのキャンペーンなどを展開していくという。


 プライム・ビデオが日本でスポーツ配信ビジネスに本格参入したのは、2022年4月に開催されたゲンナジー・ゴロフキンと村田諒太のボクシングのミドル級王座統一戦からだ。それを機に、ボクシング配信に力を入れ、野球では2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)中継などを手掛けてきた。プライム・ビデオはスポーツコンテンツをどう位置付けているのか。石橋本部長は「スポーツ以外の分野を私たちは『通常のセレクション』と呼んでいますが、アニメ、邦画などのコンテンツを好む視聴者とは異なる、全く新しい顧客を開拓できるのが、スポーツです」と話す。


 プライム・ビデオとしては、スポーツコンテンツを、プライム会員獲得のための手段として考えているのか。「結果的にそうなるかもしれません。しかし、われわれはお客さまのニーズを捉え、利便性を上げ、通常のセレクションでもコンテンツ量をたくさん増やすことを中心として、サービスを提供しています」


 なぜ野球を強化し、NBAを配信するのかと聞くと「答えはシンプルです。当社は、日本のお客さまが何を求めているかを常に考えているからです」と答える。「WBCもボクシングもそうでした。国民が応援したくなる選手……例えばMLBなら大谷翔平選手、NBAなら河村勇輝選手などがいます。日本のお客さまが日本人のスター選手を応援したいという気持ちは、肌で感じていますので、少しでもその期待に応えようということです」


 バスケは、米Amazon本社がNBAの試合の放映権について11年契約を770億ドルで締結した。日本でもバスケは、漫画『SLAM DUNK』(スラムダンク)映画化した『THE FIRST SLAM DUNK』のヒットや、Bリーグの人気上昇に加え、パリ五輪の出場をかけた男子ワールドカップなども相まって大いに盛り上がっている。


 野球とバスケの違いについては、どう捉えているのか。「両スポーツとも日本人を応援したいのは同じです。ただ、バスケットのファンは年齢層が若い。その点が異なります」。NBAの調査によると、日本でバスケを見る人の平均年齢は22歳。将来を見据えると、年齢層が若いことは、11年契約と相まって大きな利点となりそうだ。


 NBAには、もう1つ別な強みもあるという。「会見でNBA Japanの渡邉和史GMも話していましたが、試合以外のオフコートの部分です。選手がタレント化し、ポップカルチャーをけん引できるのです。彼らと一緒になってファンコミュニティーを作っていける点には、大きな価値があります」


●ニーズが下がってもすぐ配信をやめることはない


 記者会見では、スポーツを見る視聴者は、ほかのコンテンツを見る視聴者とは傾向が異なると説明していた。どんな傾向があるのかを詳しく聞くと「まず、スポーツならではなのは、勝ち負けがあることです。そのため、『今、見たい』という需要が強いのです」と話す。


 これまで中継は地上波が中心で、試合のある時間帯に視聴者は家にいる必要があった。だが、配信は場所を問わないことが強みだ。「WBCで顕著だったのは、スマートフォンなどの視聴デバイスが普及していたので、家の外で試聴された点です。これが最たる例です。つまり配信は、お客さまのニーズに応えられているのです」


 スポーツファンの一定数は、映画やアニメには関心がなく、スポーツしか観戦しないという傾向も出ているという。彼らを引きつけるため、スポーツコンテンツ用のXを立ち上げた。「スポーツだけが見たいという方もたくさんいると話しましたが、そこには熱量の高い大きなコミュニティーがあると考えています。彼らにタイムリーな情報を届けて、配信を見逃さないようにし、皆さんの期待に応えられるコミュニティー作りをしたい。これが大きな狙いです」。


 実は、アニメでも同じようなことをすでに試していて、それをスポーツで応用するのだという。


 ゴロフキン対村田をきっかけに配信業界ではLemino、U-NEXT、ABEMAなどがこぞって格闘技配信に力を入れ始めた。地上波のように配信権の獲得競争が始まった形だ。プライム・ビデオが顧客のニーズを第一とするならば、もし格闘技の人気が下火になり、異なるスポーツの重要が高まれば、そちらにシフトするのか。「『人気がなくなった』の定義にもよりますが、急にやめることは、視聴者を不幸にしますので、そこはバランスを考えます。ただ、異なる大きな需要があるのであれば模索していきます。『どらちか?』という形にはなりません」


 では、競合他社をどう見ているのか? 「よく聞かれます(笑)。競争は激しいですが、参戦者が多くなれば、その分だけスポーツが盛り上がることにつながります。繰り返しますが、お客さまの求めているものが何かを第一に考え、その上で、競合他社と共存できるのであれば、問題ありません。WBCでは地上波と共存して、一緒に盛り上げられましたから」


●課金の在り方とは?


 プライム・ビデオでのスポーツコンテンツは、月額600円のプライム会員になれば、追加料金なしでほとんどの番組を見られるようにしている。より収益性を高めるのであれば、会員の有無にかかわらず、本当に素晴らしい試合だけに課金するペイパービュー(PPV)を採用する方法もあるだろう。


 「試合ごとに観戦するPPVと、NBA League Passのような追加のサブスクリプションで言えば、ニッチなスポーツは追加のサブスクリプションにフィット感があります。ファン層がより幅広い野球なら、プライム・ビデオのような定額配信が良いでしょう。例えば米国では、ボクシングのメインイベントだけをPPVにするという手法もあります。私たちが考えていないと言うとうそになりますが、現時点で発表するものはないです」


 とくにPPVについては慎重な考えのようだ。「私たちは、ボクシングのファンダムを大きくしていきたいですし、野球なら一緒により盛り上げたいです。PPVの方が、経済的合理性は高いのですが、世界が閉じる形になるので、それはスポーツ全体にとって本当にいいのか? ということです」


 実際に客の声(VOC)を聞く仕組みはどう作っているのか。「ここは絶えずいろんな形で実施しています。カスタマーサービスセンターから直接吸い上げられますし、ソーシャルメディアのアカウントからも生の意見が聞けます。各種のデータからも分かりますし、いろんな調査もしています」


 日本のコンテンツ事業のトップとして、プライム・ビデオをどのようにしていきたいと考えているのか。「今はスポーツが大きな戦略の柱になっていますが、2、3年先、5年先に何が求められるのかを常に考えています。今後はもっとジャンルを広げていきたいと思いますが、これまでと同様に、多種多様なニーズに応えるコンテンツを提供してきたいです」


●「誠実に、清らかに」


 石橋本部長は「仕事で常に心掛けているのは『誠実に、清らかに』です。お客さまだけでなく、自分のチームメンバーにとっても、正しいことを誠実に清らかにやることです」と話していた。インタビュー中も、質問に対して誠実に答えてくれた印象がある。「お客さまが求めているものを」という回答が何度も返ってきた。


 誠実な姿勢でコンテンツを提供し続けることが、競争を勝ち抜く1つのカギとなる。それが最終的にプライム会員の増加につながっていきそうだ。


(武田信晃、アイティメディア今野大一)



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